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最終話 妄執の果て

 その日、王国では数えきれないほどの流星が降り注いでいた。その流星が落ちた地では一つの巨大なカプセルが落ちており、ゆっくりとそのカプセルが花が咲くかのように開かれていく。その中から、機械のドラゴンが現れ、うかつに近づいた人間や魔獣を容赦なく撃ちぬいていく。


「団長、メタルドラゴンを確認。こちらに近づいてきます」


「各団員に告ぐ。すでに敵の情報は割れている。その対策もしてきた。お前たちの日々の特訓の成果を見せてやれ!」


 ソフィーたちの活躍により、処刑をまぬがれたレオンの号令と共に団員達がメタルドラゴンに向けて前進していく。敵を見つけたメタルドラゴンが両の手から魔力弾を放って行く。


「プロテクション!」


 後列の魔法使いたちによって阻まれ、彼らの前進は留まらない。それをみたメタルドラゴンは胸部のハッチを開き、魔法使い殺しの弾丸が装填されているバルカン砲をパラパラと放っていく。


「前衛、盾を構えよ!あれは魔法で防げないぞ」


 前衛部隊が大盾で後列の魔法使いを守っていくが、一発一発の弾丸によって盾が少しずつ削り取られていく。だが、魔法使いの呪文詠唱を終えるまでの時間を稼ぐことができ、雷・炎・水、あらゆる魔法が胸部に向けて放たれていく。


「あの攻撃をしている間、奴らは耐魔力コーティングをしている装甲の内側をさらけ出している。今が最大のチャンスだ。後のことを考えずに撃ち続けろ」


 部下たちの活躍を見ながら、レオンもまた自身の愛用の槍をもって、対処が遅れているメタルドラゴンに対峙する。


「元は人間だったと聞く。せめて、この一撃で楽にしてやろう。ブレイクハァァァァト!!」


 レオンがメタルドラゴンの装甲ごと胸部を貫き、破壊していく。まだ、奥からも数多くのメタルドラゴンが見えている上に流星は止む気配がない。


「ここから先、お前らには王都に指一本で触れさせはせん!ウォォォォ!!」


 レオンはメタルドラゴンに吠えながら、次から次へとメタルドラゴンを葬っていく。


 王国で戦場になっているのは王都だけではない。レーラントもハーフレンもコダインも、王国全土で同様の戦いが起こっている。だが、彼らは知っている。彼らの希望がまだ潰えていないことに。



 数少ない生存者の手当てを施した後、茫然自失となった彼らをセントラルタワーに避難させたソフィーたちは今後どうするか話し合っていた。夜空には死をもたらす流星雨が王国に向けて降り注いでいる。


「衛星軌道上からの超距離狙撃。もう二度と二度目を撃たせるわけにはいかない」


「うん!でも、問題はどうやってそこまでいくかだよね。お姉ちゃん、そこまで飛べる?」


「無理だな」


「……でもあそこにあるってことは運んだ人がいるってことだよね」


「そういえばアンドリュー博士に転移装置を作らせていたと聞いたことがある。おそらくそれを使って輸送していたのだろう」


「でも、その博士は……」


「君たちが殺した……いや、責めているわけではない。君たちが食い止めていなければ、今頃全面戦争をしていただろうから、感謝はしている」


「終わったことを言っても仕方がない。その博士の研究内容、または試作品があれば、あそこまで行けるはずだ」


「博士の研究施設か……もしかすると城跡に何かあるかもしれん」


「行こう!何もしないより、何かしたほうがいいよ」


「ああ。ソフィー、また身体を借りるぞ」


 ソフィーが再びマリアに変身し、アクセルを抱いて北東部へと飛翔する。いつ砲撃がとんでくるか不明なため、マリアは可能な限りの速度で城跡へと向かうのであった。



 ソフィーたちがクレーターのようになっている城跡の周りを探索していると、森の中から爆発音が聞こえた。


「何の音?」


「分からん。だが、少なくとも人がそこにいるということだ。急ぐぞ」


 アクセルの言葉に同意し、二人は森の奥へと進む。生い茂っている草木をかき分けながら、進むと質素な小屋とドアの前で真っ黒っけになっているエミリーの姿がいた。エミリーは突然の来訪者に目を点にし、そのあと耳を防ぎたくなる大声で叫ぶ。


「ああ~、なんであんたがここにいるッス!? しかも皇子殿下まで!」


「それはこっちのセリフだよ。あのときの戦いで死んでなかったの?」


「博士が助けてくれたッス。今はこうして博士の後をついで日々研究の日々ッスよ」


 笑顔で受け答えしているエミリーに対してアクセルは自分が思った疑問を問い投げる。


「お前は……この子を憎まないのか。いや、憎めといっているわけじゃないのだが……」


「憎いっすよ。今、握っているドライバーで突き刺したいと思うくらいには。でも、それじゃあ博士が喜ばないから駄目ッス。あたしの勝ちは科学でその子を倒すことッス!」


 エミリーは初めて窓越しでも、障壁越しでもなく、ソフィーの顔を生で見て、向き合う。


「今、開発しているビーストエンペラーができたら、今度こそ勝つッス!そのときは、戦ってくれるッスよね?」


「ははは……誰も巻き込まないならね」


「約束ッスよ……ってなんであんたたち来たッス?」


「ああ、実は転移装置であそこまで行きたいんだ」


 アクセルが夜空を指さす。すでに流星雨は止んでいるが、それが何を意味しているのかをエミリーは分かったのか首を横に振る。


「無理ッス。ラグナロクを止めるなんて」


「でも、私たちはどんな状況でもあきらめないで戦ってきたよ、エミリーちゃん」


「そうッスけど……あそこにはトンデモ兵器があるッスよ。いくらあんたでも勝てるわけないッス!」


「だとしても私たちは行かないといけないから。この戦いを止めるためにも」


「力を貸してくれ……頼む」


「うう、皇子殿下まで……約束するッス。必ず帰ってくるって!」


「うん。もちろんだよ!」


 エミリーが小屋の中へと二人を招き入れる。その中は爆発の影響かそれとも普段からそうなのか紙片があちらこちらに散らかっており、いすが転がっている。エミリーが床の一部を剥がすと地下へと続く階段が現れる。

 二人が地下に降りると、マザーコンピューター程ではないが、巨大なコンピューターとモニターが所せましと並んでおり、その中央部にはカプセルが一つ置かれていた。


「あのあと転移装置に興味を持ったあたしが作った転送装置部屋ッス。博士みたいには作れなかったからこんな大掛かりな装置にはなったッスけど」


「すごいよ、エミリーちゃん!」


「そんなこと無いッスよ。こんなこともあろうかと二人までなら同時に転送が可能ッス!ラグナロクの座標は博士が遺してくれていたから、問題ないッス」


 エミリーに言われて半透明のカプセルに二人は入っていく。そして、エミリーがコンソールを操作し、転送の準備をしていく。


「存在証明クリア。転送準備完了ッス。転送開始まで3……2……1……」


 カウントダウンが終わると同時にカプセル内の二人の姿が消えるのを見届けたエミリーは外に出て、心配そうに夜空を見上げるのであった。



 ソフィーらがあたりを見渡すと、多数の棚が陳列してある様子から倉庫の中のようだ。誰にも見つからないように棚に隠れながら、辺りを見渡しつつゆっくりと歩くと巨大なシャッターがあった。


「壊した瞬間、宇宙空間に放り出されても困る。私が確認しよう」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「私の身体は魔力で出来ているようなもの。少々の時間なら宇宙にいても問題はない」


「そういえばそうだね。それじゃあ、お願い」


 マリアがシャッターの外に顕現する。そこには自分たちの星を見下ろせる丸窓がついた長い通路が延々と続いていた。ソフィーたちと合流したマリアはそのことを伝え、アクセルのバーストショットでシャッターを破壊し、中へと入っていくのであった。


 さすがに侵入がばれたのかレジスタンスが次から次へと襲いかかるが、ソフィーのリフレクションを貫くこともできず、爆発の花を咲かせるだけに過ぎない。


「意外と楽に進めるな」


「というより人が見当たらないよ。それにレジスタンスだけなら私だけで完封できるもの」


「多様性を失ったせいで突出した能力に対応できなくなったか。あと回っていないのは上の階だけだ。この勢いで行くぞ!」


 上の階に上がり、扉を開けると大広間に一人の金髪の可憐な少女が佇んでいた。そして、奥のモニターからニコラス皇帝の顔が映し出される。


「まさかここまでたどり着くとは思いもしなかったよ」


「もはやあんたを父さんとは呼ばない。悪逆皇帝ニコラス、お前は俺がこの手で殺す!」


「私を悪というか。それはいい。だが、君たちにはこの子の相手をしてもらう」


 少女がスイッチでも入ったかのように動き出し、腰の剣を抜いて赤い目を灯す。そして、ターゲットを見定めた彼女はアーグレイと同じく一瞬にして消え、マリアに斬りかかる。バチバチと火花が散る中で、マリアは力づくに押し戻すと、少女は最初の定位置まで戻る。


「この子は君の戦闘能力をベースにし、アーグレイが持っていた弱点を克服した次世代改造人間だ。量産ができ、為政者に逆らわず、戦いの駒になれる理想的な人間だろ。おっと、名前をつけるのを忘れていたよ。オリジナルを倒してマリアとでも名付けようか」


「あいにくだが、この名をだれかに譲るつもりはない。私は私だ」


「そう言っていられるのも今のうちだ。では『マリア』、君の健闘を祈る」


「了解シマシタ。マスターノ命ニヨリ、ターゲット排除シマス」


「出し惜しみはしない。豊穣の剣よ、その力を解放せよ!」


 金色の剣が白銀の剣へと変わり、マリアの身体が金色に発光する。アーグレイの戦闘を経験したマリアにとって、呪文攻撃は隙を与える行為でしかないことを理解しているため、以前と同じく剣で応戦するしかなかった。

 だが、二の舞を踏むまいとセイクリッドテンペストを撃たずに、剣の解放とそれに伴う自身のスペックアップだけを行った。


 お互いの激しい剣の応酬に、身体のあちこちが傷ついていく。そんな中、少女の攻撃がピタリとやむ。不思議に思ったマリアは何を仕掛けられても大丈夫なように距離を取り、剣を構えなおす。


「スペック、ワタシガ上。デスガ何故、私ガダメージヲ受ケル? 理解不能」


「確かにお前のほうが速さも力も上だ。だが、それだけだ。かつての私のようにな。今の私には今まで戦ってきたもの、そのつながりがある。だからこそ、私はこの戦い……負けるわけにはいかない!」


「理解不能。理解不能。理解不能」


「理解できないなら学べばいい。だから、そこを通してくれないか」


「ソレハデキナイ。自身ヘノ被害最小限ニ抑エルタメ、内蔵武装ヲ私用シマス」


「ならば、こちらも全力で答える」


「内蔵術式解放、セイクリッドバスター!」


「私が討つべきはお前の背後にある悪意のみ。その呪縛から解き放て、セイクリッドテンペスト!」


 少女の胸元から出てきた砲塔から、極太のビームが照射される。それに対抗するは金色の嵐。二つの巨大な魔力のぶつかり合いにより、ソフィーとアクセルは吹き飛ばされそうになる。

 そして、魔力の奔流がおさまるとそこには剣を喉元に突き立てたマリアと茫然とそれを見る少女の姿があった。


「私ノ負ケ。早ク殺シナサイ」


 負けを認める少女をよそにマリアは剣をその手から消しさる。それに驚いた様子の少女がマリアに問いかける。


「ナゼ?」


「私が討つべき相手はお前ではない。私が討つのはただ1人だ」


「理解不能」


「理解できなくてもいい。だが、理解したいならついてくると良い。たとえ、その身が機械でもお前は人間だ」


「了解」


 マリアがのばして手を取り、少女は立ち上がる。階段を上っていくと、玉座で坐しているニコラス皇帝の姿が合った。そのニコラス皇帝も最後に階段を上ってきた少女の姿に驚きを隠せないようだ。


「まさか……その子を手なずけるとは。どんな魔法を使った? 洗脳でもしたかね」


「そんな魔法はない。1つ言えるのはお前が人を甘く見ていることだけだ」


「甘くは見ていないよ。だが、私を討って良いと思っているのか?」


「どういうことだ!」


「アクセル、お前はもう少し考える癖をつけるべきだ。それに私はそこの二人に聞いている」


「はい」


「私を討てば、帝国は分裂し再び戦乱の世界に逆戻りだ。それでも討つのかね」


「人はお前が考えているほど愚かなではない」


「ならば、私の死がギャラルホルンの起動の引き金になるとしてもかね」


 ニコラス皇帝が上半身をさらけ出すと左胸部の機械が赤い光を放ちながら動いている。


「すでにギャラルホルンのチャージは終わっている。私が死ねば、この装置から発せられる魔力波が受信機に伝わり、それと同時にギャラルホルンが発射され、レーラントは壊滅する。それでも討つかね?」


『自爆シークエンスに入ります。ラグナロク内に残っている職員は避難をお願いします』


 突如、鳴り響くアナウンス。その非情な作戦にマリアは怒りの声をあげる。


「ニコラス、貴様! 先は帝都の人間を、今度はレーラントの人間を人質にするつもりか」


「私が生きていれば、発射は阻止できる。つながりを断ち切って私を討つか、私を殺してつながりを断ち切るか……簡単なことだ。さあ、私を緊急用の転移装置までエスコートをしたまえ。もっとも1人しか使えないがね」


「この人を逃がすわけには……でも」


「う、討てん!このままでは……」


 二人が完全に身動きが取れない中、アクセルは1発の弾を装填する。


「安心したよ……」


「ん?」


「あんたがどうしようもないクズで!」


「私は常に最善の手を打っているだけだ」


「俺はまだ答えを出せるほどの経験を積んでいない。だが、何を討つべきかはわかっている。これが俺の……今の答えだ!ニック理」


「アクセルさん!」


「くっ……これしか方法はないのか」


 ソフィーが止めようと呼び掛けるが、その目と銃口はニコラスに向いたままだ。そして、放たれる黒い弾丸。それは一寸の狂いもなく、ニコラスの機械部を打ち抜いていく。


「こ、これは……」


「対象物の魔力自体を封じる封魔の弾丸なら、魔力波を伝えずに破壊できる。あの機械のドラゴンにも同じものが積まれていたのだろう。あと、アーグレイも言っていたぜ。むやみに乱用するなってな」


「私が倒れば……世界を手にすることが……」


「そんなものより、俺は……欲しかったものがあったんだよ、父さん」


 ニコラス皇帝が倒れたのを見て、ソフィーがあわてて窓の外を見るが、砲撃が撃たれた様子はない。それに安堵したもつかの間、繰り返し聞こえる自爆のアナウンスで我に帰った後、4人は倉庫まで走り出す。


「ここのドラゴン用の大気圏突入カプセルを使わせてもらおう。ソフィー、マリアのプロテクションがあれば、突入時の熱も防げるはずだ」


「早く乗って」


「ワカリマシタ」


 どうするか迷っていた少女がソフィーの手をとり、カプセル内に入り込んで閉じていく。そして、足元に広がる星に向けて、ゆっくりと落下していった。




 そのころ、地上では突如メタルドラゴンの動きが止まり、空には流星雨が流れていく。最初は増援かと身構えていたハンターらも、メタルドラゴンが出現しなくなったことから、誰かが帝国の兵器を破壊したのだと気づき始める。


「おい、あれを見ろ」


 キースが指をさした先にあったのは金色の流星。そして、そのカプセルが着地すると中から4人の男女が現れる。帰ってきたソフィーらは夜空を見ながら、帝国が生み出した野望の果ての流星を眺め続けた。

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