第8話 最弱LV1なのに【冥界神】と勘違いされた結果、魔王軍を脱退したエンシェントリッチから戦力100万を捧げられました
「――待って、マスター! 村の方がおかしい!」
ブラック・グリズリーの極上肉をボアスケルトンに運ばせ、ウキウキで拠点へ戻る途中、フェイが鋭く叫んだ。
廃墟となった村から聞こえてくるのは、激しい骨の破壊音と、ただならぬ魔力の衝突音。
「な、なんだ!? 俺のマイホーム建築計画に不祥事か!?」
「そんな呑気な状況じゃないよ! 誰かが村を襲撃してる!」
ボアの速度を上げさせ、木々を抜けて村へと突入した俺は、その光景に目を見張った。
俺が指示したゴブリンや村人のスケルトンたちが、防戦一方で次々と叩き潰されていたのだ。
襲撃者は――禍々しい黒鉄の鎧を纏った、漆黒の『骸骨騎士』の大軍。
一体一体が放つ威圧感は、野生の魔獣の比ではない。組織立って動く、本物の「軍隊」だ。
「ヒャーハハハ! なんだこの貧弱な骨どもは! 誰が使役しているか知らんが、我がリッチ様の軍勢の敵ではないわ!」
軍団を率いる大柄な骸骨将軍が、大剣を振るって俺のゴブリンを粉砕する。
圧倒的な戦力差。ロッドやセバスが内政魔力を盾にして必死に防いでいるが、全滅は時間の問題だった。
(くそっ、せっかく集めた俺の貴重な労働力(社畜)たちが……!)
俺自身はレベル1の最弱。戦えば確実に一瞬で消し飛ぶ。
だが、大切なベッド(拠点)と飯を邪魔された怒りと、理不尽な暴力へのヘイトが限界を突破した。
俺は腰の天之尾羽張をいつでも抜けるよう手をかけ、ボアを敵のど真ん中へと突撃させた。
「そこまでにしろ、骨くずどもぉッ!!」
俺の絶叫が、戦場に響き渡る。
瞬間、俺の腰の尾羽張様から放たれた神聖な神気と、俺自身の『死霊術師UR』の底知れないバグ魔力が、爆発的に周囲へと吹き荒れた。
「ぶ、ブモオオオンッ!?」
突進してきた骸骨将軍が、その圧倒的なプレッシャーに直撃され、急ブレーキをかける。
静寂が戦場を支配した。
骸骨将軍、そして百体近い鎧の骸骨騎士たちが、一斉に俺の方を振り向く。
戦うしかない。俺が神剣を抜こうとした――その時だった。
ガシャァァァンッッ!!!
凄まじい鉄の音が響いた。
骸骨将軍が、大剣を地面に投げ捨て、その場に両膝をついて深く頭を垂れたのだ。
それだけではない。百体もの骸骨騎士たちが、波が引くようにいっせいに跪き、地面に額を擦り付け始めた。
「な……ッ!?」
フェイが呆然と声を漏らす。俺も、抜こうとした刀の手を止めて固まった。
「おぉ……おぉ、まさか、このような辺境の地に御降臨されているとは……! この禍々しくも神聖な、死霊を統べる絶対の闘気……間違いありません!」
骸骨将軍が、カタカタと狂喜に骨を震わせながら叫んだ。
「――拝謁いたします、『冥界神』様ッッ!!」
「……は? 誰がめいかいしんだって?」
ピンと来ない。俺の名前はアルト。前世は60歳の社畜で、今世はレベル1の最弱ニートだ。神様なんて高尚なタマじゃない。
困惑する俺を余所に、骸骨将軍は自身の頭骨に手を当て、狂ったように【念話】を飛ばし始めた。
『リッチ様! リッチ様、お聞きくだされ! 魔王軍の食客などしている場合ではございませぬ! 我らが長年探し求め、崇拝し続けた伝説の絶対者――【冥界神様】を、今、この村にて発見いたしましたぞ!!』
何やらとんでもない勘違いを、とんでもない相手に報告している。
魔王軍の食客? リッチ?
次の瞬間、俺たちの目の前の空間が、バキバキとガラスのようにひび割れた。
溢れ出るのは、世界を滅ぼしかねないほどの漆黒の暗黒魔力。空間の裂け目から姿を現したのは、豪華絢爛な魔術衣を纏い、手にした杖に巨大な魔石を輝かせた、伝説の最上位不死者――『エンシェントリッチ』だった。
(う、わ……本物のバケモノが出てきやがった……っ!)
レベル1の防衛本能が警報を鳴らす。だが、転移してきたエンシェントリッチは、周囲の状況を確認するや否や、手にしていた最高級の魔導杖をゴミのように投げ捨てた。
そして、流れるような動作で俺の前に五体投地し、地面に這いつくばった。
「おおお……っ! 本当だ、本当に冥界神様だ……っ! 我ら不死の絶対不変の創造主にして、死の概念そのものである御方……っ! 長年、貴方様を捜索し続けて、ようやく、ようやくお会いできました……!」
このリッチ、完全に目が(眼窩の炎が)イッている。狂信者のそれだ。
「あの……人違い、じゃなくて骨違いじゃないか? 俺はレベル1だし、ただの人間なんだが……」
「滅相もない! そのお姿は仮の器! 魂より溢れ出るそのジョブの輝き(UR)と、帯びておられる神殺しの気配……これぞ神話に名高き冥界神の証! 誰が何と言おうと、貴方様こそが我が唯一絶対の主です!」
リッチはガタガタと感動の涙(出ないが)を流しながら、恐ろしい宣言を口にした。
「冥界神様。私はただ今をもちまして、くだらぬ魔王軍との契約を一方的に破棄(離脱)いたします!我が軍勢百万、すべてを貴方様に捧げ、忠誠を誓います! どうか、この不肖の骨めを貴方様の末席にお加えください!」
「え、百万……?」




