強面刑事と一番隊組長(1)
通勤途中の地下鉄車内でそのニュースを見た私は、いつにない早足で事務所に向かった。最寄り駅から十五分もかかる古びたビルの二階にある事務所に駆け上がったときには、全身汗だくになっていた。この際、外見など気にしていられない。この情報を誰かと共有したい。守秘義務のある仕事ゆえに、その相手は一人しかいなかった。
「先生、ニュース見ました?」
入り口扉を開け放ち、真正面に鎮座する先生に話しかけた。巨大な革張りの椅子にどっかりと腰を下ろした先生は、私の顔を見て嫌な顔をする。
「雅ちゃん。きちんと挨拶もできないなんて、大人としてどうなのかしら? もうすぐ三十になるっていうのに」
「あと三年もあります。それより、ジョー・ミツシマの件ですよ。あの落書きされたお宅に、死体が埋まっていたって」
先生の苦情を無視し、勢い込んで話題を振る。一大ニュースなのだ。挨拶くらいすっ飛ばしても、許されるはずだ。
ザ・ロウの黒ワンピ姿の先生は、うるさそうに椅子を半回転させて横を向いた。
「見たわよ。だからこうやって、雅ちゃんより早く出勤しているんじゃないの。事務所に満島(、、)くん(、、)から、いつ電話があるかもしれないから。おかげで睡眠不足よ。いやになっちゃう」
「一回、五十万ですもんね」
一回呼び出しに応じるだけで、多額の報酬が入る。連絡がつかずに、他の弁護士に乗り換えられたりしたら事である。私の邪推を、先生は否定しなかった。先生も、お金は欲しいらしい。それにしても、『満島くん』といわれると、世界のジョー・ミツシマがただの若者に思える。
「今回の死体発見と、満島さんの落書き、何か関係あると思いますか?」
「まあね。あの子がいくら変人でも、落書きの捜査くらいで弁護士に依頼するとは思えないもの」
「まさか、満島さんが殺したわけじゃないですよね」
「そんなの知らないわよ。本人に聞けば?」
先生は言いながら、ペン立てに立った爪磨きで爪を磨きだす。化粧に二時間かけるという先生は、今日も抜かりなくメイクをしていた。何時に出勤したのか知らないが、これでは寝不足にもなるはずだ。
私はスマホを指で撫で、事件の追加情報を調べた。中にはジョー・ミツシマの落書きに言及している記事もあった。さすがに、名指しで犯人扱いはしていなかったが。




