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『DEAD LOGIC ― 最後の正解者 ―』  作者: hael
season 1 『12人の被験者』
3/6

第三話 傍観者



残り時間、二十七分。


十一人が白い部屋に取り残されていた。


第一ゲームで脱落した少女の姿は、どこにもない。


壁には、次のゲームの説明が表示されている。


『第二ゲーム――囚人のジレンマ』


『参加者は、二つの陣営に分かれる』


『各陣営は、協力または裏切りを選択する』


『両陣営が協力した場合、全員が生き残る』


『一方が裏切り、他方が協力した場合、裏切った陣営のみが生き残る』


『両陣営が裏切った場合、両陣営から三名ずつが脱落する』


『陣営の人数は、それぞれ五名とする』


最後の一文が表示されたとき、参加者の間にざわめきが広がった。


「五人ずつ?」


「じゃあ、一人余るじゃないか」


「どういうことだよ。そいつはどうなる?」


質問に答えるように、壁の文字が切り替わった。


『一名は、どちらの陣営にも所属しない』


『無所属の参加者は、両陣営の勝敗に直接介入できない』


『ただし、ゲーム終了時まで生存した場合、次のゲームへの参加資格を得る』


「……なんだそれ」


誰かが吐き捨てた。


無所属なら、陣営の裏切りに巻き込まれずに済む。


少なくとも、説明を読む限りでは。


「だったら、無所属が一番得じゃないか」


若い男が言った。


「何もしなくても生き残れるんだろ?」


「そうとは限らない」


眼鏡の女性が答えた。


「無所属が本当に安全なら、主催者はわざわざ条件を書かない。何か隠している可能性があるわ」


「考えすぎだろ」


「そうかしら」


女性はそれ以上、説明しなかった。


俺は壁の文字をもう一度読んだ。


無所属は勝敗に直接介入できない。


それなのに、ゲーム終了時まで生き残れば次へ進める。


確かに、条件としては有利に見える。


だが、そもそも、このゲームは誰かが無所属になることを前提に設計されている。


ならば、無所属という立場にも、何らかの意味があるはずだ。


「俺は第一陣営に入る」


白いシャツの男が声を上げた。


第一ゲームで俺に投票した男だ。


「五人で協力する。全員で生き残るために、裏切りはしない」


彼の周囲に、三人が集まった。


「俺も入る」


「私も」


「……じゃあ、俺も」


四人。


男は、残りの参加者を見渡した。


「あと一人だ」


少し離れた場所にいた女性が、ゆっくりと手を挙げた。


「私が入るわ」


眼鏡の女性だった。


「ただし、協力するという約束は守ってもらう」


「もちろんだ」


男は即答した。


第一陣営、五人。


次に、もう一つの陣営が作られた。


こちらは、若い男を中心に四人が集まった。


「あと一人、誰か来ないか?」


呼びかけに、誰も答えなかった。


俺は彼らを見ていた。


四人の陣営。


人数が足りない。


残っているのは、俺と、もう一人。


そのもう一人は、部屋の隅に立っていた。


黒い服。短い髪。年齢は二十代前半に見える。


彼は、誰の会話にも加わっていなかった。


ただ、壁の表示を見ていた。


「おい、あんたはどうするんだ?」


若い男が声をかけた。


男は視線を動かした。


「どちらにも入らない」


「は?」


「無所属になる」


それだけ言って、再び壁を見た。


「そんなの、許されるのか?」


「説明に書いてある」


男は淡々と答えた。


若い男は言葉を失った。


俺も彼を見ていた。


無所属を選ぶこと自体は、別に不思議ではない。


だが、彼は最初から迷っていなかった。


自分が無所属になった場合の危険性を考えていないのか。


それとも、考えたうえで選んだのか。


「……あんた、名前は?」


誰かが尋ねた。


「名前は必要ないだろ」


男は答えた。


「PLAYER 09、番号がある」


「そういう問題じゃないだろ」


「そうか」


会話はそこで終わった。


彼は、自分がどう見られているかに興味がないようだった。


いや、興味がないというより、他人の評価を判断材料にしていない。


俺はそう感じた。


「君はどうする?」


若い男が俺に尋ねた。


俺は、彼らの陣営を見た。


五人には、すでに眼鏡の女性がいる。


四人側は、あと一人で五人になる。


「そっちに入ります」


俺は四人側を指した。


「助かる」


若い男は、ほっとしたように息を吐いた。


第二陣営、五人。


これで、二つの陣営が完成した。


第一陣営、五人。


第二陣営、五人。


そして、無所属が一人。


壁の表示が切り替わった。


『陣営が確定しました』


『代表者を一名ずつ選出してください』


「代表者?」


白いシャツの男が眉をひそめた。


「何をさせる気だ」


壁は答えない。


代わりに、次の説明が表示された。


『代表者は、相手陣営の選択を確認したうえで、自陣営の最終決定を行う』


『最終決定は、陣営全員に適用される』


『代表者は、相手陣営に一度だけ質問できる』


「つまり……」


若い男が言った。


「相手が裏切るかどうかを確認してから、こっちが決められるってことか?」


「確認できるのは、相手の選択だけだろ」


眼鏡の女性が指摘した。


「相手が何を選んだかはわかっても、なぜ選んだかまではわからない」


「それでも十分だ」


白いシャツの男が言った。


「相手が協力を選んだなら、こちらも協力すればいい」


「相手が嘘をついていたら?」


女性の問いに、男は答えなかった。


代表者は、相手の選択を確認できる。


だが、その選択が本心からのものなのか、相手がどんな意図を持っているのかはわからない。


結局、信じるかどうかは自分で決めるしかない。


「俺が代表になる」


白いシャツの男が手を挙げた。


誰も反対しなかった。


第二陣営では、若い男が代表に選ばれた。


二人は、それぞれの扉へ向かった。


残り時間、十八分。


代表者が部屋を出る直前、無所属の男が口を開いた。


「一つ、聞いておきたい」


二人が振り返った。


「相手が協力を選んだとわかった場合、君たちは本当に協力するのか?」


白いシャツの男は、当然だという顔をした。


「約束したからな」


若い男も頷いた。


「裏切る理由がない」


無所属の男は、しばらく二人を見ていた。


「そうか」


彼は、それ以上何も言わなかった。


扉が閉まる。


部屋には、九人が残された。


「なんなんだ、あいつ」


若い参加者がつぶやいた。


「頭がいいのか、ただの変人なのか……」


「どっちでもいいだろ」


別の男が答えた。


「俺たちは生き残ることだけ考えればいい」


無所属の男は、その会話にも反応しなかった。


彼は壁の表示を見上げていた。


俺は、少し離れた場所から彼を観察した。


この男は、他の参加者とは違う。


それだけはわかった。


ただ、何が違うのかは、まだわからなかった。


残り時間、十五分。


壁の表示が変わった。


『第一陣営代表者から、質問が届きました』


部屋の全員が顔を上げる。


表示された質問は、一文だけだった。


『第二陣営に、PLAYER 03はいますか?』


空気が止まった。


PLAYER 03。


第一ゲームで脱落した少女の番号だ。


彼女は、もういないはずだった。


「……なんで、そんな質問を?」


誰かがつぶやいた。


「そもそも、もう脱落しただろ」


別の参加者が言った。


誰も答えられなかった。


俺は壁を見つめていた。


あの少女が、なぜ最後に「ごめんね」と言ったのか。


その意味を考えないようにしていた。


今は、考えるべきではない。


そう思っていた。


「お前、何か知ってるのか?」


隣の男が俺に尋ねた。


「何も知りません」


俺は答えた。


嘘ではない。


少なくとも、彼女が今どこにいるのかは知らない。


壁の表示が消えた。


代わりに、新しい文字が浮かび上がった。


『回答を待っています』


残り時間、十四分。


誰も動かなかった。


無所属の男だけが、ゆっくりと口を開いた。


「……なるほど」


小さな声だった。


「そういうことか」


「何がだ?」


誰かが尋ねた。


男は答えなかった。


ただ、壁に映る少女の番号を見つめていた。


その目に、初めてわずかな感情が浮かんだ。


驚きではない。


恐怖でもない。


まるで、長いあいだ探していた答えの一部を見つけたような顔だった。


そして、彼は俺を見た。


ほんの一瞬。


俺は目を逸らさなかった。


彼も、何も言わなかった。


その沈黙だけが、妙に長く感じられた。

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