第15話:掴まれる世界
黒い地面が、呼吸しているように脈動していた。
C-17区画中央。
そこはもう“地面”ではなかった。
液体でもなく、固体でもない。
踏むたびに形が変わる、異常な空間。
「全員、戦闘配置!!」
零牙の声が響く。
空気が一気に張り詰める。
来夏は俊也の後ろにいた。
「……ねぇ、これ本当に勝てるやつ?」
「勝つ前提で来てる」
俊也は短く答える。
だが内心では分かっていた。
(まだ“本体”じゃない)
ここまでは“前触れ”だ。
地面が沈む。
次の瞬間。
空間が“引っ張られた”。
「っ……!」
覚醒者の一人が膝をつく。
「重力操作か!?」
「違う!これは空間干渉だ!!」
叫び声が飛ぶ。
零牙が舌打ちする。
「面倒くせぇタイプかよ」
その瞬間だった。
空が“裂けた”。
黒い空間の裂け目。
そこから――
“手”が出てきた。
巨大。
ビルの数倍。
そして...
人間の形をしていない。
関節が多すぎる。
骨ではなく、機械の束。
無数の赤い光が内部で点滅している。
「……は?」
誰かが声を漏らす。
次の瞬間。
その“手”が動いた。
ズンッ!!
空間が“握られた”。
地面が浮く。
建物の残骸が空中に持ち上がる。
「逃げろ!!」
零牙が叫ぶ。
だが遅い。
覚醒者の一人が、空間ごと圧縮される。
「っ――」
声も出ない。
一瞬で消えた。
血すら残らない。
「……クソが」
零牙の声が低くなる。
初めて“本気の温度”が混じった。
俊也の視界が揺れる。
《PATTERN OVERLOAD》
(まずい)
このタイプは知っている。
“掴む”。
物理じゃない。
存在を。
「笹水!!」
零牙の声。
「上だ!!」
俊也は反射で飛ぶ。
次の瞬間。
さっきまでいた場所が“消えた”。
地面が丸ごと握り潰されている。
「……今の、見えてたのか?」
零牙が一瞬だけ振り返る。
俊也は答えない。
だが確かに見えていた。
“来る瞬間”が。
その時。
「うっ……」
来夏が膝をつく。
「またか」
俊也がすぐに寄る。
来夏の目が揺れている。
「なんか……」
「頭の中で……」
「“声”が……」
俊也の表情が変わる。
(干渉が強くなってる)
Human Repair System。
この戦場そのものが、来夏に“接続”してきている。
■零牙の決断
「全員下がれ」
零牙の声が変わる。
軽さが消えていた。
「これは新人がどうこうの話じゃねぇ」
「空間ごと殺しに来てる」
黒い“手”が再び動く。
今度はゆっくり。
まるで観察するように。
そして――
“俊也”の方向へ向いた。
《TARGET LOCK》
俊也の視界に文字が浮かぶ。
(やっぱりか)
この個体はもう理解している。
“誰が危険か”。
そして次の瞬間。
空間が“伸びた”。
手が俊也を掴みに来る。
「来るぞ!!」
零牙の声。
俊也は一歩横へ。
だが――
遅い。
空間が追ってくる。
“捕まえにくる”。
「くそっ……!」
俊也の足が止まる。
その瞬間。
別方向から光が走る。
零牙のスキル。
空間が“裂かれる”。
黒い手の一部が崩壊する。
「今のは効いたぞ……!」
誰かが叫ぶ。
だが。
手は“再生”していた。
黒い手が、ゆっくりと開く。
その中心。
“目”があった。
こちらを見ている。
そして。
俊也の視界に、最も嫌な文字が出る。
《LEARNING SPEED INCREASED》
(……学習してる)
この戦いはもう、
“勝つか負けるか”じゃない。
黒い手が再び動く。
今度は一撃ではない。
“空間全体”が圧縮され始める。
零牙が叫ぶ。
「全員、戦闘継続!!」
「ここからが本番だ!!」
俊也は前を見る。
そして小さく呟く。
「……まだ、序盤かよ」




