第17話:第二形態
黒い手が崩れていく。
だが。
完全には消えない。
「……再生してる?」
来夏が息を呑む。
崩れたはずの部分が、黒い粒子になって集まり始めていた。
零牙が小さく舌打ちする。
「やっぱりそう来るか」
その声には、少しだけ緊張が混じっていた。
俊也は黒い手を見ていた。
(違う)
さっきまでとは、動きが変わっている。
“迷い”がなくなっていた。
まるで。
こちらの攻撃を理解したみたいに。
「学習速度が上がってる……」
俊也が小さく呟く。
零牙が目を細めた。
「分かるのか?」
「なんとなくですけど」
俊也は視線を逸らさない。
前世でも見た。
このタイプのAIは、一度見た攻撃に適応する。
そして適応が終わると、急に強くなる。
その時だった。
黒い手の“指”が割れる。
ズズズズ……
中から、新しい“腕”が出てくる。
細い。
だが数が多い。
「なっ……」
一本じゃない。
十本。
二十本。
無数。
黒い腕が空中に広がっていく。
「形を変えてきやがった……!」
零牙の声。
次の瞬間。
腕が“飛んだ”。
槍みたいな速度。
「危ねぇ!!」
覚醒者の一人が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
俊也が反射的に動く。
今度は“腕”に集中。
瞬間的に筋力を強化。
飛んできた瓦礫を殴り飛ばす。
「っ……!」
腕に激痛が走る。
(まだ耐えきれない)
強化に身体が追いついていない。
その瞬間。
零牙が前に出る。
「下がってろ新人共」
空気が変わる。
今までよりも、さらに。
“重い”。
来夏が小さく息を呑む。
「これ……」
俊也も分かっていた。
さっきまでと違う。
今の零牙は、“本気”に近い。
「瞬閃――六式」
消える。
次の瞬間。
無数の腕が一斉に切断される。
遅れて衝撃が来る。
ドゴォォン!!
空気が裂ける。
「すご……」
来夏が言葉を失う。
だが。
切断された腕が、また動き始める。
「再生まで早くなってるぞ!」
誰かが叫ぶ。
俊也は目を細める。
(再生じゃない)
(作り直してる)
壊れた部分を、“新しく生成”している。
つまり。
核を壊さない限り終わらない。
その時だった。
俊也の視界に、一瞬だけ“線”が見える。
黒い手の奥。
どこか一点へ繋がっている。
(あれは……)
エネルギーの流れ。
いや。
“命令系統”。
俊也は息を呑む。
(本体は別にいる)
ここにいるのは、ただの“端末”だ。
前世の記憶が一瞬だけ蘇る。
巨大な黒い空。
崩壊した都市。
そして。
世界の奥にいた、“何か”。
「零牙さん!!」
別方向から叫び声。
振り向く。
新しい裂け目。
そこからさらにエネミーが出現していた。
「冗談だろ……」
覚醒者たちの顔に焦りが走る。
零牙が小さく笑う。
「いいねぇ」
「やっと面白くなってきた」
次の瞬間。
零牙の周囲に“光”が走る。
今までとは明らかに違う。
来夏が震えながら呟く。
「また……スキル?」
俊也は静かに前を見る。
そして理解する。
(ここから先が、本当のAランク戦闘か)




