第二十三話 三つの灯(前)
宗一と、陽。二人の警告から。僕たちは、すぐに動いた。
陽の〈灯路〉が告げた、場所。それは――町の地下深くに眠る、古い、巨大な空洞だった。かつて、燈本と灰村の、力の源が交わる、霊地だったという。
僕と鈴は、守屋さんとともに。その空洞へと、降りていった。
そこで、僕たちが見たものは。
闇の中に。黒く脈打つ、巨大な楔が。何本も、地に突き立てられ。その中心で。灰村燼が。儀式を執り行っていた。
初めて、目にする、燼の姿。
痩せた、長身。落ち窪んだ双眸。その顔には、深い皺と。そして――凍りついたような哀しみが、刻まれていた。彼の周りで、無数の楔が共鳴し、黒い瘴気が、渦を巻いている。
「来たか、燈本の、最後の灯よ」燼は、僕を見ても。動じなかった。「だが、遅い。――今宵、灰返りは。総仕上げを迎える。この霊地から。私は、時の、最も深き淵へ。『始まりの灯』へと、至る。そして、燈本を。根から、灰に返す」
『父さん、まずい!』陽の、切迫した声が飛んだ。『あの楔の集合体……あれが完成すれば。本当に、始まりの灯への道が、開く。そうなったら――もう、誰にも、止められない!』
「止めるぞ!」僕は、灯を灯し、楔へと駆けた。
けれど。
僕の橙の光は。楔に触れた、瞬間。黒い瘴気に弾かれ、かき消された。
「無駄だ」燼は、静かに言った。「この楔は。私が、何十年もかけて、紡いだもの。おまえ如きの灯で。砕けるものか」
『父さん、力ずくじゃ、無理だ!』陽が、叫んだ。『〈灯路〉で、視た……あの楔の集合体には。たった一つだけ。「要」になってる楔が、ある。それを砕けば。全部が崩れる。でも――その要は。常人の力じゃ、絶対に届かない。守られてる』
「なら、どうすれば!」
『方法は、一つだけ』陽の声が、鋭く響いた。『三十年前――宗一さんに、この霊地の、真下に。「礎」を仕込んでもらうんだ。要の楔の、ちょうど真下に。三十年かけて、力を溜める「灯の楔」を。そして、今、それを爆発させて。下から、要を貫く』
三十年前の父に。この場所の真下に。布石を。
僕は、すぐに、過去の父へ繋いだ。
「父さん! 聞こえる!? 頼みたいことが――」
『ああ、分かっている』父の声が、応えた。力強く。『陽から、もう聞いた。……いや、正確には。これから、おまえが頼むことを。おれは、三十年前から、知っていた』
因果の、環。
そうだ。未来の陽が視た、この策。それは、すでに。三十年前の父に、伝わっていて。父は、もう、その「礎」を、仕込み終えているのだ。
『この日が、来ると信じて』父は、言った。『おれは、三十年、この地の底に、灯を埋めて、育ててきた。――さあ、灯真。受け取れ。おまえと、陽と、おれ。三人で紡いだ、この一撃を』
その時。
僕の前に。黒い炎が、立ちはだかった。
焔、だった。
「させない」彼は、僕を見据えた。その左腕の、鎖の紋様が。ぎらぎらと脈打っている。「父上の悲願を。邪魔は、させない。――ここで、お前を討つ」
「焔……っ」
僕と、焔の灯が。再び、激突した。けれど、今は、一刻の猶予も、ない。父の「礎」を爆発させる、その瞬間に。陽が視た、「要」のタイミングに。すべてを、合わせなければ。
「鈴!」僕は、叫んだ。「守屋さん! 焔を……っ」
「任せて!」「いけ、灯真!」
鈴と、守屋さんが。焔を、引き受けようと、前に出る。けれど、焔の力は。鎖に増幅され。凄まじかった。二人がかりでも。押し返される。
『父さん、急いで! 要が、共鳴を始めた!』陽が、叫んだ。『タイミングは……今から、十、数えた後! それを逃したら。次は、ない!』
十。九。八。
楔の共鳴が。最高潮へと。高まっていく。
僕は、焔の炎を、かいくぐり。空洞の中心へと、走った。
七。六。五。
「させるかァ!」焔が、追いすがる。黒い炎が、僕の背に、迫る。
四。三。
僕は、地に手をついた。三十年前の、父の「礎」へと。胸の灯を、繋ぐ。そして、未来の、陽の視る、「要」へと。意識を、向ける。
過去と、未来が。僕という、一点で。交わる。
二。
「いっけぇぇぇ――!」
一。
その、瞬間だった。




