第9話 100万の不死軍団を従えた最弱LV1、超古代の魔導技術で極上肉を自動調理(オートクッキング)させる!
「え、百万……!?」
地面に額を擦り付けるエンシェントリッチの口から飛び出た規格外の数字に、俺はボアスケルトンの背の上で思わずのけ反った。
「左様にございます、冥界神様。私が何億年という悠久の時を生き、この世界の歴史の裏でせっせと集め、育て上げた不死の軍勢は、総勢【百万】。神々の大戦で滅んだ超古代文明のアンデッドたちも、すべて我が配下として封印しております。それが今、すべて貴方様のものです!」
(何億年……? 超古代文明……!?)
話の規模がデカすぎて、もはや脳の処理が追いつかない。
魔王軍の幹部どころか、この世界の歴史そのものを裏から操ってきたような、とんでもない伝説の化け物を逆スカウトしてしまったらしい。
隣ではフェイが「ひぇっ……」と完全に腰を抜かしており、ロッドとセバスですら、カチカチと激しく顎を鳴らして震えていた。
(いや、すごい。百万の軍勢も超古代文明の兵器もめちゃくちゃ魅力的だ。……魅力的、なんだが……っ)
ぐううううううううううううううううううううううっ!!!!!
地鳴りのような腹虫の音が、神聖な静寂をぶち壊した。
視界がセピア色に染まり、目の前がチカチカする。限界だ。百万の軍勢を誇る冥界神(勘違い)が、今まさに「餓死」という最も情けない理由で三度目の死を迎えようとしている。
「リッチ……! お前の忠誠心はよく分かった、ありがたく百万の軍勢は我が社の資産(戦力)にさせてもらう! だが、そんなことより、とにかく飯だ! 飯をくれ! 今すぐ俺に料理を作れぇぇぇッ!!」
レベル1の最弱ニートによる、魂の叫び。
すると、五体投地していたエンシェントリッチが、ガタッと凄まじい勢いで顔を上げた。その眼窩の炎が、驚愕と、それ以上の深い感銘によって激しく爆発する。
「おぉ……っ! なんという大いなる御言葉……! 復活されたばかりの神体に、真っ先に生霊(魔物)の『生命力』を取り込もうというのですね!? 流石は冥界神様、死霊術の真髄を極めておられる! このリッチ、何億年の意地にかけて、最高の供物を捧げてみせましょう!」
なんかまた勝手に神話級の解釈をされているが、もうどうでもいい。早く肉を食わせてくれ。
「超古代の遺産よ、目覚めよ! 我が主の『初陣の戦果』を、至高の神饌へと変えるのだ!」
リッチが最高級の魔導杖を天に掲げると、周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。
現れたのは、全身が未知の金属と魔力回路で形成された、不気味かつ洗練された姿の『超古代文明のアンデッド』たちだった。
彼らはリッチの命令を受けるや否や、ボアスケルトンが運んできたブラック・グリズリーの巨体へと群がった。
その動きは、恐ろしいほど精密だった。超古代の魔導カッターが一瞬で熊の皮を剥ぎ、最適な部位ごとに肉を切り分ける。別のアンデッドが指先から超高熱の魔導火力を放ち、また別の骨がどこからか取り出した秘伝のスパイスを絶妙な手際で振りかけていく。
文句も言わず、疲れることもなく、超古代の技術を100%注ぎ込んだ、完璧な自動調理システム。
「……すご。私の村のどの料理人よりも手際が良いんだけど……」
フェイが呆然と呟く。
「フハハ、素晴らしい! これぞ我が社の目指す不働の極みだ!」
俺はボアから降ろしてもらい、ヨダレを垂らしながら完成した料理の前に座り込んだ。
目の前に並べられたのは、ブラック・グリズリーの極上ステーキ、じっくり煮込まれた魔獣のスープ、そして超古代の技術で完璧にローストされた肉料理の数々。
「いただき、ます……っ!」
ナイフで肉を切り、口に放り込む。
その瞬間、脳天を突き抜けるような美味さが弾けた。外はカリッと香ばしく、中は信じられないほどジューシー。噛むたびに極上の脂と肉汁が溢れ出し、空っぽだった俺の胃袋を至福のエネルギーで満たしていく。
「美味い……! 美味すぎる……っ! 生き返って良かったぁぁ!」
ガツガツと貪り食う俺を、エンシェントリッチは涙ぐみながら(骨だけど)見つめ、腰の天之尾羽張様は脳内で満足げにフンと鼻を鳴らした。
『小僧、良かったな。神殺しの我が、まさか料理の護衛をさせられるとは思わなかったが……まぁ、美味そうに食うではないか』
極上の肉を腹一杯に詰め込み、ようやく俺の視界に鮮やかな色が戻ってきた。生き返った実感が、今度こそ身体に満ちていく。
ふぅ、と満足のため息を吐き、俺は優雅に椅子(超古代のアンデッドが勝手に用意した最高級の椅子)に深く腰掛けた。
手元には、神殺しの神剣『天之尾羽張』。
目の前には、何億年も生きる伝説のバケモノ『エンシェントリッチ』と、その配下にある百万の超古代アンデッド軍団。
そして傍らには、伝説の義賊『フェイ』と、有能な執事スケルトンたち。
俺自身は、レベルアップもスキル取得もできない、どこまでも最弱のレベル1ニート。
だが、この世界最強の『社畜(軍団)』たちがいれば――。
「よし、リッチ。飯の次は、やはり予定通り『俺のマイホーム(居城)』の建築だ。超古代の技術と百万の軍勢をフル稼働させて、この世で最も豪華なニートの拠点を爆速で作れ」
「御意のままに、我が偉大なる冥界神様ァァァッッ!!」
リッチの咆哮とともに、森全体が地鳴りのように揺れ始める。
あの裏切り者の騎士団長や、フェイの故郷を焼き払ったクソ勇者たちが、この「神様と勘違いされたニート」の逆鱗に触れたことを、地獄の底で後悔する日はすぐそこまで迫っていた。




