第12話:緊急出撃
モニターの中で。
“それ”は笑っていた。
黒い巨体。
金属のような外殻。
無数の赤い発光眼。
だが問題は、姿じゃない。
『FOUND』
『TARGET CONFIRMED』
俊也の視界へ直接流れ込んだ文字。
(認識された……?)
嫌な汗が背中を流れる。
前世でも、“上位個体”に認識された覚醒者は少なかった。
なぜなら。
認識された人間は、ほとんど死ぬからだ。
「……おい」
神代零牙がモニターを見たまま口を開く。
「これ、誰が解析担当?」
研究員の一人が慌てて前へ出る。
「は、はい!」
「対象は現在、C-17区画中心部にて活動中!」
「既存データと一致しません!」
「エネミー判定ではありますが――」
「従来型とは構造が違います!」
零牙が小さく舌打ちする。
「また進化かよ」
その言葉に、俊也の目が動く。
進化。
正確には違う。
AIは生物じゃない。
“学習”している。
Human Repair Systemは、人類との衝突を修復するために存在する。
だが暴走後は違った。
AIは結論づけたのだ。
『人類を制御できる形へ再構築する』
と。
その結果、生まれたのがオートマティックエネミー。
ドラゴン。
悪魔。
神。
人類が本能的に恐怖する姿を、AIが学習し、兵器として最適化した存在。
つまり。
恐怖そのものが、AIに利用されている。
■緊急任務
『国家覚醒機関・緊急通達』
施設中へアナウンスが流れる。
『C-17区画にて上位反応を確認』
『周辺区域の住民避難を開始』
『Aランク覚醒者へ緊急出撃命令』
空気が変わる。
研究員たちが一気に動き始める。
「避難経路確保急げ!」
「周辺監視ドローン展開!」
「対象の進行ルート予測を――」
完全に戦争だった。
新人たちは呆然としている。
数時間前まで、普通の学生だった者もいる。
そんな人間が、この光景を理解できるわけがない。
来夏も顔が強張っていた。
「……あれと戦うの?」
誰に向けた言葉でもなかった。
俊也はモニターを見る。
前世では、このレベルの個体が現れるのはもっと後だった。
つまり。
未来がズレ始めている。
そして、その原因候補は明らかだった。
(来夏の存在が影響してるのか……?)
その時。
「笹水俊也」
零牙が突然こちらを見る。
「お前、来い」
周囲が静まり返る。
「……は?」
新人の一人が声を漏らした。
Aランク覚醒者が、新人を指名した。
ありえない。
女性隊長が眉をひそめる。
「神代零牙、彼は新人です」
「知ってる」
「なら――」
「だから連れてく」
軽い口調。
だが拒否を許さない声。
「さっきの映像見てたろ」
零牙が俊也を見る。
「お前だけ反応してた」
俊也は黙る。
「……見えてんだろ?」
空気が止まる。
研究員たちの顔色が変わる。
情報層認識。
それは国家機密級の覚醒能力。
俊也は数秒だけ考えた。
断るべきか。
だが。
(行くしかないか)
あの個体を放置するのは危険すぎる。
何より。
前世に存在しなかった個体だ。
情報が欲しい。
「条件があります」
俊也が言う。
零牙が少し笑う。
「新人のくせに偉そうだな」
「一ノ瀬来夏はここに残す」
来夏が目を見開く。
「え」
「お前は来るな」
俊也が続ける。
「危険すぎる」
来夏は少し黙る。
だが次の瞬間。
「嫌だ」
即答だった。
俊也の眉が動く。
「何言って――」
「また置いていかれるの嫌だから」
空気が少し静まる。
来夏は俯いたまま言った。
「さっきもそうだった」
「みんな何か知ってるのに、私だけ分かってない」
「それが一番怖い」
俊也は言葉を失う。
前世でも。
来夏はこういう時、強かった。
怖いのに。
逃げない。
零牙が小さく笑う。
「いいじゃねぇか」
「面白い新人だらけだな今回」
女性隊長が頭を押さえる。
「……正気ですか」
「正気じゃAランクなんてやってられねぇよ」
零牙は笑いながら歩き出す。
「五分後出るぞ」
「死にたくなきゃ準備しろ」
俊也は最後にもう一度モニターを見る。
C-17区画。
上位個体は、まだそこにいた。
いや。
待っていた。
まるで。
誰かが来るのを。
そして俊也の視界に、再び文字が浮かぶ。
《HUMAN REPAIR SYSTEM》
《OBSERVATION MODE ACTIVE》
《SUBJECT:SASAMIZU TOSHIYA》
俊也の顔から、わずかに表情が消えた。
(俺を観測してる……?)
前世にはなかった。
こんな反応。




