強面刑事と一番隊組長(6)
その時、満島の顔色をじっと見つめていた本郷の携帯が鳴った。ポケットからそれを出し、一言断ってから本郷は廊下に出て行く。後に残ったのは、桜色の頬をした気の弱そうな若い刑事だけだった。
「ねえ、沖田くん」
先生は馴れ馴れしく、若い刑事をくん付けで呼んだ。猫撫で声。先生のお尻に、あるはずのない尻尾が見えた。
「警察はどうも、殺人の容疑で捜査しているみたいね。遺体の死因はなんだったの?」
「え? あ~、え~っと……」
沖田はせわしなく目を泳がせ、本郷のいる廊下の方を振り返る。電話は長引いているようで、本郷が帰ってくる気配はない。
「言っておくけど、弁護士の質問に答えなかったって事になったら、あとで大問題になるわよ。答えた方が身のためだと思うけど」
真っ赤な唇を三日月型につり上げた先生が、嗜虐的な様子で沖田を追い詰める。不確定な捜査情報を明かせなんて、私にすら分かるブラフだが、経験の浅いルーキーには判断がつかないようだった。先生にとって、沖田に口を割らせることなど、赤子の手をひねるようなものなのだ。
沖田はしばしもじもじしてから、結局は答えた。
「それは、断定できないんです。何せ骨になっていましたから。ただ頭部に外傷があったので、殴られたのではないかという捜査員がいて……。掘り起こした土の中には大きな石もゴロゴロしてたので、鑑識の見解では、遺体を穴に落とす際に石にぶつけてできたものだろうということだったんですが。何せ穴が深かったんで。下側の側頭部の傷でしたし」
身を乗り出して小声で告げる沖田に、先生も身を乗り出して聞き逃さないようにする。その時ちょうど本郷が戻ってきたので、二人はぱっと身体を離した。不貞を見つかった、人妻と間男みたいだ。
本郷は沖田を、殺意のこもった形相で睨みつけると、立ったまま暇を告げた。なんでも事件に新たな展開があったらしく、すぐに戻る必要ができたようだ。満島に「また来ます」と言った本郷は、リビングを出る際振り返って言った。
「満島さん。私はあなたの知名度も、お家柄も存じ上げている。十数年前あなたが未成年だったことも、百も承知です。証拠も散逸したこんな古い事件に予算と時間を割くのは、税金の無駄遣いだという意見もあります。しかし犯罪は犯罪だ。私は意地でも解決して見せますよ。なるべくご協力いただくようにお願いします」
満島を見据えて言った後、先生を振り返って口元を歪める。
「こんなことを言ったら、脅迫になるんですかね? 生憎司法試験は通ってないので、微妙なボーダーラインは分かりません。ご批判は甘んじて受けますよ。どうぞ好きなだけ、警視庁に抗議してください。だけど私にも、現場の意地というものがあるんだ」
先生は右肩を揉みながら、「気が向いたらね」と素っ気なく答えた。馬鹿にした態度だ。本郷は数瞬足を止めて感情を受け流すと、沖田を引き連れて帰って行った。廊下で聞き耳を立てていたらしい、満島の母親に見送られて。
後には先生と私、そして動揺の余韻を残した満島だけが残った。




