第六話 証明の在り方
扉が閉じた。
重い音が室内に響いた。
七人の参加者は、しばらくその場から動かなかった。
部屋はこれまでのゲーム会場とは違い、余計な装飾がほとんどなかった。壁も床も無機質な灰色で、中央には七つの机が等間隔に並んでいる。
机の上には端末と一枚のカード。
正面の壁には、大型モニターが設置されていた。
PLAYER 09が部屋を見回す。
「今度はずいぶん静かな場所だな」
「静かな方がいいとは限りませんよ」
PLAYER 10が答えた。
彼女は机の上のカードを手に取り、表面を確認している。
PLAYER 11は何も言わず、部屋の隅にある小さなカメラを見ていた。
やがて、モニターに文字が浮かび上がった。
《第四ゲーム》
《証明》
続いて、ルールが表示される。
《各参加者には異なる問題が与えられます》
《制限時間内に解答を端末へ入力してください》
《解答の提出後、指定された参加者から質問を受けます》
《質問に対し、解答に至った根拠を説明してください》
《説明が成立した場合、通過となります》
《説明が成立しない場合、脱落となります》
《提出後の解答変更は認められません》
《質問への回答を拒否することはできません》
《制限時間 二十分》
説明が終わると、モニターの表示が消えた。
PLAYER 06がカードを裏返した。
「問題を解くだけじゃないのかよ」
「答えを出すだけでは通過できない、ということでしょうね」
PLAYER 10が言った。
「正解したとしても、説明できなければ失格ということか」
PLAYER 09はルールを確認するように言葉を繰り返した。
「そう考えるのが自然だろうな」
PLAYER 11は自分のカードを机に置いた。
PLAYER 04はすでに問題を読み始めていた。
PLAYER 07もカードを手に取る。
そこには、短い文章と複数の条件が記されていた。
数字を扱うもの、順序を整理するもの、いくつかの情報から答えを導くもの。
問題の形式はそれぞれ異なるようだった。
PLAYER 07は一度、カードから目を離した。
このゲームで求められているのは、単純な正解ではない。
自分が何を根拠に答えを選んだのか。
その過程を、他人に伝えられるかどうか。
答えだけを覚えていても、質問を受ければ行き詰まる。
「制限時間は二十分か」
PLAYER 09がモニターを見ながら言った。
「問題を解く時間と、説明を考える時間を分けた方がよさそうですね」
PLAYER 10が答える。
「まずは自分の問題に集中するべきだ」
PLAYER 11が短く言った。
その言葉を最後に、全員がカードへ視線を戻した。
カウントダウンが始まる。
最初に動いたのはPLAYER 09だった。
カードの条件を一つずつ確認し、端末の入力欄に数字を打ち込んでいく。
途中で手を止めることはあったが、迷っている様子はなかった。
PLAYER 10はカードの余白に小さく書き込みをしていた。
何度か条件を読み直し、別の可能性を確かめている。
PLAYER 04はほとんど動かない。
ただ、カードを見つめる目だけがわずかに動いていた。
一方、PLAYER 06は何度もカードと端末を見比べていた。
「くそ……」
小さく声が漏れる。
PLAYER 07は自分の問題を解きながら、周囲の様子を見ていた。
誰もが違う方法で考えている。
同じ問題を解いているわけではない以上、他人の進み具合を見ても直接の参考にはならない。
それでも、焦り方や手の動きには違いがあった。
PLAYER 12は一度入力した答えを消し、もう一度考え直している。
PLAYER 11はすでに端末を操作していた。
残り時間が半分を切ったころ、PLAYER 10が最初に提出した。
端末が短い電子音を鳴らす。
続いてPLAYER 09。
PLAYER 04、PLAYER 11も間を置かずに提出した。
PLAYER 07は最後にもう一度、カードの条件を確認した。
一つずつ照らし合わせる。
問題文に書かれていることと、自分が導いた答えに食い違いはない。
端末に入力し、提出する。
残るはPLAYER 06とPLAYER 12だった。
PLAYER 12はカードを見つめたまま、指先を動かしていた。
PLAYER 06は額に手を当てている。
「あと何分だ?」
「五分を切っています」
PLAYER 10が答えた。
「わかってるよ」
PLAYER 06は少し苛立った声を出した。
PLAYER 09が彼の端末を見る。
「焦って答えを変えるな。条件を一つずつ確認した方がいい」
「そんなことはわかってる」
PLAYER 06はカードに視線を戻した。
やがてPLAYER 12が提出する。
それから少し遅れて、PLAYER 06も端末を操作した。
七人全員の提出が完了した。
モニターの数字が止まる。
《解答提出 完了》
続いて、新しい表示が現れた。
《確認段階へ移行します》
室内の照明がわずかに暗くなった。
机の端末に、参加者の名前が一つずつ表示されていく。
最初はPLAYER 09だった。
《PLAYER 09》
質問者として、PLAYER 10の名前が表示される。
「解答を導く際、最初に確認した条件は何ですか?」
PLAYER 10が尋ねた。
PLAYER 09はすぐに答えなかった。
カードを見直し、少し考えてから口を開く。
「まず、問題文にある条件を分けた。最初の条件で候補を絞り、その後に残った候補を次の条件に当てはめた」
「その順番でなければ解けませんか?」
「いや、順番を変えても解ける。ただ、俺はその方が確認しやすかった」
PLAYER 09は落ち着いて答えた。
端末が一度点灯する。
《説明成立》
PLAYER 09は小さく息を吐いた。
次はPLAYER 10だった。
質問者にはPLAYER 04が指定されている。
「あなたの解答は、別の条件を先に使っても同じ結果になりますか?」
PLAYER 04の質問は短かった。
PLAYER 10はカードを見ずに答えた。
「はい。条件を適用する順番を変えても、最終的に残る候補は同じです。私はそれを確認したうえで提出しました」
「途中で候補が複数残った場合は?」
「最後の条件を確認すれば、一つに絞れます」
PLAYER 10は静かに答えた。
《説明成立》
次はPLAYER 04。
質問者はPLAYER 11だった。
「答えを決める前に、ほかの可能性も確認したのか?」
「確認した」
「なぜ、それを除外できた?」
「条件に合わなかったからだ」
それだけの返答だった。
しかし、PLAYER 04は続けて、除外した候補と該当する条件を具体的に説明した。
《説明成立》
PLAYER 11の番になる。
質問者はPLAYER 12だった。
「あなたの解答は、最初に考えたものと同じですか?」
「違う」
PLAYER 11は短く答えた。
「途中で変えたということですか?」
「最初の候補は条件の一つに合わなかった。だから別の候補を確認した」
「その候補が正しいと判断した理由は?」
「残った条件をすべて満たしたからだ」
PLAYER 11は、それ以上余計なことを言わなかった。
《説明成立》
続いてPLAYER 07の名前が表示された。
質問者はPLAYER 09だった。
「解答を出すまでに、何度か考え直していたな。最初からその答えだったのか?」
「最初は違った」
「どこで間違いに気づいた?」
「条件を一つ、別の意味で読んでいた。読み直してから候補を絞り直した」
「それだけで答えが変わったのか?」
「うん。最初の考え方だと、最後の条件に合わなかった」
PLAYER 07はカードを机に置いた。
「だから、最初から考え直した」
PLAYER 09は少しだけ彼を見た。
「なるほど」
端末が点灯する。
《説明成立》
PLAYER 07は席に戻った。
次はPLAYER 12だった。
質問者はPLAYER 07に指定されていた。
「途中で答えを消していたけど、何が違った?」
「最初の答えだと、条件の一つが余ってしまったんだ」
「余った?」
「使わなくても答えが出せるように見えた。でも、それだと条件を全部満たしたことにはならないと思った」
「それで、もう一度考えたんだね」
「そう。全部の条件を使って、答えが一つになるか確かめた」
《説明成立》
残るはPLAYER 06だけだった。
モニターに名前が表示される。
《PLAYER 06》
質問者はPLAYER 11だった。
「その答えにした根拠は?」
PLAYER 06はカードを見下ろした。
「条件を見て、一番可能性が高いと思ったものを選んだ」
「可能性が高いというだけか?」
「いや、ほかの条件にも合ってると思ったんだよ」
「どの条件に、どう当てはまる?」
PLAYER 06は言葉に詰まった。
「それは……」
カードを持ち上げ、もう一度読み直す。
「最初の条件で候補を絞って、それから……」
「その候補がほかの条件を満たすことを説明できるか?」
PLAYER 11の声は変わらなかった。
PLAYER 06は端末を見た。
自分が提出した答えが表示されている。
「だから、答えはこれで合ってるんだって」
「答えが合っているかどうかだけではない。根拠を説明する必要がある」
PLAYER 11が言った。
「わかってるよ!」
PLAYER 06は声を荒らげた。
「ちゃんと考えたんだ。適当に選んだわけじゃない!」
「なら、その過程を説明すればいい」
PLAYER 09が口を挟んだ。
PLAYER 06は一度口を開いたが、言葉が続かなかった。
カードに書かれた条件を指で追う。
一つ目。
二つ目。
三つ目。
しかし、説明しようとするたびに、話が途中で途切れた。
「つまり……そういうことだよ」
「それでは説明になっていない」
PLAYER 11が答えた。
沈黙が落ちる。
PLAYER 06は周囲を見た。
誰も助けることはできない。
PLAYER 10も、PLAYER 09も、何も言わなかった。
やがて、モニターに文字が表示された。
《説明不成立》
PLAYER 06が立ち上がる。
「待てよ。まだ説明できる!」
《確認失敗》
「違う、もう一度やらせてくれ!」
腕輪から電子音が鳴った。
PLAYER 06は自分の腕を押さえた。
「おい、待て……」
PLAYER 07は、その腕輪に目を向けた。
次の瞬間、短い爆発音が室内に響いた。
PLAYER 06はその場に崩れ落ち、赤い飛沫が床に散った。
誰も声を出せなかった。
PLAYER 10は口元を押さえ、PLAYER 09は視線を落とした。
PLAYER 04は動かなかった。
PLAYER 11は、しばらくPLAYER 06がいた場所を見つめていた。
やがて、モニターに結果が表示された。
《PLAYER 04 通過》
《PLAYER 07 通過》
《PLAYER 09 通過》
《PLAYER 10 通過》
《PLAYER 11 通過》
《PLAYER 12 通過》
《第四ゲーム 終了》
《通過者 6名》
扉のロックが解除された。
誰もすぐには動かなかった。
「……行こう」
PLAYER 09が言った。
PLAYER 10は小さくうなずく。
PLAYER 07は一度だけ、PLAYER 06がいた場所を見た。
PLAYER 11は何も言わず、出口へ向かう。
六人は部屋を出た。
七人で入った部屋を、六人で出ていく。
扉が閉じる直前、モニターの表示が消えた。




