↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/33

霊感少女(1)

「せっかくここまで来たんだから、ちょっと寄り道しましょうか」

 先生はアクセサリーみたいなアナログ腕時計を見ながら、そう提案した。私も反射的に時間を確認すると、まだ三時過ぎだった。正直お腹が空いているのだが、先生の発言はいわゆる一つの業務命令なので、逆らうのを控える。欲求に忠実で、基本的にはものぐさな先生が珍しくやる気を出しているので、この期を逃すのも惜しい気がした。

 先生はスマホで地図を呼び出して、何やらルートを考え考え歩き出した。満島邸前の坂道を南に下り、しばらくするとT字路にぶつかる。車がギリギリすれ違えるくらいの細い道を右手に進み、百メートルほど行ったところで足を止めた。T字路から数えて、三軒目の裏口だ。今時珍しい板塀に囲まれたその家には、見覚えがあった。

「ここって、事件のあった例の家ですよね」

 裏側なので、着いてみるまで気がつかなかった。敷地の北側のせいか、隣二軒も塀で囲まれており、玄関は反対側にあるのが窺われた。板塀の東角には裏口がある。東側と西側の道路に出るにはかなり距離があるので、このあたりの家にはたいてい裏口があった。

 先生が目の前の裏口を躊躇なく開けると、ニュースなんかでよく見る黄色い規制テープが張られていた。解決していない殺人(もしくは、死体遺棄)現場なので、警察が保全しているのだろう。先生は動じる風もなく、テープをくぐった。

「ちょっと、まずくないですか」

 私は慌てる。

「今更私たちが出入りしたところで、何がまずいのよ? 警察の見分なんてとっくに終わっているでしょう? 私は当時満島くんが通っていた道を、おんなじように歩いてみたいのよ」

 先生は澄まして言うと、ピンヒールでざくざくと玉砂利を踏みつけながら、『発田のじいさん家』に踏み込んだ。さすがに警察の姿はもうなかったが、ばれたら言い訳できない。

 敷地内には重機が停まったままになっていて、家屋の裏側が半端に壊され、地面が掘り返されていた。随分深い。遺体が相当深く埋まっていたという言葉を思い出し、私はぞくりとした。

 八雲の話では、この家はもともと取り壊される予定だったはずだ。建物を壊したのは八雲の頼んだ業者なのかもしれないが、掘り返したのは警察にちがいない。

 作業の邪魔になるためか、この前覗いたときは鬱蒼としていた南側の雑草は、綺麗に除草されていた。ちなみに北側は玉砂利のおかげで、元々さほど繁茂していなかった様子である。先生に続いて正面に回ると、満島の雨戸の落書きも含め、玄関付近の外壁は原形を留めていた。やはり、ゆくゆく価値が出るかもしれない満島の絵を、温存したのだろうか?

「ふうん。大したものね。有名な画家というだけあって、さすがに」

 先生は満島の落書きをじっくり鑑賞すると、これ以上見るべきものはないと言わんばかりに、表門から南側の道路に出た。ちなみにこちらの道路も、北側のものよりやや広い程度で大通りではない。

 満島の通ったルートをめぐると先生は言っていたので、てっきり更に西側に進んだ先にある中学校に行くのかと思った。しかし先生は東に進んだ。そして、『館脇』と表札の出た東隣の家の呼び鈴を鳴らす。行動が読めなくて慌てる。

インターフォンから、「はい」と男性の声が答えた。戸惑う私を尻目に先生は身分を名乗り、話を聞きたいと申し入れた。男性は突然のあやしげな来訪者にもかかわらず、快く訪問を許してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。