第十五話 三つの時代
その日から、僕の戦いは、新しい段階に入った。
過去の父・宗一。そして、未来の息子・陽。僕は、その両方と繋がる術を、少しずつ掴んでいった。
守屋さんに陽のことを話すと、彼は、しばらく絶句していた。
「……未来の、おまえの息子、だと」守屋さんは、唸った。「過去の宗一と、未来の息子。両方と繋がるとは。――灯真。おまえの灯は、もしや、燈本の歴史でも類を見ない、特別なものかもしれん」
「特別?」
「ああ。過去と、未来。その両方を、結ぶ。まるで――時の、結び目だ」守屋さんは、僕を見つめた。「その力、〈結灯〉とでも、呼ぶべきか」
結灯。時を、結ぶ、灯。
それからの日々は、濃密だった。
僕は、守屋さんのもとで、継灯の修行を続けた。そして、繋がるたびに、過去の父が、戦いの心得を授けてくれた。未来の息子が、これから起こることを、教えてくれた。
陽の〈灯路〉は、すさまじかった。彼は、灰村が次にどこを狙うかを、どの怪異がいつ現れるかを、まるで先を読んだように言い当てた。
「父さん。三日後の夜。駅の東側で、瘴気が湧く。先回りして、人を避難させてくれ」
陽に言われたとおりに動くと、本当に、その通りになった。僕は、未然に、人々を守ることができた。
未来の視る力と、現在の僕の行動。それが噛み合うたびに、守れるものが増えていく。
そして、僕自身も、少しずつ強くなっていった。
あの、震えてばかりいた僕が、今では、自分の灯で、怪異を退けられるようになっていた。まだ、焔には、遠く及ばない。けれど。確かに、一歩ずつ。
「灯真くん、すごいよ! また、強くなってる!」鈴が、嬉しそうに言った。
「鈴のおかげだよ」僕は、笑った。「君が、いつも支えてくれるから」
一人じゃ、ない。現在には、鈴と守屋さんが。過去には、父が。未来には、息子が。僕は、三つの時代に仲間を得て、少しずつ、自分の足で立てるようになっていた。
けれど。
平穏は、長く続かなかった。
ある夜。胸の灯を通じて繋がった陽の声が、これまでにない緊張を帯びていた。
『父さん。……まずいことに、なった』
「どうした、陽」
『灰村が、動いた。今度は、これまでの比じゃない』陽の声が、硬かった。『〈灰返り〉を進めるために。灰村の連中が、ある「鍵」を、過去に仕込もうとしてる。それを許せば。灰返りは、一気に加速する。――俺の時代の崩壊も、決定的になる』
「鍵……?」
『ああ。そして、それを過去に仕込みに来るのは』陽の声が、低く言った。『灰村焔。あんたの、よく知ってる、あいつだ』
焔。
『気をつけてくれ、父さん』陽が、言った。『今度の焔は……たぶん、本気だ。あんたを、殺してでも、鍵を、通す気だ』
灯を通じて、伝わってくる、陽の、切迫した気配。
僕は、拳を握りしめた。
焔が、また来る。今度は、灰返りを加速させる「鍵」を携えて。それを止められなければ。未来が――陽が、消える。
過去の父と。未来の息子と。そして、現在の仲間と。
僕は、もう、逃げない。
三つの時代の想いを、この灯に宿して。僕は、宿敵を迎え撃つ。
新たな戦いの幕が、今、上がろうとしていた。




