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満島、罪の告白をする。(1)

「それで?」

 先生は身体ごと満島を振り返ると、腕を組んで彼を見下ろした。マスカラとアイラインで縁取られた真っ黒な瞳で、満島を蔑むような角度からじっと見つめる。威圧感だけでいったら、本郷に負けていないかもしれない。

「あなたが殺したの?」

 見下ろしたまま、ストレートな質問を投げる。満島は苦々しい表情を浮かべて(マスクをしているので、目元からの推測だが)、首を横に振った。

「殺してはいない」

「殺しては(、)、ね。じゃあ、何をしたの?」

「埋めたのは、僕だ」

 衝撃的な告白に、私は口元を押さえた。埋めたって、それは、犯罪じゃないか。遺体の男と満島に、どんな関係があったのかは知らない。しかし、いかなる理由があったとしても、正常な神経でできることとは思えなかった。

私とは対照的に、先生は動じた風もなく首をかしげた。

「っていうか、誰なの? その高齢の男性って」

「待ってくれ。順に話す。頭を整理させてくれ」

 満島は右手を嫌がるように振ると、少し黙った。落ち着いている。罪の告白をするというのに、その姿は策を弄する犯罪者にしか見えなかった。いや、実際に犯罪者には違いないのだが。

 しばらくしてから、記憶を手繰るように満島は語り始めた。

「さっきあの粗暴な刑事が言っていたことは本当だ。僕は車で中学校に通っていたのだが、三年生に上がってまもなく運転手が突然倒れたことがあった。ただの盲腸だったのだが、真面目な男なのでギリギリまで我慢したのだろうな。即刻入院となった。ともかく僕はその日歩いて学校に登校した。さして距離もないのだが運動は嫌いなのでイライラしたな」

 相変わらずの早口には、緊迫感が感じられなかった。まったく抑揚を付けずに話すので、原稿を読み上げてでもいるようだ。罪を正当化しようという言い訳めいたニュアンスもなかった。私の緊張感も薄れる。満島は子供時代から相当我が儘な変わり者だったのだな、などと呑気な感想さえ浮かんだ。

「行きは道順通り何軒か迂回して登校したので時間がかかったが、帰りはあの家を突っ切ればかなりの時間短縮になることに気づいた。僕は時間の無駄が嫌いなので、そうすることにした。通りからあの家の庭に入り、裏口から一本向こうの道路に出ることにしたんだ。そして敷地内に入り縁側の脇を抜けようとしたとき、あのじいさんが顔を出した――」

「人の庭で何してる、糞ガキ!」と、その老人は満島少年を怒鳴りつけたらしい。親父にも殴られたことのない満島少年は、ただもうびっくりして、走って自宅に逃げ帰った。そして自分の部屋に閉じこもり、動悸がようやく収まった頃に、こんどは激しい怒りが沸いてきたのだという。

「あんな汚い髭を生やした貧相なじじいに、なんでこの僕が怒鳴られなくてはならないのだと憤懣やるかたない気持ちが胸に湧き上がってきた。尻尾を巻いて逃げてしまったことにも、腹が立った。引き返して抗議してやろうかとも思ったが、面倒なので絵に描くことにした。じじい殺害計画の絵だ。色々なパターンの殺害方法を描いた。画用紙に、何度も何度も描き殴った。気づいたら朝になっていたが、その時の一枚が最高傑作と言っても過言ではない出来だったんだ」

 その時の怒りを思い出したらしい満島は、早口で呪うように喋った。しかし最後の一言では、すがすがしいような爽やかな目元で笑った。私も先生も、しばし唖然とする。変わり者の感情の乱高下と自己完結に、ついて行けない。

「それが、さっきの絵なんですか?」

「え?」

 私が恐る恐る聞くと、満島は意表を突かれたような声を出した。しばしぽかんとした後、一つ咳払いしてから声のトーンを落として先を続ける。

「まあな。そのうちの一枚だ。とにかく翌日、あのじじいに対する怒りのおかげで、何故あんな素晴らしい作品が描けたのか知りたくて、僕はまたあのじいさんの家に行った。じいさん殺害計画の絵を持ってな。相変わらず愛想のないじじいだったが、僕のことを家に上げ、僕の描いた絵を見て笑った。「こりゃ、上手い。お前は天才だ」と、頭を撫でてくれようとした。まあ僕は不潔な手からの黴菌が嫌だったので、丁重にお断りしたが」

 自分の殺害方法を描いた絵を、いかに上手かろうとも褒めたりはしない。そのおじいさんも相当の変わり者か、仏のような広い心の持ち主のどっちかだ。

そこで私は、満島の描いた雨戸の落書きを思い出した。なるほどお釈迦様だったら、そんな態度を取るかもしれない。

「僕はその日試しにじいさんの家で絵を描いてみた。そうしたら次から次へインスピレーションが沸いて、何枚も絵が描けた。信じられないほど集中できた。それから僕は毎日じいさんの家に寄って絵を描いた。僕はその作業を、居間――といっても、ちゃぶ台があるだけの汚い部屋だったが――で行っていたのだが、じいさんは廊下を挟んだ奥の和室で、ずっと穴を掘っていた。そして僕が帰る時間になると居間に入ってきて、いつも僕の絵を褒めてくれた」

「穴?」

 私は聞きとがめた。和室に穴を掘るとは、どういうことだ? 満島は細い目でちろりと私を一瞥すると、解説してくれた。


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