第11話:同時発生
『WARNING』
『HUMAN REPAIR SYSTEM』
『INTERFERENCE DETECTED』
赤い警告文字が施設中のモニターへ表示される。
警報音が変わった。
さっきまでの侵食体警報とは違う。
もっと低い。
もっと重い。
研究員たちの顔色が一瞬で変わる。
「……嘘だろ」
「このレベルの警報、何年ぶりだ……?」
空気が凍りつく。
俊也の背筋に冷たい感覚が走った。
(早すぎる)
前世では、この警報が本格的に確認され始めたのはもっと後だ。
Human Repair System。
AI暴走の根幹。
人類を“修復”するために生まれた、最悪のシステム。
それが今、干渉反応を起こしている。
原因はほぼ間違いなく――
(来夏)
俊也は隣を見る。
来夏は何が起きているのか理解できず、不安そうに周囲を見ていた。
「ねぇ……なんか、めちゃくちゃヤバい感じ?」
「……多分な」
「多分って何!?」
その時だった。
施設の照明が一瞬だけ落ちる。
直後。
全モニターが切り替わった。
映し出されたのは、日本地図。
その各地に、赤い光点が次々と出現していく。
ざわめきが広がる。
「外縁領域全域で反応増加!?」
「待て、同時発生数がおかしい!!」
「こんなの観測したことないぞ!」
研究員たちが一気に慌ただしくなる。
モニターの数字が高速で増えていく。
『AUTOMATIC ENEMY RESPONSE』
『CONFIRMED』
『12』
『36』
『81』
『147』
「……は?」
新人の一人が声を漏らす。
数が異常だった。
普通、エネミーは局地的に出現する。
こんな風に全国同時発生することはない。
しかも。
『REACTION TYPE:UNKNOWN』
解析不能。
俊也の目が細くなる。
(前世で見たことがない)
その時。
施設全体へアナウンスが響いた。
『全覚醒者へ通達』
『国家覚醒機関は警戒態勢レベル3へ移行します』
『全戦闘員は待機』
『繰り返します――』
空気が一気に戦場へ変わっていく。
■Aランク
「全員、下がれ」
低い声が響いた。
その瞬間。
研究員たちの空気が変わる。
通路の奥。
数人の人物がこちらへ歩いてきていた。
全員、黒い戦闘コートを着ている。
その中心。
長い銀髪の男。
年齢は二十代後半ほど。
周囲の新人たちが息を呑む。
「あれ……」
「まさか……」
「Aランク……?」
俊也の目がわずかに動く。
(もう出てくるのか)
Aランク覚醒者。
国家最高戦力。
一人で戦況を変える化け物。
普通の新人が見る存在じゃない。
銀髪の男は歩きながらモニターを見る。
「同時発生ねぇ」
軽い口調。
だが空気は重い。
「しかもHuman Repair System干渉」
男の視線がゆっくり来夏へ向く。
その瞬間。
空気が張り詰めた。
俊也は無意識に一歩前へ出る。
銀髪の男が少し笑う。
「へぇ」
「その反応、嫌いじゃない」
女性隊長が口を開く。
「神代零牙」
「現在、対象の監視を――」
「知ってる」
銀髪の男――神代零牙が遮る。
「俺が来た理由、それだろ?」
来夏が少し怯える。
零牙はそんな来夏を数秒見たあと、俊也へ視線を戻した。
「お前」
「名前は?」
「……笹水俊也」
零牙が少しだけ笑う。
「面白い目してんな」
俊也は何も答えない。
だが理解していた。
この男は強い。
今の自分では勝てない。
前世基準でも。
かなり上位だ。
■異常進化
その時だった。
研究員が叫ぶ。
「待ってください!!」
「外縁領域C-17、映像来ます!!」
モニターが切り替わる。
映し出されたのは、俊也たちがいた廃墟区域。
だが様子がおかしい。
地面が脈動している。
まるで生き物みたいに。
「なんだよ……これ」
新人が呟く。
次の瞬間。
地面が割れた。
巨大な“腕”が現れる。
黒い金属。
無数の赤い目。
研究員たちが凍りつく。
『Classification Error』
『Classification Error』
『Classification Error』
解析が追いついていない。
そして。
その化け物が、ゆっくり空を見上げる。
直後。
モニター越しなのに。
俊也は目が合った気がした。
《FOUND》
視界に文字が浮かぶ。
俊也だけに。
《TARGET CONFIRMED》
背筋が凍る。
前世で一度だけ見た。
“上位個体”が、人間を認識した時の反応。
そして化け物は。
笑ったように感じた。




