第16話:戦い方の差
黒い手が空間を握りつぶす。
C-17区画の一部が、まるごと消えていた。
「全員下がれ!!」
零牙の声が響く。
だがその中で、俊也だけは違う動きをしていた。
俊也は走りながら考えていた。
(身体強化は“分散”する)
覚醒者は全身の能力を同時に使えるわけじゃない。
力・速度・反応。
どれかに“意識”を寄せることで、一時的に強化できる。
だがその分、他が弱くなる。
(だから皆、安定を無意識に取る)
(でも本来は違う)
俊也は一瞬だけ“足”に集中する。
踏み込みが変わる。
地面が割れるような加速。
黒い手の圧縮範囲から一瞬だけ抜ける。
「速い……!」
誰かが声を上げる。
だが次の瞬間。
俊也の呼吸が乱れる。
(……やっぱり無理か)
全身のバランスが崩れる。
集中は一点。
でも維持できない。
俊也は理解していた。
今の自分はまだ――
「Cランク上位程度だ」
(届かない)
あの“圧”には。
その瞬間だった。
「じゃあ、見せるぞ」
零牙が前に出る。
空気が変わる。
次の瞬間。
彼の身体が“軽くなる”。
いや、違う。
“消えたように見えた”。
「瞬閃」
空間が裂ける。
黒い手の“中心”に衝撃が走る。
一撃。
だがそれで終わらない。
「瞬閃・二式」
もう一撃。
さらに――
「瞬閃・三連」
空間が連続で破壊される。
黒い手が初めて“ひるむ”。
俊也はそれを見ていた。
(これがAランク)
(スキル)
(身体能力じゃない)
“技術そのものが別物”。
「ねえ……」
来夏が震えながら言う。
「さっきの……なに?」
「スキル?」
俊也は少しだけ頷く。
「そうだ」
来夏は目を見開く。
「スキルって……あんなことできるの?」
■崩壊する戦場
黒い手が再び動く。
今度は“学習後”。
速度が上がっている。
零牙が舌打ちする。
「チッ、もう対応してきたか」
「なら――」
「瞬閃・連結」
空間が連続で裂ける。
一撃ではない。
“戦術そのもの”。
黒い手の動きが崩れる。
俊也はその戦いを見ていた。
(今の俺じゃ、まだ無理だ)
身体能力を一点に集中しても届かない。
スピードも。
能力も。
全部が足りない。
(でも――)
(すぐに届く)
俊也はそう確信していた。
そして、
黒い手が崩れかける。
だが完全には倒れない。
零牙が息を吐く。
「まだ終わってねぇな」
その時だった。
来夏が小さく呟く。
「ねえ俊也……」
「さっきのスキルって……」
「どうやったら使えるの?」
俊也は少しだけ間を置く。
「今は無理だ」
「でも、そのうち分かる」




