満島、罪の告白をする。(3)
「今の話を、警察にしなかったのは懸命だったわね。死体遺棄だけだって白状しても、あのハイエナみたいな刑事が納得したとは思えない。きっと取調べでは、殺人について追及されたわよ」
そうだろうか。善良な一市民の私は、犯した罪は正直に告白した方が良いと思ってしまう。満島の話が真実だとしての話だが。
「とりあえずあなた、正式に私に依頼しなさい。調査を始めるから。まだ委任状書いてなかったわよね? まあまだ被疑者にもなっていないそうだから、何の件で委任するのか微妙だけど」
よくよく考えてみると、先生になど依頼せず、白を切っていれば乗り切れそうな案件である。先ほど本郷も言っていたとおり、古い事件で直接的な証拠があるとも思えない。満島が自白でもしない限り、状況証拠だけで起訴できるはずもないのだ。
先生が自ら依頼を促したのは、たぶん珍しく興味がわいたから、調べてやってもいいという気まぐれだ。満島を守るためだけなら、事件を解決する必要はない。私はそう思ったが、黙っておいた。我が事務所は経営難なのだ。みすみす金払いの良い依頼人を逃すわけにはいかなかった。
私が常時携帯している、依頼内容の書いていない委任状を差し出すと、満島は素直にそれに署名押印した。依頼内容は後で書くとして、私はそれを持って先生と共に席を立つ。
リビングを出ようとすると満島がついてきて、「そうそう」と、私たちをキッチンスペースに誘った。
「この中で、好きなものがあったら持って行ってくれないか?」
カウンターの陰に隠れていた、紙袋を取り出す。大ぶりな紙袋は、全部で七つ。有名な和菓子店やら洋菓子店やらの、どうやら手土産のようだった。満島は馬鹿にしたように、鼻で笑う。
「うちの家族は全員甘いものが嫌いなんだ。それなのに性懲りもなく、こうやって貢ぎ物をよこす輩が後を絶たない。何故こうやって貧困家庭にではなく金が有り余っている家に付け届けをするのか理解に苦しむが、母がいつも賞味期限と戦って困っているのだ。捨てるわけにもいかないらしい。なのでうちを訪ねてきたものにはもれなく、土産として持たせることにしている」
満島は、金持ち故の苦悩(?)を語った。世の中間違っているという満島の意見には同感だ。こんな男にするプレゼントは、虚無への供物に等しい。もっともほとんどは、元銀行頭取現会長であるお父さん宛なのだろうが。
それにしても、手土産持って訪ねたうちで、不用な他人の手土産を持たされたら、さぞ苦々しい気持ちになるだろう。お客様も気の毒だなと思っていると、先生は楽しそうに物色し、
「私の好きな、芋羊羹じゃないの。これ、貰っていくわ」
と、紙袋の一つを手に取った。先生は気位が高そうに見られるが、割とこの辺のプライドはない。別にケチなわけでもなく、たまたま好物があったのだろう。言っておくが、先生は今回手土産を持参すらしていない。図々しいにも程があるというのはこのことだった。
有名和菓子店の紙袋を持った先生に続いて玄関ホールに出ると、二階から満島の母親が現れ、満島と一緒に見送ってくれた。どうやら今度は、階段の踊り場付近で様子を窺っていたようだ。帰りがけに先生が、「また何かあったら、すぐ電話してちょうだい」と満島に言うと、満島は頷いて了承し、意味不明なことを付け足した。
「少なくとも、今月いっぱいはよろしく頼む」
扉が閉まる直前にその言葉を発したので、真意を質すことはできなかった。




