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第38話 邪神魔王は放置! お金を循環させるため道路工事(公共事業)を骨に丸投げしたら世界中から感謝されました

「マスター、神聖帝国しんせいていこくの帝都で暴れてるあの邪神魔王じゃしんまおうだけど……どうするの? 放置でいいの?」


 魔改造された一軒家シェルターの、空間拡張くうかんかくちょうされたプライベートルーム。


 お気に入りの最高級娼館しょうかんで、それはもう至高の夜のシフト(客として女の子たちを限界まで可愛がる労働)を終え、ほくほく顔で帰還した俺――アルトの元へ、銀髪の絶世の美女となったフェイが、少し心配そうに声をかけてきた。


 手鏡型の索敵魔導具に映る帝都は、未だに狂暴化した邪神魔王の暗黒の触手によって、バキバキに破壊され続けている。だが、二度も過労死かろうし(?)した俺のニート精神は、そんな世界の危機を完全に無視していた。


「放置だ、放置。あんな面倒くさい化け物の相手なんて、それこそ無駄な残業《労働》だろ。向こうから我が社の『新生冒険者ギルド』の縄張りに侵入してきたら天之尾羽張アメノオハバリ様の安全運転で首をねるけど、わざわざ出張してやる義理はねえよ」


「アハハ! 流石はマスター、世界が滅びかけてもブレないね!」


 ソファーで豊満ほうまんな胸を揺らして笑うシルフィを余所に、俺はザクザクと運び込まれてくる天文学的な金貨の山を眺めて、ふと前世の社畜時代に叩き込まれた『経済の基本』を思い出していた。


(……待てよ。新生ギルドの上納金(1割)で、世界中の富がここに一極集中いっきょくしゅうちゅうしちまってる。だが、お金ってのは流通りゅうつうさせないと市場が冷え込んで、経済が回らなくなるんだよな。みんなの財布が空っぽになったら、俺の高級娼館の女の子たちへのチップの原資《ニート資金》が減っちまう)


 自分の労働は断固拒否するが、金の循環が止まるのだけは絶対に許せない。俺はふかふかのクッションに寝そべったまま、即座に他力本願な経済政策を思いついた。


「ロッド、セバス。今すぐ我が社の拠点(辺境の村)から、各地の主要都市へ繋ぐ【大規模な道路工事】を始めろ。この村を世界の物流の『ハブ(中継拠点)』にして、さらに他力本願で稼げるインフラを拡充かくじゅうさせるぞ。……当然、お前たちに完全丸投げだ」


『おぉ、物流のハブ化……! さすがは元・辺境伯の我が主。恐ろしい中抜き利権ビジネスを思いつきますな』


 影の中から姿を現した有能すぎる骸骨執事コンビが、カチカチと嬉しそうに顎骨がっこつを鳴らす。


「本当はリッチの百万の軍勢を投入すれば、二十四時間年中無休、不眠不休でお金も1ミリもかけずに爆速で道路が完成するんだが……今回は『稼いだ金を市場に流す』のが目的だ。リッチの骨は現場監督に回して、各地の領地で失業中の【生身の人間の平民や浮浪者】を大量に雇って、きっちり高い賃金を支払え」


 この超弩級ちょうどきゅうの公共事業が発表されるや否や、世界中の貴族や領主たちは、我が社の三十万の不死者軍に一蹴いっしゅうされた恐怖から「まさか次は我が領地が更地《アンデッド化》にされるのでは!?」と、顔面を真っ青にしてビビり倒していた。


 だが、蓋を開けてみれば、我が社が莫大な金貨(公共資金)をじゃぶじゃぶと市場に投入し、領民たちをホワイトな条件で大量雇用してくれるのだ。


「め、冥界神めいかいしん様万歳! 我が領地の失業問題が一瞬で解決したぞ!」


「それどころか、素晴らしい石畳の街道をアルト様のお金で作ってくれるなんて、感謝の嵐だ……っ!」


 貴族たちは逆らうどころか、涙を流して喜び、自分たちも予算を出して進んで公共工事に協力。世界中で「アルト様のおかげで景気が良くなった!」と大絶賛だいぜっさんされることになった。


 さらに俺は、前話でリッチが人道支援じんどうしえんで救護・保護した『魔王軍の生き残り(強力な魔族たち)』にも、この道路工事や警備の仕事の一部を発注した。彼らにも正当な賃金を支払うことで、魔王の狂気から離れ、我が社の頼もしい新入社員(労働力)として、平和的で快適なセカンドライフをスタートさせたのだ。


「……あの、マスター」


 そこへ、我が社の最高財務責任者(経理)兼神聖ウェイトレスのエルナが、エプロンドレスのすそをきゅっと握りしめて進み出てきた。


「マスターが各地のインフラを整えて皆を救うお姿、本当に感動いたしました。……でしたら、このお屋敷にある、自動調理オートクッキング自動給仕オートサーブといった『超古代文明の究極魔導具』も市場に展開して、世界中の人々の生活水準を向上させたらどうでしょうか……っ?」


 元・聖女らしい、世界平和を願うエルナの健気けなげな提案。


 だが、俺はソファーの上で間髪かんぱつ入れずにきっぱりと首を振った。

却下きゃっか


「え……? ど、どうしてですか?」


「エルナ、俺の基本方針を忘れたのか? 俺は『自分の生活が最高に快適なら、他人の生活なんてどうでもいい』んだよ。そんな画期的な魔導具を世界に展開してみろ、利権を巡って新しいブラック組織が湧くか、扱いを巡って面倒な説明会(労働)が発生するに決まってるだろ。変に超古代の文明をばらいても、ろくなことにならない」


「う、海の底よりも深いニートの利己主義りこしゅぎですね……。分かりました、マスターの言う通り、帳簿の管理《経理》に専念いたします……っ」


 エルナはあきれ果てたようにため息を吐き、書類を持ってトボトボと部屋を出ていった。


 そう、俺は自分の引きこもりシェルター、そして自分が利用する『最高級娼館』以外の場所を豊かにする気など、これっぽっちもないのだ。


 実は、この城下街の一等地に移転してきた最高級娼館の内部は、俺の指示によって、運営責任者であるフェイの手で【超古代魔学の総力を以てガチガチに魔改造】されていた。


 部屋の温度や湿度は魔法によって常に最適に保たれ、ベッドのマットレスには雲のような極上の超古代シルクが敷き詰められ、お風呂には疲労を完全回復させる魔導温泉水が二十四時間不眠不休で湧き出ている。


 もちろん、その快適すぎる裏事情を知っているのは、オーナーである俺と、買収を執行したフェイの二人だけだ。


「やっぱりさ、最高に快適な環境で、可愛い女の子たちと最高のシたいこと《・・・》をしたいよね。それ以外の世界の平和なんて、邪神魔王がどっかで勝手に暴れてようが知ったこっちゃねえわ」


「ふふ、マスター。本当におバカさん。でも、そういう底抜けのクズっぷり、私、嫌いじゃないよ?」


 銀髪の美女フェイが、妖艶ようえんな笑みを浮かべて俺の太ももにそっと身体を寄せてくる。


 レベル1固定の最弱ニート、アルト。


 自分は指一本動かさず、お金の循環のためだけに世界規模の公共事業を骨に丸投げし、世界中から感謝されながらさらに稼ぎまくる。


 そして自らは、最高に魔改造された大人の楽園(娼館)へと、今夜も最高の笑みを浮かべてバイク風ボアのアクセルを最大まで吹かすのだった。

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