第10話 【LV1固定】の理由は封印特化の超器!? 召喚主の『魔女』に認められ、後継者(森の主)に指名されました
鬱蒼とした『魔女の森』のさらに奥深く。
大樹の根元にひっそりと佇む、蔦に覆われた古びた館の広間にて。
「くくく……まさか、これほどの大物を釣り上げることになるとはね」
水晶玉に映る映像を見つめながら、一人の老女が枯れ木のような声で笑った。
彼女こそが、かつて勇者と共に魔王を倒した伝説の魔法使い――この森の主である『魔女』だった。
だが、その全盛期の面影はどこにもない。
肌は乾燥し、呼吸は浅く、刻まれる死の刻限はすぐそこまで迫っている。老衰間近の、ただの哀れな老人。それが今の彼女の正体だった。
彼女が命を削ってこの森に留まり続ける理由は、ただ一つ。
この森の最深部に封印されている、【邪神の頭】を監視し続けるため。
「私の命も、もう数日と持たない。……だが、邪神の封印を解くわけにはいかないのさ」
魔女は細い指先で水晶玉を撫でた。
そこに映っているのは、ブラック・グリズリーの極上肉を美味そうにガツガツと貪り食い、百万の軍勢を誇るエンシェントリッチに「俺の城を作れ」と偉そうに命令している、レベル1の男――アルトの姿だった。
虫や小動物を使い魔として放ち、森のすべてを監視していたのは彼女だ。
そして、アルトをこの森に強制転生(召喚)させた張本人もまた、この魔女だった。
「邪神の封印を引き継ぐには、条件があった。……『外の世界へ飛び出そうとしない、冒険心の極めて少ないレアなジョブの持ち主』。そして何より、封印そのものに特化させるため、そのジョブの権能だけに『ステータスを極振り』した魂……」
魔女の狙いは完璧なはずだった。
アルトが発現した『死霊術師UR』。
【レベル1固定】【経験値無効】【スキル取得不可】というバグ塗れの最弱ステータス。それらはすべて、魔女が邪神の強大な呪いを抑え込み、封印の維持だけに魔力を固定するために、システムの裏をかいて強制的に設定した『封印特化の超器』の代償だったのだ。
外に出ず、レベルも上げず、ただこの森で死霊術を使いながら、一生静かに封印を守り続けるだけの存在。
それが、魔女の求めた「最高の後継者」の条件だった。
しかし――水晶玉の中で、何億年も生きた伝説のバケモノであるリッチが、アルトの前に平伏して「冥界神様ァ!」と涙を流している。
「……引きこもり用の最弱ジョブ(ニート仕様)に調整したはずなのに、まさか神話級のアンデッド共を勝手に引き寄せて『冥界の王』として君臨し始めるなんてねぇ。神殺しの刀まで携えて……くくく、とんだ規格外の化け物を呼んじまったよ」
魔女はクスクスと、だが心底満足そうに笑った。
魔王軍を離脱したミリオンクラスのリッチ。そして神を殺す天之尾羽張。
それだけの軍勢を「自分の代わりにブラック労働させる」という凄まじい他力本願っぷりで従えるアルトなら、邪神の頭の封印など、お茶の子さいさいで引き継げるに違いない。むしろ、お釣りが来るレベルだ。
「条件は完璧にクリアだ。……いや、期待以上だね。アルトとやら、お前ならこの森の、世界の王にだってなれる」
魔女は水晶玉から目を離し、部屋の隅の影へと視線を向けた。
「――おい、いるんだろ? 我が忠実なる執事よ」
彼女の呼びかけに応じるように、空間の光が緑色に乱反射した。
現れたのは、美しい半透明の羽を背中に生やし、仕立ての良い燕尾服に身を包んだ、気品溢れる『風の妖精』の執事だった。
「はっ。ここに、魔女様」
妖精の執事は、完璧な所作で一礼する。
「村にいるあの男――アルトのところへ行き、私の元へ案内しておくれ。彼こそが、この森の新たな主……私のすべてを譲り渡す、唯一の後継者だ」
「御意のままに。必ずや、新しき主君をこちらへお連れいたしましょう」
風の妖精の執事は静かに微笑むと、一陣の爽やかな風と共に、窓の外へと音もなく消え去った。
何も知らずに「家が建ったぞ!」「ニート生活万歳!」と肉を食っているレベル1の最弱ニート、アルト。
そんな彼のもとに、世界を揺るがす『魔女の遺産』と、さらなる配下(妖精)との出会いが、すぐそこまで迫っていた――。




