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第4話 監視の目を一瞬で粉砕! 腹ペコ最弱LV1、伝説の英雄を『社員』にするため限界集落へ向かいます

「――マスター、ちょっと待って」


 三十体以上のゴブリンスケルトンを配下に加え、ホクホク顔でボアスケルトンの背に揺られていた俺を、純白の骨の身体となった義賊――フェイが鋭い声で制した。


 失われた両足の代わりに黒い魔力の義足を生やした彼女は、音もなく洞窟の壁に背を預け、外の様子を窺っている。


「どうした、フェイ?」


「……やっぱりね。さっきから、誰かの『目』があると思ってたんだ」

 フェイの眼窩に宿る青い魔力の炎が、不気味に細められる。


 生前、帝国の悪徳貴族から幾度となく宝を盗み出した伝説の『銀狐』だ。隠密や索敵に関するセンスは、レベル1の俺や、内政特化のロッドたちとは比べ物にならない。


「マスター、あの入り口の木の枝。不自然に大きな羽音の虫と、目が赤く光るネズミがいるでしょ? あいつら、ただの野生動物じゃない。誰かの手先(使い魔)として、私達をずっと『監視』してる」


「な、なんだって……!?」

 俺の背筋に冷たいものが走る。


 レベル1固定の俺には全く気づけなかった。もしフェイを雇っていなければ、今頃こちらの戦力や『死霊術師UR』の存在が、黒幕に筒抜けになるところだったのだ。自分の無力さに奥歯がガタガタと震える。


(くそっ……俺自身はどこまでも最弱だ。勇者やあの騎士団長みたいな、圧倒的な力を持つ化け物どもには、今のままじゃ絶対に敵わない……!)


 理不尽に首を落とされたあの断頭台の光景が脳裏を過り、悔しさと恐怖で拳が白くなる。


 もっと圧倒的な戦力(社畜)が必要だ。誰にも文句を言わせないほどの、無敵の不死軍団が。


「フェイ、あの監視を消せるか?」


「お安い御用。マスター、あの三十体のゴブリン、ちょっと私に指揮コントロールさせてよ」


「ああ、お前に指揮権を委譲する。……やれ!」

 主従のパスを通じて、ゴブリンスケルトンたちの制御をフェイへと預ける。


 その瞬間、今までカタカタと無機質に突立っていたゴブリンたちが、まるで意思を持ったかのように統率された動きを見せた。


「三人一組で散開。虫は投石で叩き落として、ネズミは退路を塞いで一斉に突き刺す。――合図で同時にいって」

 フェイが骨の指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、十数体のゴブリンスケルトンが影のように洞窟を飛び出した。


 ズバァァァンッ! カツンッ!


 完璧な連携だった。フェイの的確な指示のもと、ゴブリンたちは一切の無駄なく動いた。不自然な巨虫は正確な投石で文字通り粉砕され、赤い目のネズミは逃げ道を完全に塞がれて無数の短剣に沈んだ。


 監視の網を、一瞬で完全除外。


「ふぅ、これでひとまずは安心かな。誰が操ってるか知らないけど、これでこっちの正確な位置は見失ったはずだよ」


 フェイが満足げにナイフを指先で弄ぶ。

「素晴らしい手際ですな、フェイ殿。流石は銀狐だ」

 ロッドが感心したように頷く。


「……ぐぅぅぅぅぅ」

 その時、静まり返った洞窟内に、とてつもなく情けない音が響き渡った。


 俺の腹の虫である。


「……マスター、もしかしてお腹空いてるの?」


「……ああ。めちゃくちゃ腹が減った。死にそうだ」

 そうだった。歩くだけで体力を消費するゴミステータスなのだ。


 おまけに魔力を何度も使ったせいで、エネルギーが完全に枯渇している。生き返ったのはいいが、このままだと異世界ニート生活を始める前に「三度目の過労死(餓死)」を迎えてしまう。


「どこか、人間の食べ物がある場所に行きたいんだが……」


「人間の食べ物ねぇ……。あ、それなら私が育った村が、この森を抜けて少し行ったところにあるよ」


「本当か!?」


 救いの神に見えた。だが、フェイは少し言いにくそうに骨の顔を傾ける。


「うん。でも、あのクソ勇者に滅ぼされかかって、今はもう寂れた限界集落だけどね。……あ、でもねマスター。もし戦力を増やしたいなら、あの村に行くのは結構おすすめかも」


「どういうことだ?」

 俺が身を乗り出すと、フェイは声を潜めて(骨だけど)言った。


「私の村の裏手にはね、大昔の戦乱期に、一太刀で何千人もの敵兵の首を撥ね飛ばしたっていう、伝説の英雄の塚――通称『首斬り塚』があるんだ。かなり古いから、今じゃ誰も近づかない隠れた墓所スポットなんだけど……」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の『死霊術師UR』の魂が、ビクリと激しく歓喜に震えた。


 伝説の、首斬り――。


(それだ……! そんな大物の死体が手に入れば、俺の軍団の攻撃力は一気に跳ね上がる……!)


 腹の虫を鳴らしながら、俺はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


 裏切り者の騎士団長。シルフィを嵌めたクソ勇者。異世界のゴミクズどもを全員まとめて引き潰すための、最高の人材(死体)がそこにある。


「よし、目的地は決まりだ。フェイの村へ向かう!」


「かしこまりました。ボア、マスターを落とさないよう、安全運転で参りましょう」


 セバスの合図とともに、ボアスケルトンがゆっくりと歩き出す。


 三十体以上のゴブリン軍団を引き連れて、俺たちは飯の確保、そして『伝説の死体』を求めて、フェイの故郷へと進路を取った。

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