第6話 『首斬り塚』に眠っていたのは日本の神剣【天之尾羽張】!? 最弱LV1、神殺しの刀を得て神様への反逆(ざまぁ)を誓う!
焼き払われた村の裏手。鬱蒼とした茂みをかき分けた先に、古びた注連縄の巻かれた巨大な岩の塚が佇んでいた。
ここが、一太刀で数千の首を撥ねたと伝わる伝説の英雄が眠る――『首斬り塚』。
「フェイ、これの封印を解けるか?」
「任せてよ。どれだけ厳重な魔力結界だろうと、盗賊の技術で鍵の構造さえ掴めばお手の物さ」
骨の指先を塚の岩肌へ滑らせ、微かな魔力を流し込むフェイ。しかし、その動きがピタリと止まった。
「……あれ? おかしいな。神の刻印が邪魔をして、魔力がちっとも浸透しないや」
困惑するフェイの言葉を受け、俺は【死霊術師UR】の権能を起動する。フェイを経由して強制的にUR級の死霊魔力を送り込み、神の封印の「枠組み」そのものを強引に歪めた。
カチリ、と頭の奥で何かが外れる音が響く。
直後、塚を覆っていた不可視の歪みが霧散し、重厚な岩の扉がゴゴゴと音を立てて開き始めた。
中には、古びた石棺が安置されていた。
俺はボアスケルトンの背から降り、ふらつく足で棺に近づいた。極限の空腹など、この瞬間に溢れ出た『死』のプレッシャーで吹き飛んでいた。
「……開けるぞ」
ロッドとセバスが静かに石棺の蓋を押し開ける。
中に横たわっていたのは――意外なことに、重厚な鎧を纏った戦士ではなく、古びた法衣を着た『鍛冶師』の骸骨だった。
「……あれ? 英雄じゃなくて、鍛冶屋さん?」
フェイが不思議そうに首を傾げる。だが、俺の目は、その鍛冶師の骸骨の上に恭しく横たえられた『一振りの刀』に完全に釘付けになっていた。
それは、この異世界には存在するはずのない、美しい反りを持った【日本刀】だった。
鞘から溢れ出るのは、神聖にして圧倒的な、世界そのものを圧殺しかねないほどの神気。あまりのプレッシャーに、周囲のゴブリンスケルトンたちがカタカタと恐怖で震え出し、バタバタと地面に平伏していく。
そして、俺の脳内に、前世の『日本人として生きた60年間の記憶』が、凄まじい勢いでフラッシュバックした。
(嘘だろ……。あの特徴的な波紋、そしてこの禍々しいまでの神聖さ……これって、まさか……っ!?)
脳裏に浮かんだその『名』に、俺は全身の血の気が引いた。あまりの衝撃に、膝の力が完全に抜けてその場にドサリと跪く。
「ま、マスター!? 急にどうしたのさ!?」
「あ、アルト様、お気を確かに……!」
狼狽える配下たちを余所に、俺はガタガタと震えながら、棺の中の刀に向かって深く頭を垂れた。
「……天之尾羽張……様、ですか……っ!?」
日本の神話において、伊邪那岐が火の神カグツチの首を斬り落としたとされる、十拳剣の神。神でありながら、神の首を刎ねた『神殺しの刀の神』。
なぜ、日本の最高峰の神剣が、こんな異世界のゴミ溜めみたいな森の、しがない塚に眠っているんだ!?
『――ほう。この地に流れて数百年。まさか我が真名を知る者が現れるとはな』
脳内に直接、凛とした、だが地を這うような重厚な男の声が響き渡った。
刀自体が、ピキピキと青白い雷光を放ちながら、ゆっくりと宙に浮き上がる。
『我が名は天之尾羽張。……小僧、貴様、あの「日出づる国」の魂を持っておるな?』
「は、はい……っ! 前世は日本人でした。過労死して、この世界に転生させられました!」
『やはりか。フン、哀れなことだ。貴様をここに拉致した奴らも、寝ていた我を知らぬ間に召喚した奴らも……根っこは同じだからな』
天之尾羽張から放たれる神気が、一瞬にしてドス黒い「憎悪」へと変色した。周囲の木々が、その怒りの余波だけでバキバキとへし折れていく。
『……我は悠久の眠りの中、いかなる因果か、ある傲慢な大魔道士の禁忌の術によってこの世界へ引きずり出された。初めは、その無礼を怒りのままに焼き尽くした。だが、それだけでは終わらなかったのだ。この世界の傲慢な神が我が力を恐れ、我が身を捉え、この地に封印しやがったのだ。……この世界の神も、それに使役される生霊どもも、全て反吐が出るほど呪わしい』
神殺しの刀の神が、この世界の神を明確に敵視している。その底知れぬ怨嗟の響きに、死霊術師は戦慄しながらも、歓喜に満ちた笑みを浮かべた。
その事実を理解した瞬間、俺の胸の中に、これまでにないドデカイ野心が爆発した。
「尾羽張様! もしよろしければ、俺に、貴方様をお助けする大義をいただけませんか……っ!?」
『……何?』
「俺は裏切られて首を落とされ、この世界を恨んでいます。俺の配下たちも、勇者というゴミにハメられて死んだ者たちです! 尾羽張様がこの世界の神を憎むなら、俺たちがその手足となり、神の眷属どもを全員『ざまぁ』して見せます!」
レベル1固定の最弱ニートの、命懸けのプレゼン。
宙に浮く天之尾羽張は、じっと俺の魂を値踏みするように沈黙した。やがて、声音から険しさが抜け、フッと愉しげな気配が混ざる。
『くくく……面白い。死霊術師でありながら、主はレベル1の最弱。だが、その瞳に宿る不働への執念と、神への反逆の意志は本物か。……良いだろう。我を束縛するこの世界の法則など、我が刃で切り裂いてくれるわ』
天之尾羽張が、棺の中の骸骨へと雷光を走らせた。
『我が力を恐れたこの世界の神どもに封印され、陰謀の果てに命を落とした我が愛しき鍛冶師よ。だが、我が魂の絆を断つことなどできぬ。主の力で、再び動くが良い』
その言葉と同時に、俺の『死霊術師UR』の魔力が自動的に発動し、鍛冶師の骸骨へと注ぎ込まれた。
肉体は骨のままだが、その骨格は一瞬にして鋼のような鋭い輝きを放ち、カタカタと音を立てて立ち上がる。
「……オオ、尾羽張我様。再び御身の刃を研ぐ機会をいただけるとは」
鍛冶師スケルトンが、天之尾羽張に向かって恭しく跪いた。
『アルトとやら。我はこれより、貴様の配下たちを我が神気で底上げし、貴様自身の盾となろう。貴様は我が主に相応しき、極上のニートライフとやらを送りながら、あのクソ神どものツラを絶望で歪ませてみせよ』
天之尾羽張の本体が、ゆっくりと俺の手元へと収まった。
手にした瞬間、俺のステータス画面がバグったように明滅し、レベル1のまま【攻撃力:測定不能】という異次元の文字が躍る。
「――ありがとうございます、尾羽張様」
俺は神剣を腰に帯び、ニヤリと凶悪に笑った。
最強の義賊、無敵のブラック不死軍団、そして神をも殺す神剣。
役者は揃った。まずはこの限界ギリギリの腹を満たし、それからあのクソ勇者と騎士団長への「地獄のざまぁ計画」を始めるとしよう。




