第十二話:独眼竜の神判
京へ向けて進軍する伊達政宗の軍勢。その先頭を行く若き独眼竜の瞳には、俺の 嘘 が上書きした 滅びの予兆 が焼き付いていた。
「……将軍……。貴様が見せているのは、まことの未来か、あるいは……」
政宗の呟きは、誰に届くこともなく風に消える。
二条御所に座す俺の喉は、もはや乾いた音を鳴らすのが精一杯だった。右腕、右足、そして声。天下の主座と引き換えに、俺の肉体は現実という地図から一歩ずつ、確実に消し去られようとしている。
だが、休んではいられない。
天の理は、政宗を 正義 の名の下に狂わせ、俺を討たせようと、さらなる異能を彼に授けていた。
『天啓:個体「伊達政宗」に、概念兵装「昇竜」を付与。……不正なる記述者の排除を完遂せよ』
御所の窓の外、奥州の空から巨大な 光の渦 が舞い降りるのが見えた。
それは雲でも風でもない。歴史という物語を強引に修正しようとする、天の意志が具現化した 裁き の光だ。その光を浴びた伊達の兵たちは、痛みも恐怖も忘れた戦鬼へと変貌していく。
「……あ、あ……(させるか……!)」
俺は声にならぬ声を絞り出し、震える左手で筆を噛んだ。
自身の魂を直接削り、墨として垂らす。もはや白紙の紙さえ、俺が触れると黒い汚れを帯びて崩れ始める。
『伊達の軍勢が授かりし「神の光」を、不吉なる「死の病」へと反転させよ。天の救いは、彼らにとっての呪いへと書き換えられる』
書いた瞬間――視界の半分が、真っ暗な闇に飲まれた。
今度は 脳 だ。記憶の断片が、まるで虫に食われた書物のように、端からバラバラと抜け落ちていく。俺が誰であったか、なぜ戦っているのか、その根源すらも天に奪われようとしていた。
しかし、理は反転した。
政宗の軍を包んでいた黄金の光は、瞬時にどす黒い瘴気へと変じ、兵たちの力を奪った。
「なっ、なんだ……! 神の加護が、なぜ我らを蝕む……!?」
政宗の絶叫が奥州の荒野に響く。
俺は、もはや半分消えかけた意識の中で、中指を立てて空を睨んだ。
天の理よ。お前が 奇跡 を降らせるなら、俺はそれを 災厄 と定義し直す。
だが、その時だ。
御所の空に、一筋の 白い亀裂 が入った。
そこから現れたのは、これまでの武士や公家とは明らかに異質な、十字架を掲げた異国の影。
『警告:外部勢力「南蛮プロトコル」の干渉を検知。世界の初期化(はじまりに戻すこと)を急ぎます』
「……南蛮、だと……?」
俺が書き換えた歴史の 綻び を縫って、本来ならまだ現れるはずのない 外側の敵 が、歴史の修正者として現れようとしていた。




