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強面刑事と一番隊組長(5)

「……そうだ」

 やがて絞り出すように、満島は答えた。眉間にしわが寄り、凜々しい眉の間の特徴的なホクロが歪む。認めたくなかったのだろう。気持ちは分かる。そのモチーフが、あまりにも強烈だったからだ。

 画用紙の四隅に、不自然なほど小さく人物が描かれていた。髭を蓄えた老人だということが、かろうじて判別できるくらい細かい。構図がまず異常だった。しかもその老人は、様々な方法で殺されていた。

 左上は殴殺。右上は絞殺。左下は毒殺。右下は刺殺。

 血を流して死んでいるものには赤色が、絞殺された顔には青色が、色鉛筆で丁寧に塗られていた。ぞっとした。正気の人間が描いたとは思えない。FBIが公開した、シリアルキラーが獄中で描いた絵みたいだった。

 本郷は満島の動揺に、口元を歪めた。したり顔だ。計算通りの反応だったのだろう。礼儀正しく振る舞っていても、やはり捜査機関だ。狩る者の顔をしていた。

「いつ描いた物ですか?」

「覚えていない。子供の頃だ」

「どこで描いて、どう処分しましたか?」

「覚えていないと言っている」

 満島は身体の前で、きつく両腕を組んだ。わかりやすい拒絶だったが、本郷は引かなかった。

「実はこの絵は、あなたが落書きした家の床下に埋まっていた遺体の、着衣のポケットに入っていた物なんですよ。だいぶ綺麗にしましたが、土やら水やら遺体の分泌物やらで相当傷んでました。遺体と一緒に埋まったことは、鑑識の結果を待つまでもなく、疑いようもありません。あなたの描いたイラストを、なんで遺体が所持していたんでしょうか? 何か合理的な説明がありますか?」

 満島は口を開いて何か言いかけたが、結局「ない」と低く答えただけだった。

「ちょっと待って」

 そこで初めて、先生が助け船を出した。今頃介入するなんて、遅すぎるくらいだ。満島に依頼された弁護士だと豪語したくせに。

「あなたたちは満島くんを、殺人か、少なくとも死体遺棄で取り調べているのよね?」

「取り調べてはいません。参考人として、お話を伺っているだけです」

「取り調べているようにしか聞こえないけど、まあいいわ。発見された遺体は、随分深い位置に埋まっていたらしいわね」

「ええ。ワイドショーでも散々やってますよ。一メートル四十センチくらいの深さに埋まっていました」

 本郷は先生と話をしたくないのか、そっぽを向いて答えた。

「十数年前っていったら、満島くんはまだ子供よ。そんな子供が、そんな深い穴を掘って成人男性を埋めることができるかしら? そもそも、そんな苦労をする理由は? なにか合理的な説明はあるのかしら?」

 先生は先ほどの本郷の台詞を引き合いに出して、馬鹿にするように言った。本郷はムッとしたように、先生ではなく満島を睨む。

「それはこちらが、是非教えていただきたいところですね。おおかた子供にありがちな、何かの儀式かなんかでしょうが」

 満島が犯人であるかのように言う。本郷の負け惜しみは、しかし私にとって新しい発想だった。何かの儀式。先ほどの残酷なイラストを見たら、それも真実らしく思えてくる。まして満島は天才だ。私たちには見えていない景色が見えているのかもしれない。

 満島の答を期待している風でもない本郷は、沖田を促して次の画像を画面に表示させた。今度は写真画像でなく、住宅地図のようだ。本郷は画面を指さしながら、確認する。

「ここがこちらのお宅で、ここがあなたが壁に絵を描いた家、そしてここが、あなたが通っていた中学校ですね」

「そうだ」

「中学生当時も、ここにお住まいでしたね」

「そうだ」

 とっくに調べがついているだろう事を、本郷はいちいち満島に確認する。聴取手続として必要なのか、満島を心理的に追い詰める手法なのかは分からない。

「中学校から、あなたの家。近道をしようとすれば、この家を通り抜けるのが最適だ。あなたは事実、そうしていたんじゃないですか?」

 本郷は、地図上を順次指さしながら質問する。満島は不承不承、それに答える。

「そうだ」

「あなたは普段、車で中学校へ送迎されていた。しかし中学三年の春に、運転手が体調を崩したことがあり、やもなく徒歩で登校したことがあった。それ以来、回復した運転手の申し出を断って、徒歩で中学校に通っていたと聞きました。さらにその期間、あなたの帰りはいつもより遅くなった。お母様に確認させていただきましたよ。ごまかそうとされましたが、正直に話してくれました」

「…………」

 先ほど警察がなかなか現れなかったのは、それを聞き取っていたのが理由だと察せられた。満島は答えない。顔色が若干悪いような気がするのは、私の考えすぎではないだろう。秘密の匂いがした。

「多分ご存じないでしょうが、心配したお母様が様子を見るためにあなたをつけたことがあったそうです。あなたは例のお宅で、連日夕食までの二時間あまりを費やしていたそうですね。あの家には当時、高齢の男性が一人で暮らしていたようで、素行の悪い人間の出入りはなかった。非行の心配もないということで、お母様は黙認されたようですが」

 高齢の男性。それはおそらく、床下に埋まっていた遺体と同一人物だ。しかしあの家は、八雲の祖母の家だったはずだ。その男性とは、一体何者なんだろう?


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