第5話 故郷は勇者に焼かれて廃墟でした。怒れる義賊と餓死寸前の最弱LV1、最強の死体【首斬り塚】へ向かう!
「マスター、この森の本当の名前、知ってる?」
ボアスケルトンのゴツゴツした背中の上で、空腹のあまり魂が口から出かかっている俺に、前方を警戒していたフェイが話しかけてきた。
三十体以上のゴブリンスケルトンが周囲を固めて歩く中、俺は弱々しく首を振る。
「……知るわけ、ないだろ。俺はただの、記憶喪失のレベル1ニートだ。それより飯……早く人間の飯を……」
「あはは、限界だね。でも、移動しながら聞いてよ。実はここね、ただの魔物の森じゃない。――『魔女の森』って呼ばれてる場所なんだ」
フェイの眼窩の炎が、森の奥を見つめて怪しく揺らめいた。
「魔女、だと?」
「そう。大昔、世界を救った勇者パーティの魔法使い――通称『魔女』が、魔王を倒して邪神を封印した褒美として、当時の国々から丸ごと譲り受けた領地(森)なんだって」
その言葉に、内政特化執事のロッドがカチカチと顎を鳴らした。
「ふむ、なるほど。勇者パーティの魔法使い、ですか。……ですがフェイ殿、この森の空気、どうにも魔女というよりは、もっと泥臭く神秘的な魔力を感じますが?」
「流石はおじいちゃん骸骨、鋭いね。実はこの森、その魔女が住み着く前は『妖精の森』って言われてたんだ。当時はたくさんの妖精たちが平和に暮らしてたらしいよ。……まぁ、今でもその生き残りが、森のどこかに潜んでるって噂だけどね」
妖精の森、そして魔女。
腹を鳴らしながらも、俺の脳内にある『死霊術師UR』の知識がチクリと反応した。
妖精は高い魔力と独自の属性魔法を持つ。もしそんなものを死霊術でアンデッド(社畜)にできたら、我が社の遠距離魔法部門は一気に強化されるだろう。
(妖精、か……。いつか見つけたら、是非我が社に強制就職させてやりたいもんだな……)
そんな他力本願な野望を抱きつつ、ボアスケルトンに揺られること数時間。
ようやく鬱蒼とした木々が拓け、フェイの故郷である村が見えてきた。
「おい、フェイ! やっと村に着いたぞ! 飯だ、飯をくれ……って、おい……っ」
歓喜から一転、俺の言葉は喉に張り付いた。
目の前に広がっていたのは――思い描いていたのどかな限界集落などではなかった。
「な、にこれ……っ!?」
フェイが絶句し、その骨の手を口元に当てる。
そこにあったのは、完全に焼き払われ、風化しかけた『廃墟』だった。
崩壊した木造の家々。真っ黒に焦げた柱。地面には、生活の道具がバラバラに散らばっている。
人の気配は一切ない。それどころか、微かに残る煤の臭いが、ここが徹底的に破壊されたことを物語っていた。
「……遅かったか。あのクソ勇者、私を処理した後に、私の生まれ故郷まで口封じに焼き払ったんだ……っ!!」
カタカタカタカタカタカタカタッ!!
フェイの全身の骨が、激しい怒りと悔しさで鳴り響く。
せっかく生き延びたのに、帰るべき場所も、大切な人たちも、すべてあの「偽りの英雄」に奪われていたのだ。
俺には、彼女の気持ちが痛いほど分かった。あんなに寝食を惜しんで守ろうとした領民に裏切られ、断頭台へ送られたあの日の絶望と、全く同じだからだ。
(勇者……本当にどこまでも反吐が出るゴミ野郎だな)
俺の胸の奥で、どす黒い怒りがふつふつと湧き上がる。
――そして同時に、俺の胃袋が「ぐぅぅぅぅ」と本日一番の悲鳴を上げた。
「……くそ、同情したいのは山々だし、勇者へのヘイトもMAXなんだが、マジで腹が減って死ぬ。フェイ、この廃墟に芋の一つでも残ってないか!?」
「あ、ごめんマスター……。これだけ綺麗に焼かれてたら、食べられるものは何も残ってないと思う。……ごめんね」
「そんな……じゃあ俺はここで餓死するのか……っ!?」
絶望する俺に、セバスが冷静に声をかける。
「アルト様。こうなっては一刻の猶予もございません。飯(獲物)を狩るためにも、まずは戦力を整えるべきかと。フェイ殿、例の場所は無事ですか?」
「あ、うん……! 村の裏手にある『首斬り塚』は、古い結界で隠されてるから、流石の勇者も気づかずにスルーしたはず!」
フェイは涙(骨だから出ないが)を拭うように顔を上げ、村の裏へと続く荒れた小道を指さした。
「よし……っ! 飯はお預けだ! だが、あの勇者のツラを絶望で歪ませるための『最強のカード』を、まずは引きにいくぞ!」
俺はボアスケルトンの脇腹を蹴り、速度を上げさせた。
目指すは、一太刀で数千人の首を撥ねたという伝説の偉人が眠る――『首斬り塚』。
壊滅した廃墟の奥に眠る、最凶の死体。それを手に入れた時、俺たちの反撃の狼煙が上がる。




