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第35話 帝都攻略は魔王軍に丸投げ! 降伏したギルドからロイヤリティを徴収し、自滅した教会を更地にします

「マスター、神聖帝国しんせいていこくの攻略軍だけど、ちょっと『魔王軍まおうぐん』からリッチ経由でお願いが入ってるよ」


 魔改造された一軒家シェルターの、空間拡張された広々としたリビング。


 超古代文明の最高級ソファーにだらしなく腰掛け、高級娼館しょうかんの昼のシフト(客として女の子たちとイチャつく労働)の合間に戦況確認に参加していた俺――アルトの元へ、フェイが手鏡型の魔導具を片手に声をかけてきた。


 現在、この部屋には我が社の主要幹部たちが全員集まり、淹れたての超古代紅茶をすすりながら、思い思いに言いたいことを言い合っていた。


「お願い? 何だフェイ。あの骨格リッチの元職場から、我が社に何の注文だ」


「うーん、魔王軍の言い分としてはね、長年人間に勝手に悪魔だの何だの敵認定されて、先代の魔王もあのクソ勇者に理不尽に倒されたでしょ? だから、今代の魔王は『積年の恨みを晴らすために、神聖帝国の帝都だけは是非、我々魔王軍の手で直接落とさせて欲しい』ってさ。あいつら、うちの三十万の国攻略軍に先を越されそうで、めちゃくちゃ焦ってるみたい」


「アハハ! 魔王のくせに、マスターの軍勢が怖くてお伺いを立ててくるなんて可愛いじゃん!」


 金髪ギャル風の美少女に擬態したシルフィが、ソファーの上で豊満な胸を揺らして大爆笑する。隣に座る若返った魔女も、クスクスと意地の悪い笑みを浮かべた。


「いいじゃないさ、アルト様。帝都を落とすなんていう泥臭い正面衝突《労働》、魔王軍に全部丸投げしちゃいなよ。どうせあそこを占領したって、戦後処理の残業が増えるだけなんだからさ」


「……一理あるな。よし、許可だ。リッチ、国攻略軍の歩みを少し緩めて、帝都は魔王軍に譲ってやれ。我が社は道中のギルドと教会さえ美味しく略奪りゃくだつできればそれでいい」


 俺の即決の命令を受け、念話の向こうでエンシェントリッチが『御意のままに、我が冥界神めいかいしん様。元同僚どもに華を持たせてやりましょう』と、禍々《まがまが》しくもたのしげに顎骨がっこつを鳴らした。


 ◇◇


 そんな他力本願な世界征服会議の途中、コンコンと控えめな音が響き、ロッドがリビングの扉を開けた。


「アルト様。辺境の村の城下街で商業を営む、難民や浮浪者たちの『商業代表者』が、マスターにお願いがあるとのことで、一軒家の門前に訪れております」


「あん? 今度は何だ、ロッド。俺はこれから娼館の夜のシフト(客として遊ぶ時間)が入って――」


「まあまあ、アルト様。お仕事の話ではありません、ただの中抜き利権ビジネスのご提案ですよ。……彼らの話によれば、周辺都市の【商業ギルド】から、我が社へ切実な命乞いの交渉が届いているとのことです」


 ロッドに案内されて部屋に入ってきた商業代表の男は、部屋を優しく満たす超古代の魔力と、美少女たちの正体(邪神や伝説の義賊)にガタガタと震えながら、必死の形相で書類を差し出してきた。


「め、冥界神様……! 我が社の三十万の不死者アンデッド軍が、各地の冒険者ギルドの支部を次々と物理的に完全破壊している件についてです……っ! 各街から冒険者ギルドが完全に消滅すると、モンスター退治やダンジョンの魔物間引きなど、街の存続に必要な防衛の仕事を出来る者が誰もいなくなってしまいます……っ! このままでは、利権が崩壊する前に、一般人の街そのものの存続が危ぶまれる事から、各街の商業ギルドが涙目で交渉を持ちかけてきております。……もし、各地の支部が現在の腐った中央の冒険者ギルドから正式に【脱退】した場合、我が社の攻撃の対象から外してはいただけないでしょうか……っ!?」


「……あぁ、なるほどね」


 俺はふかふかのクッションに体重を預け、冷淡に笑った。


 確かに一理ある。冒険者ギルドという中抜きブラック組織の本部を潰すのは大賛成だが、末端の街の安全まで完全に崩壊して、俺の高級娼館の流通や街の経済(金貨の循環)がとどこおおるのは死活問題だ。うちの定食屋の肉や野菜は城の中で自動生産されてるから仕入れはゼロだけど、客の財布が空っぽになったら、俺の懐に転がり込んでくるニート資金が減っちまうからな。


「よし、分かった。その交渉、乗ってやるよ。ただし、ただで許すわけねえだろ。条件だ」


 俺はニヤリと、前世の悪徳コンサルタントのような凶悪な笑みを浮かべた。


「冒険者ギルドを脱退した各地の支部は、本日を以て我が社の傘下――【新生冒険者ギルド《しんせいぼうけんしゃぎるど》】として再スタートさせろ。そして、その新生ギルドが上げる総利益の【1じゅっぱー】を、何の中抜き労働もせず、ロイヤリティとして永久に俺の懐へ振り込み続けろ。そうすれば、我が社の三十万の軍勢は一切手を出さないし、安全も保証してやる」


「な……1割の上納金だけで、百万の不死軍勢の守護が手に入る、だと……!? あ、ありがとうございます、冥界神様ァァァッッ!!!」


 商業代表の男は、それがどれほど凄まじいチート利権ビジネスか瞬時に理解し、涙を流して五体投地した。自分は指一本動かさない他力本願の極みで、世界中のギルドの利益の10%が勝手に俺のニート資金として転がり込んでくる永久機関の完成だ。


「ただマスター、既にうちの攻略軍が完全に木端微塵こっぱみじんに破壊しちゃった街はどうするのさ? あそこはもう冒険者もギルド職員も誰もいないよ?」

 フェイが不思議そうに首を傾げる。


「簡単な話だろ。ロッド、セバス。お前たち今すぐそこへ行け。すでに崩壊した街には、冒険者ギルドと同等の依頼管理や防衛事業を、我が社の【不死者軍アンデッド】でそのまま請け負う方向で話を進めろ。黒騎士デスナイトを街のガードマン(衛兵)として常駐させ、ダンジョンの間引きも骨の兵士たちに二十四時間年中無休で自動で労働まびきさせればいい。お前たちに丸投げするから、ガチガチの独占直営ビジネスを構築しといてくれ」


「「はあ、……やはり我々に完全丸投げですか。ですが、直営ビジネスとなれば利益は中抜きではなく『10割我が社の利益』。御意のままに、最高にブラックな不眠不休の運営体制を整えましょう、我がマスター」」


 骨の執事コンビが、最高に邪悪な笑みを浮かべて一礼した。経営を骨に丸投げするスタイル、マジで安定感が半端ないな。


 ◇◇


 一方その頃――。


 我が社の『教会攻略軍』が、地鳴りのような行軍音を響かせて大聖都だいせいとを目指して進軍する中。


 神聖教会の本部では、最高枢機卿たちがガタガタと震えながら、世界中の信者へ向けて【『神敵』完全取り下げ】と【アルトの不死者軍には一切抵抗せず、無条件で平伏せ】という大パニックの緊急通達を乱発していた。


 だが、すでに遅すぎた。


 神々によって「聖なる力(加護)」を強制的に剥奪され、回復も封印も使えないただの凡人へと成り下がった恐怖の現実を突きつけられた結果、教会を見捨てる信者や末端の神官たちの【脱退】が、全国各地であとを絶たない事態に陥っていたのだ。


「ひ、ひぃぃっ! 加護のない教会など、ただのハリボテだっ! 骨のバケモノ騎士たちがやってくる前に逃げろォォォッ!」


 進軍が近づくたびに、教会の総本山や各支部からは、偉そうにしていた枢機卿も聖騎士もクモの子を散らすように全員が夜逃げを敢行。


 我が社の三十万の教会攻略軍がたどり着いた時には、大聖堂はすでに、人っ子一人いない【もぬけのから】となっていたのだった。


規則ルール違反。……主の命令通り、中抜き宗教の建屋を完全破壊する」


 黒騎士たちは無言のまま、もぬけの殻となった豪華絢爛な大聖堂に大剣を叩き込み、粉々に粉砕。中に眠る金銀財宝だけをキキビキとした美しい動作で我が社の総資産として略奪し、次の目的地へと不眠不休で爆進していった。


「フハハハ! 痛快だな! 魔王軍が勝手に帝国を滅ぼし、商業ギルドが勝手に金を運んできて、教会は勝手に自滅して更地になる……これぞ至高の他力本願だ!」


 俺は小さな一軒家の玄関前で、魔改造されたバイク風ボアのアクセルを『ブロロロロンッ!』と最高に気持ちよく吹かした。


 世界のパワーバランスを指一本でめちゃくちゃに破壊したレベル1の最弱ニート、アルト。


 何の中抜き労働もせず、莫大な世界中の利権を手に入れた彼は、今日も極上の笑みを浮かべ、今夜の最高の性生活ライフを満喫するために、一等地の最高級娼館へと安全運転で直行するのだった。

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