第18話:本物のAランク
黒い腕が増殖していく。
切っても。
壊しても。
終わらない。
まるで“増えている”。
「クソっ……!」
覚醒者の一人が吹き飛ばされる。
地面を転がり、壁に叩きつけられた。
「医療班!!」
怒号が飛ぶ。
だが、それすら追いついていない。
無数の黒い腕が空中を走る。
槍のように。
鞭のように。
生き物みたいに。
「右から来るぞ!!」
「避けろ!!」
覚醒者たちが必死に動く。
だが。
速い。
さっきまでとは比べものにならない。
「学習してる……」
俊也が小さく呟く。
攻撃の回避。
人間の反応。
戦い方。
全部覚え始めている。
一本の腕が俊也へ飛ぶ。
速い。
だが俊也は“見ていた”。
(右)
瞬間。
俊也は脚へ集中する。
地面を蹴る。
身体が横へ流れる。
直後。
腕が通過する。
風圧だけで地面が裂けた。
(今の速度なら避けられる)
だが。
次の瞬間、別方向から二本。
「っ――」
俊也は腕へ集中。
瓦礫を殴り飛ばし、軌道を逸らす。
衝撃。
腕の骨が軋む。
(まだ長時間は無理だ)
身体強化は万能じゃない。
一点を強化すれば、他が落ちる。
それが今の限界。
その時だった。
「おい新人」
零牙が前に出る。
「覚醒者の戦いってのを見せてやる」
空気が変わる。
来夏が息を呑む。
「また……」
違う。
さっきまでとは。
零牙の周囲に、薄い“光”が走っていた。
「瞬閃・八式」
消えた。
本当に。
“視界から”。
次の瞬間。
ズドォォォォン!!!
衝撃。
黒い腕が一斉に吹き飛ぶ。
遅れて爆音が響く。
「は……?」
来夏が固まる。
誰も動けない。
速すぎる。
見えなかった。
零牙は止まらない。
「瞬閃・十式」
今度は連撃。
空間を跳ぶような高速移動。
黒い腕が次々に切断される。
爆発。
衝撃。
崩壊。
戦場そのものが揺れていた。
俊也はそれを見ていた。
(これがAランク)
身体強化だけじゃない。
経験。
判断。
技術。
全部が異常。
身体能力を一点強化しても。
今の自分では。
“戦いにならない”。
だが俊也は目を逸らさない。
(でも――)
(すぐに追い越す)
そう確信していた。
前世で、生き残った。
最後まで。
誰よりも長く。
その経験だけは、本物だった。
「ねぇ……」
来夏が小さく呟く。
「スキルって……みんな使えるの?」
俊也は少し考える。
「いや」
「使えない奴の方が多い」
「適性が必要だ」
来夏は少し黙る。
そして。
「……俊也も使えるようになるの?」
俊也は黒い腕を見る。
「なる」
「はずだ...」
その瞬間。
黒い腕が止まる。
空間が静かになる。
嫌な静寂。
俊也の表情が変わる。
(まずい)
前世の記憶が反応する。
これは知っている。
“次の段階”に入る前兆だ。
黒い地面が盛り上がる。
ズズズズズ……
今までとは比較にならない規模。
覚醒者たちの顔が凍る。
そして。
地面の奥から、“何か”が起き上がる。
それはもう“腕”ではなかった。
巨大な“人型”。
その頭部には。
赤い“目”が一つだけ付いていた。
零牙が初めて笑みを消す。
「……おいおい」
「マジかよ」
俊也は静かに前を見る。
そして小さく呟く。
「第二段階……」
「来たか」




