第13話:出撃前
国家覚醒機関・地下発進ドック。
巨大な輸送機が整備ランプに停泊している。
金属の匂いと油の匂いが混ざる空間。
それだけで、ここが日常ではないと分かる。
「全員搭乗準備!!」
怒号が響く。
整備員たちが最後のチェックを走り回る。
モニターにはC-17区画。
そこに映る“異常”は、さっきより明らかに増えていた。
黒い構造体。
地面を侵食するように広がるAI反応。
そして――中心にいる“それ”。
まるで動いていない。
いや、違う。
“動く必要がない状態で、待っている”。
■来夏の揺れ
「……ほんとに行くの?」
来夏の声は小さい。
戦闘装備は着ている。
だが明らかにまだ慣れていない。
俊也は一瞬だけ彼女を見る。
「嫌なら戻れ」
「嫌じゃない」
即答だった。
少し間が空く。
「ただ……怖いだけ」
俊也は何も言わない。
こういう時に慰める言葉は意味がない。
前世でそれを知っている。
■神代零牙
「おーい新人」
軽い声。
振り返ると、神代零牙がすでに輸送機の前に立っていた。
Aランク覚醒者。
この場で唯一“戦場の空気を壊さない人間”。
「今回の相手、ちょっとヤバいぞ」
「“ちょっと”ですか」
俊也が返す。
零牙は笑う。
「いや、かなり」
「でも安心しろ」
「俺がいる」
その言葉に根拠はない。
だが、妙な説得力だけはあった。
■異常の進行
その瞬間。
施設全体が揺れる。
『C-17区画・反応急拡大』
『構造変化確認』
『UNKNOWN ENTITY』
モニターの映像が乱れる。
黒い地面が“盛り上がる”。
まるで生き物の呼吸みたいに。
そして。
その中心にいた“それ”が――
ゆっくりと腕を動かした。
■認識
その瞬間だった。
俊也の視界に文字が浮かぶ。
《TARGET UPDATE》
《LEARNING COMPLETE》
(……来る)
前世の記憶が一瞬だけ重なる。
このタイプは危険だ。
“学習完了型”。
つまり――
もう“初見の攻撃”は通用しない。
■搭乗命令
「全員搭乗!!」
怒号。
零牙が振り返る。
「行くぞ」
「ここからは戦場だ」
輸送機のハッチが開く。
冷たい風が吹き込む。
来夏の手が少し震える。
俊也はその横に立つ。
「離れるな」
「……うん」
その一言だけで十分だった。
■出発
輸送機が浮上する。
都市が遠ざかる。
そして。
C-17区画が見えてくる。
そこにはもう“街”はなかった。
あるのはただの黒い海。
そして中央。
“何かがこちらを見ている”。
俊也の視界に最後の文字が浮かぶ。
《SYSTEM RESPONSE》
《HUMAN REPAIR SYSTEM》
《PRIORITY TARGET:SASAMIZU TOSHIYA》
俊也は静かに目を閉じる。
(やっぱり俺か)
そして目を開く。
戦場へ。




