表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生のおしごと ~あなたの異世界転生、当社が請け負います(※ご本人の同意は不要です)~  作者: カミツキ
転生先は御社ですか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/28

第2話 生きて帰れそうにありません

 菜月は、数分前まで自分を刺す予定だった男の車に乗っていた。後部座席で録音中のスマートフォンを握り、運転席の成瀬へ画面を見せる。


「変な場所へ連れていったら、すぐ警察へ連絡しますから」

「分かりました」


 成瀬は速度を変えなかった。


「返事、軽くないですか」

「重く返事をしても、行き先は変わりません」

「そういうところですよ」

「どういうところですか」

「人を刺そうとしておいて、普通に会話できるところです」


 成瀬はバックミラー越しに菜月を確認したが、表情は変えなかった。


「川瀬さんを刺す計画は中止になりました。現在、川瀬さんへ危害を加える予定はありません」

「予定がなければ安心できると思います?」

「思っていません」


 謝られても許すつもりはない。だが、最初から許してもらおうとしていない態度も気に入らなかった。


「あなた、あの会社で何をしてるんですか」

「現場の仕事です」

「人を刺すのが仕事?」

「今日はそうでした」

「今日は?」

「毎回、刺すわけではありません」

「ほかに何をするんですか」

「それは高槻さんから聞いてください」


 担当外のことは答えないらしい。


 菜月は窓の外へ目を向けた。三原駅の高架が後ろへ流れ、ショッピングモールが窓を横切った。海側へ進むにつれ、低い倉庫と荷さばき場が増えていく。

 

 見慣れた三原の道だった。


 知らない山奥へ連れ去られているわけではない。それがかえって気味が悪い。自分の生活圏の中に、人を殺して異世界へ送る会社が存在していた。


「一つだけ聞きます」

「何でしょう」

「私が電話に出なかったら、成功してたんですか」


 信号機の音が、車内に響いた。


「おそらく」

「そうですか」


 高木の電話に感謝する気にはなれない。それでも、あの着信がなければ、自分は今ごろ生きていなかった。


 車は駅を離れ、瀬戸内の潮風が香る古浜(こはま)町へ入った。やがて、港沿いにある建物の前で止まる。右手には港の水面が続き、対岸の集合住宅の向こうを山並みが囲んでいた。


「ここです」


 入口脇の小さな金属板には、「株式会社ネクスト・ライフ・エージェント」と刻まれている。外から見れば、何の変哲もない事務所だった。


「普通ですね」

「会社ですので」

「普通の会社は、社員に包丁を持たせません」

「それはそうですね」


 菜月は録音が続いていることを確認し、成瀬の後ろについて建物へ入った。


 事務所には、高槻が一人で待っていた。菜月の父親より少し若く見える。きちんとしたスーツを着ており、電話で聞いた声と同じく、表情にも焦りがない。机の上には、書類と業務用の端末が並べられていた。


「高槻です」

「川瀬菜月です。そちらは知っていると思いますけど」

「はい。お掛けください」

「立ったままでいいです」

「分かりました」


 高槻は無理に勧めず、机を挟んで菜月と向き合った。


「怪我はありませんか?」

「はい?」

「成瀬さんと接触した際に、転んだり、どこかを打ったりはしませんでしたか」

「してません。心配してるんですか」

「現場事故の報告に必要です」


 高槻は端末の入力欄を開き、菜月の返答を記録した。


(殺そうとしたことは業務で、肩がぶつかったことは事故報告なん!?)


 菜月はスマートフォンを机の中央へ置いた。録音中の画面を高槻へ向ける。


「録音しています」

「構いません。ただし、この場で知った情報を第三者へ伝えた場合、機密漏洩として川瀬さんの処遇を再検討することになります」

「処遇って何ですか」

「複数の案があります。詳細は書面で説明します」

「帰れる案もあるんですか」

「あります。帰れない案もあります」

「それ、脅してますよね」

「選択肢を説明しています」


 高槻は一冊の書類を菜月の前へ置き、表紙をこちらへ向けた。


「こちらが、先ほど電話でご説明した契約に関する書類です。確認してください」


 菜月は唇を結び、机の上の契約書へ目を落とした。


 自分の名前が書かれている。

 住所も、勤務先も、退職予定も、今日面接を受けた会社も載っていた。


「気持ち悪い」

「そう思われることは理解しています」

「理解してて、やったんですよね」

「業務に必要でしたので」


 高槻は否定も弁解もせず、契約書の該当箇所へ付箋を貼った。菜月が読んでいる間、ページを急かしてめくらせることもない。


(自分を殺す契約書の方が、前の会社の雇用契約よりちゃんと読ませてもらえるんじゃけど!?)


 判断基準がおかしくなりそうだった。


「死んだ後で、転生したくないって言ったら?」

「魂を送る前に、転生先の条件を説明する場合もあります。拒否された場合は、受け入れ条件を調整します」

「生き返らせるんじゃなくて?」


 高槻は答えなかった。その沈黙だけで十分だった。菜月が書類から顔を上げたとき、机上の端末が鳴った。高槻は画面を確認した。


「異世界セルディアの依頼主、オルダンからです」

「私を買う予定だった神様?」

「契約上は受け入れ先です」


 菜月は何も言わず、高槻をにらんだ。


「少し失礼します」


 高槻は通信をつないだ。


 画面は菜月から見えない角度へ向けられている。相手の言葉は聞き取れなかったが、怒っていることだけは分かった。


「はい。弊社の不手際です」


 高槻は相手の話を遮らず、端末の記録欄へ入力を続けた。


「今回の実行は失敗し、対象者は生存しています」


 菜月は、自分が対象者と呼ばれたことに顔をしかめる。


「本人が転生予定を認識しました。本人へ転生予定を悟らせないという契約条件を満たせないため、このまま納品することはできません」


 端末の向こうから、さらに大きな声が返った。

 高槻は表情を変えず、最後まで聞いた。


「ご希望は理解しています。しかし、契約条件を満たさない人材を送れば、再度問題になります」


 画面へ一度視線を落とした。


「代替人材を用意します」


 菜月が高槻を見る。


「期限までに代替候補を提示します。契約変更に伴う追加の手配費用は、弊社が負担します」


 相手はすぐには納得しなかったらしい。高槻は確認事項を一つずつ読み上げ、合意した内容を記録していく。


(うちを殺そうとした会社の方が、前の会社よりクレーム対応の初動がまともなんじゃけど!?)


「このたびは、弊社の現場管理に不備がありました。申し訳ありません」


 通信が切れる。

 高槻は記録を保存し、端末を置いた。


 菜月は、通信相手へ頭を下げていた高槻へ冷たい視線を向けた。


「謝ることはできるんですね」

「弊社に責任がありますので」

「私には謝らないんですか」


 高槻は眉一つ動かさず、菜月へ向き直った。


「今回の計画に失敗し、秘密を知られる状況を作ったことについてはお詫びします」

「殺そうとしたことじゃなくて?」

「契約に基づく業務でした」

「やっぱり最低ですね」

「先ほども伺いました」


 菜月は息を吐いた。


「今の話だと、私の代わりに別の人を送るんですよね」

「はい」

「じゃあ、私はもう関係ないですよね」

「元の契約については、そのとおりです」

「だったら帰ります」


 菜月は机のスマートフォンを取った。

 高槻は引き止めなかった。

 代わりに、机の横に置いていた一枚の書類を取り、成瀬へ差し出す。


「成瀬さん、こちらを川瀬さんへ渡してください」

「分かりました」


 成瀬が書類を受け取り、菜月の前へ置いた。

 菜月は立ったまま読んだ。


 川瀬菜月・機密露見後の処遇案

 案一・別世界への転生

 ※死亡を伴う


「ちょっと待ってください」


 菜月は書類を指さした。


「まだ私を殺すつもりなんですか?」


 高槻は席を立たず、処遇案の表題へ指を置いた。


「元の納品契約は終了しました」

「だったら、これは何ですか」

「今度は、川瀬さん自身の処遇です」


 高槻は書類の続きを開いた。


「あなたをそのまま帰すかどうかも含めて、これから決めます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ