第7話:覚醒者
輸送車へ戻る頃には、空は暗くなり始めていた。
誰も大きな声を出さない。
初めて本物のオートマティックエネミーと戦った新人たちは、明らかに疲弊していた。
「……死ぬかと思った」
新人の一人が座席へ身体を預けながら呟く。
「実際、反応遅れてたら死んでたぞ」
無精髭の男が前を向いたまま答えた。
車内の空気が少し重くなる。
冗談ではない。
外縁領域では、本当に簡単に死ぬ。
それを全員が理解した直後だった。
来夏は窓の外を見ていた。
だが、視線は景色を見ていない。
さっきの戦闘を思い出している。
「……敵、止まったよね」
小さな声だった。
俊也は隣に座ったまま答えない。
「私、何かしたのかな」
「考えすぎだ」
短く返す。
だが俊也は理解していた。
あれは偶然じゃない。
(前世では見たことがない反応だった)
来夏の中で、何かが起き始めている。
輸送車が国家覚醒機関へ戻る。
重いゲートが開き、車両が地下格納庫へ入っていく。
「新人はそのまま第三区画へ移動!」
職員の声が響く。
「装備返却後、戦闘評価を行う!」
「戦闘評価?」
新人の一人が反応する。
「実戦後は毎回やるんだよ」
無精髭の男が言う。
「覚醒者は戦うたびに変化するからな」
その言葉に、車内の空気が少し変わった。
「変化……?」
誰かが呟く。
■戦闘後検査
第三区画。
そこは病院にも研究施設にも見える場所だった。
白い壁。
大量のモニター。
透明な隔離ガラス。
新人たちは一列に並ばされる。
「順番に測定を行います」
白衣の女性が淡々と言った。
「今回の戦闘で発生した適応反応、能力変化、身体強化率を確認します」
来夏が小声で聞く。
「身体強化率って?」
「覚醒者はエネミーを倒すことで身体が変化する」
白衣の女性が答えた。
「正確には、“オートマティックデバイス”を破壊することで発生するエネルギーを吸収している状態です」
新人たちがざわつく。
「それって……レベルアップみたいなものですか?」
誰かが聞いた。
「近いですが、少し違います」
モニターに人体の映像が映る。
神経。
脳。
血流。
そして全身に広がる青い光。
「覚醒者は通常人類と脳構造が異なります」
「エネミー撃破時、脳内に特殊信号が流れ込み、それを処理・適応できる人間のみが覚醒者として成長します」
「適応できない一般人が同じ現象を受けた場合、脳が耐えられません」
空気が静まる。
つまり。
覚醒者は“選ばれた人間”なのだ。
■測定開始
新人の一人が装置へ入る。
透明な円筒状の機械。
数秒後、モニターへ数値が表示される。
『身体強化率:3.1%』
『神経反応速度:D』
『戦闘適応:E+』
「うわ……マジで数値出るのか」
空気が少しざわつく。
来夏が俊也を見る。
「こういうの、昔のゲームみたいだね」
「似てるだけだ」
俊也は短く答えた。
だが内心では違った。
(前世では、ここから全てが始まった)
■覚醒者の本質
白衣の女性が続ける。
「覚醒者には個人差があります」
「単純な身体強化だけの者」
「感覚能力に特化する者」
「特殊能力が発現する者」
「そして極稀に、“領域変異型”と呼ばれる覚醒者が確認されています」
その言葉で、俊也の目がわずかに動く。
(もうそこまで研究されてるのか)
前世より早い。
■来夏の測定
「次、一ノ瀬来夏」
来夏が装置へ入る。
数秒。
モニターが動く。
『適応率測定中』
『脳波解析中』
その瞬間だった。
画面が乱れる。
『ERROR』
『UNKNOWN SIGNAL DETECTED』
室内の空気が変わる。
白衣の女性が眉をひそめる。
「……もう一度測定して」
再測定。
だが結果は同じだった。
『測定不可』
ざわつく室内。
「え、なにこれ……」
来夏本人が一番困惑していた。
■俊也の違和感
俊也はモニターを見る。
その瞬間。
視界にだけ、別の文字が表示される。
《POTENTIAL ATTRIBUTE:UNOPENED》
すぐ消える。
(やっぱりか)
俊也は静かに目を閉じる。
来夏の能力は、前世には存在しなかった。
つまりこれは。
前世と“違う未来”が始まっている証拠だった。
■俊也の測定
「次、笹水俊也」
俊也が装置へ入る。
モニターが動く。
『身体強化率:8.9%』
『神経反応速度:B』
『戦闘適応:A-』
室内が静まる。
新人でこの数値は異常だった。
無精髭の男が目を細める。
「お前、本当に新人か?」
俊也は何も答えない。
だが問題は別にあった。
俊也の視界にだけ、さらに別の表示が浮かぶ。
《SYSTEM LINK POSSIBILITY CONFIRMED》
《HUMAN REPAIR SYSTEM:OBSERVING》
その瞬間。
俊也の背筋に冷たい感覚が走った。
(見られてる)
前世でも、この表示が出た覚醒者は少なかった。
そして、その多くが――
死んだ。




