表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継灯 〜最弱の僕が、亡き父と未来の息子と、時を越えて世界を救う〜  作者: 智珠
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/37

第十六話 鍵を巡る攻防

陽の警告から、僕たちは、すぐに動いた。


『焔が、「鍵」を仕込もうとしてるのは』灯を通じて、陽の声が告げた。『三日後の夜。町の外れにある、古い神社の跡地だ。そこは、時の流れが淀む場所――灰村が、過去に干渉する「楔」を打ち込むのに、うってつけの地点なんだ』


「神社の、跡地……」


『そこで焔は、灰返りの「鍵」を、時の淀みに沈める。それが成れば。過去への干渉が、一気に進む』陽の声が、硬かった。『止めるなら、その瞬間しか、ない』


僕は、守屋さんと鈴に、それを伝えた。


「未来の、息子さんの見立て、か」守屋さんが、唸った。「……信じよう。陽くんの〈灯路〉。これまで、一度も外していない」


そして、その夜。修行の合間に、僕は、過去の父にも繋がった。


『神社の跡地、か』宗一は、僕の話を聞くと、しばらく考え込んだ。『……灯真。ひとつ、やってみよう。おれの時代から、その場所に、「護りの灯」を仕込んでおく。三十年かけて、その地に馴染ませる。おまえが戦う、その夜に、力になるように』


「そんなこと、できるの?」


『おれの灯は、未来に布石を打てる』父の声が、力強かった。『おまえの立つ場所を、三十年前から整えておく。――おまえは、一人で戦うんじゃない。覚えておけ』


過去の父が、三十年の時をかけて、僕の戦う場所を整えてくれる。未来の息子が、その戦いの道筋を照らしてくれる。


そして、三日後の夜。


僕と鈴は、神社の跡地に立っていた。崩れかけた石段。苔むした鳥居。確かに、ここは空気が淀んでいる。時の流れが、よどんで、澱のように溜まっている。そんな感覚がした。


やがて。


闇の中から、焔が現れた。手に、黒く脈打つ、宝玉のようなものを携えて。あれが、「鍵」だろうか。


「……また、お前か、燈本」焔は、僕を見て、目を細めた。「邪魔をするなら。今度こそ、容赦はしない」


「焔」僕は、まっすぐに彼を見た。「その鍵を、仕込ませはしない。お前の灰返りで、消える未来があるんだ。――僕の、大切な未来が」


焔が、黒い炎を放った。僕は、灯を灯して受け止める。


橙と、黒。再びの激突。けれど、今度の僕は、あの頃とは違った。


『右だ、灯真!』『父さん、左から、怪異が三体!』


過去の父と、未来の息子。二つの声が、僕を導く。僕は、その声に応えて動いた。焔の攻撃をいなし、怪異を灼き払う。


「……っ、なんだ、その動きは」焔の眉が、寄った。「以前とは、まるで別人だ」


「一人じゃ、ないからだ」僕は、言った。「僕の後ろには、父さんがいる。息子がいる。仲間がいる。――お前と、違って」


その言葉に、焔の表情が、ぴくり、と強張った。


「……お前と、違って、だと」焔の声が、低く震えた。「ああ、そうだ。お前には、いるんだろう。背中を預けられる、家族が。仲間が。――いいご身分だな、燈本」


その声に滲んだ、底知れぬ孤独。


「焔。お前は……」


「黙れ!」焔が、叫んだ。黒い炎が、ごうっと膨れ上がる。「同情か? やめろ。虫唾が走る。――おれは、おれの役目を、果たすだけだ。父上の悲願を。それだけが、おれの、生きる意味だ」


父上の、悲願。それだけが、生きる意味。


僕は、その言葉に、ぞっとすると同時に、胸が締めつけられた。この宿敵は、「灰返り」という、たった一つの復讐のためだけに、生きることを強いられている。彼自身の幸せも、望みも、すべてを捨てさせられて。


「灯真くん、来る!」鈴が、叫んだ。


焔が、隙を突いて、「鍵」を、時の淀みへと沈めようとした。


『今だ、父さん!』陽の声が、飛んだ。『そこ――三十年前の、宗一さんの護りの灯が、宿ってる! それを、呼び覚ませ!』


僕は、地面に手をついた。胸の灯を、その地に馴染んだ、父の灯へと繋ぐ。


刹那。


足元の地面が、橙色に輝いた。三十年前、父が仕込んでくれた、護りの灯。それが今、目覚め、淀んだ時の流れを――浄化するように、押し流した。


「なに……っ!?」焔の沈めようとした「鍵」が、その光に弾かれる。黒い宝玉が、罅割れ、砕け散った。


「灰返りの鍵は」僕は、立ち上がり、言った。「三十年前の父さんと、未来の息子と、今の僕とで、砕いた」


焔は、信じられない、というように、砕けた鍵の欠片を見つめていた。やがて、ぎりっと奥歯を噛んだ。


「……三世代で、時を繋いだ、というのか」彼の声に、初めて、焦りに似たものが滲んだ。「忌々しい、燈本の継灯……っ」


彼は、闇の中へ退きながら、最後に、低く言い残した。


「だが、忘れるな。これは、まだ、ほんの始まりに過ぎん。父上の灰返りは――こんなものでは、ない」


そして、彼の姿は、夜に消えた。


僕は、砕けた鍵の欠片を、見下ろした。一つ、灰村の企てを、阻んだ。三世代の力で。


けれど。焔の最後の言葉が、胸に重く残っていた。


これは、まだ、始まりに過ぎない。


そして――あの、焔の、孤独な目も。


僕は、まだ、知らなかった。彼を、あんなにも縛りつけている、灰村燼の「悲願」。その、哀しい根っこを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ