↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/32

満島、罪の告白をする。(2)

「じいさんの家は、とんでもなく古くて粗末な家でな。畳を外して床板を剥がすと、すぐに地面になっているんだ。じいさんは畳を三枚分脇に寄せて、そのスペースの床板を剥がして、その下の地面を掘り返していた。僕が初めて尋ねたときは大した大きさではなかったが、一年近く通っている間に相当深くて大きな穴になった」

 床下の遺体は、地下百四十センチのところに埋まっていたという。なるほど、何ヶ月もかけて作業すれば、それだけ深い穴が掘れるのかもしれない。しかし埋まっていたのがその「じいさん」で間違いなければ、自分を埋めさせるために、彼は穴を掘っていたことになる。

「なんでそんなことを?」

 先生は肩に落ちた巻髪を弾いてから、当たり前の質問をした。

「そこなんだ。僕がその事実を初めて知ったときは、じいさんのやることに干渉するつもりはなかったので見ないふりをしていた。しかしある日、じいさんの方から僕に頼んできた。じいさんが死んだら、そこに埋めて欲しいと」

「おじいさんの方から?」

「そうだ。僕は会ったことがないのだが、じいさんには妻がいたようだな。僕が通い出す一、二年前に亡くなったと言っていた。じいさんは妻との思い出が詰まった、その家の床下に自分の死体を埋めて欲しいと頼んだ。「付き合いもない親戚の墓に入るのは嫌だ。ばあさんと、紅子と一緒に眠らせてくれ」と言っていた」

「紅子さん。あの家の、所有者ね?」

先生が呟いた。

「そうなのか? 僕はじいさんの家だとばかり思っていたが、妻の名義だったのだな。とにかくあまりに切実だったし、じいさんには恩があったので僕は承諾した。そして実行した」

 満島は話し終えると、ほっとしたような顔をして身体の力を抜いた。殺してはいないけど、埋めた。これがその一通りの説明だった。筋は通る。本当に実行してしまうところが、常識から逸脱しているというだけで。

 先生は考え込むように、右手の指先で組んだ左腕を叩いた。

「おじいさんは、なんで亡くなったの?」

「たぶん肝臓の病気だな。かなりの酒飲みで長い間煩っていたと聞いた。まあ数日前から咳き込んで息苦しそうにしていたので、風邪も併発していたかもしれないが」

「何でそんなことが分かるのよ? 医者でもないのに」

「本人がそう言っていたのだ。自分が倒れたら肝臓の病気が原因だと。救急車は絶対に呼ぶなと釘を刺されていた。放っておいて完全に死んだら、和室の床下に埋めてくれと頼まれた。埋めた後は、畳を戻して証拠隠滅をしろと」

「……」

 やはりそのおじいさんも、相当変わっている。証拠隠滅と言っている時点で、犯罪の片棒を担がせている自覚があるようだし。

 先生は左腕を叩いていた指先を止め、じっと満島を見つめた。

「あなたはそれを真に受けて、その老人が倒れているのに救急車も呼ばず、放置したのね?」

 神経を逆なでる言い方に、満島は心外そうに眉間にしわを寄せる。

「発見したのが月曜日だったんだ。土日はじいさんのところに行っていなかったから二日空いていた。じいさんはトイレの前で倒れていて、死んでからだいぶ時間が経っているようだった。医者でなくとも、それくらいは分かるだろう? 寒い日で、家の中もじいさんも怖いくらいに冷たくなっていた。おそらく金曜の夜か土曜の朝に倒れたんだ。僕も迷ったが結局言われた通りにするのが一番じいさんのためになると思って、遺体を和室の穴に落として埋めた。相当深かったんで埋めるのには一週間近くかかったな」

 遺体を穴に落とすというのは、あまりに酷い扱いのように思えた。しかし百四十センチもある穴に抱えて下ろすのは、貧弱な子供には難しかったのだろう。満島は運動には無縁の、まだ中学生だったわけだし。落としたときに頭部に傷がついたのだとしたら、鑑識の見立てとの辻褄も合う。

「でも、老人が亡くなって顔を出さなくなったら、さすがにご近所の人も怪しむんじゃない? 身内だっているだろうし。なんで十年間、誰も気がつかなかったのかしら?」

「そんなことは、僕は知らない。偏屈なじいさんだから、近所付き合いがないと聞いてはいたが。身内とも何十年も疎遠だし親しい友人知人もいないと言っていた。七十過ぎのじいさんだから仕事もしていなくていつも家にいたな」

「ふうん。年金で暮らしていたのかしら? 年金はどうなっているんでしょうね? 今でもどこかの口座に、振り込まれているのかしら」

「あの、ずっと気になっていたんですけど、聞いて良いですか?」

 黙っていられなくなった。私が恐る恐る手を上げて質問を挟むと、二人同時に振り返った。奇人と変人なので、圧が強い。めげずに、続ける。

「そもそも、そのおじいさんって誰なんですか? 八雲さんの話だと、お祖母さんが一人で住んでいたような口ぶりだったんですけど」

 詳しく聞いたわけではないので断定はできないが、そんなニュアンスの話だった。旦那さんが看取ったとも聞いていない。満島は腕を組んで、ふんぞり返った。

「僕は知らないな。ただ、発(はっ)田(た)のじいさんと呼んでいた。発田というのは名字だな。何かで聞いた。インスピレーションを与えてくれた恩はあるが、基本こ汚いじじいだったので身の上に興味もなく何も聞いていない。妻に先立たれたあの家の亭主だと思っていたが、違ったのだな」

 興味がないにも程があると思うのだが、満島少年はまだ中学生だったし、一般常識の欠落したボンボンだったので、やむを得ないか。先生はやれやれと溜息をつくと、肩を揉んだ。

「聞き込みするしかないわね。ああ、面倒くさい。肩が凝っちゃうわ、胸が大きいから」

 余計な一言で幕引きをし、立ち上がる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。