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継灯 〜最弱の僕が、亡き父と未来の息子と、時を越えて世界を救う〜  作者: 智珠
第二章

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第十四話 未来の息子

『……俺だ。あんたの、息子だ』


その言葉が、僕の頭の中で、幾度も反響した。


息子。僕の。まだ、生まれてもいない、未来の。


「そ、そんな……」声が、震えた。「君が、僕の……?」


『信じられないのも、無理はない』その声は、苦笑するように言った。父の温かい声とは、違う。もっと低く、硬く、どこか、ひどく疲れていた。『あんたは、まだ十七、くらいか。……俺をつくる気配も、ないわけだ』


僕は、混乱したまま、その声に向き合った。胸の灯を通じて繋がる、未来の気配。それは確かに、僕の血と同じ波長を持っていた。父と繋がったときと、同じ。けれど、流れる方向が、逆だった。過去ではなく――未来から。


「君は……陽、っていうのか」僕は、おずおずと尋ねた。さっき、声が、確かにそう名乗った気がした。いや、まだ名乗ってはいない。なのに、なぜか、その名が、口をついて出た。


『……へえ』声が、わずかに驚いたように揺れた。『まだ、教えてないのに。よく分かったな。――ああ。燈本陽ともと ひなた。あんたが、つけてくれた名前、らしいぜ』


僕が、つけた。未来で。この子に。


くらり、と、めまいがした。


『時間がない。手短に話す』陽の声が、硬くなった。『俺のいる時代――今から、二十年以上先の未来は。もう、終わりかけてる』


「終わりかけてる……?」


『灰村の、灰返り。あれが、いよいよ仕上げの段階に入ってるんだ』陽の声に、苦いものが混じった。『世界が、少しずつ崩れてる。あったはずのものが、消えていく。人が、街が、記憶が。まるで、最初からなかったみたいに。――燈本の血が、根から削られていってるからだ』


僕は、ぞっとした。守屋さんの言った、灰返り。それが、未来で、現実になっている。


『こっちで、いくら足掻いても。もう、手遅れなんだ』陽の声が、低く言った。『仕上がりかけてる灰返りは。未来からじゃ、止められない。だから――過去に、遡るしかない。あんたや、もっと前の時代で、灰返りの芽を潰すしか』


『俺は、ずっと探してた。時を越えて繋がれる、血族を』陽は、言った。『あんたの灯が目覚めて、強くなるのを、待ってた。ようやく、こうして、はっきり繋がれた。――頼む、父さん。あんたの時代で。灰村を、止めてくれ。じゃないと……俺の世界は、本当に、消える』


『俺には、視える』陽が、続けた。『この〈灯路とうろ〉って力で。どの行動が、どんな未来に繋がるか。灰村が、どこに、何を仕込んだか。――だから、俺が導く。あんたが、何をすべきかを。あんたは、それを、あんたの時代で、実行してくれ』


未来の息子が、滅びかけた世界から、僕に手を伸ばしている。彼の視る力で、道を示し。僕に、託す。


僕の胸が、熱くなった。


この子は。僕の息子は、たった一人で、滅びゆく世界で、ずっと戦ってきたんだ。誰に頼ることもできずに。父である、僕すらいない未来で。


「……陽」僕は、言った。「分かった。僕が、止める。君の世界を……君を、消させたりしない。絶対に」


しばらく、沈黙があった。やがて、陽が、ぽつりと言った。


『……あんたは、そういう奴なんだな』その声に、初めて、ほんの少し、柔らかいものが混じった。『困ってる奴を、放っておけない。――母さんが、言ってた、とおりだ』


母さん。未来の、僕の――妻。


聞きたいことが、山ほどあった。けれど。


『時間だ。長くは、繋いでいられない』陽の声が、遠のきはじめた。『また、繋ぐ。次は……灰村の、次の動きを、伝える。気をつけてくれ、父さん』


「あ、待って、陽――!」


声は、ふっと、途切れた。


僕は、しばらく、呆然としていた。


過去の父と。未来の息子と。僕は、その両方と繋がった。時を越えて。


失った過去。滅びかけた未来。そのまんなかで、僕は、何をすべきか。


答えは、もう、決まっていた。


繋ぐんだ。この灯を。父から、僕へ。僕から、息子へ。そして――その先の、未来へ。


灰返りを、止める。三つの時代を、繋いで。


僕の本当の戦いは、ここから始まる。

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