第33話 神々がパニックで神敵撤回!? 大国・教会・ギルドの三大組織へ宣戦布告し、90万の不死軍勢で世界同時大蹂躙します
「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいよぉぉぉぉぉッッ!!!」
神聖なる光に満ちていたはずの『神界』は今、かつてないほどの怒号と悲鳴に包まれていた。
雲の上に集まった神々は、誰も彼もが顔面を蒼白に染め、ガタガタと無様に震えながら互いの胸ぐらをつかみ合っている。
「何で教会の無能どもは勝手にあの男を『神敵』認定して公布してるのよぉぉぉ!」
「あの馬鹿どものせいで、神を殺す天之尾羽張が次はこの我々にも牙を剥くに決まっているだろうが!」
「剣神が一瞬で首を撥ねられて邪神に魔改造されたんだぞ!? 逆らえるわけがない!」
自分たちは何があっても死なない、絶対に不滅の至高の存在――そう傲慢に胡座をかいていた神々は、初めて味わう「本物の死の恐怖」に完全に正気を失い、狼狽しまくっていた。
「急げ! 今すぐ下界の教会へ最高峰の緊急神託を告げるのだッ!」
その数分後。地上の神聖教会本部の大聖堂。
まばゆい黄金の光と共に、神々からの【激怒と恐怖の神託】が枢機卿たちの脳内に直接叩き込まれた。
『――聞け、愚か成る地上の羊どもよ! 死霊術師アルトとは絶対に敵対してはならない! どのような理由があろうとも手出しすることは厳禁である! 彼は神の敵などではない! あの神敵認定は直ちに間違いを認め、一刻も早く取り消しなさい! もし、教会がこれ以上彼に敵対行動をとったら――教会に所属する者すべての加護をこの瞬間に剥奪する!!』
「な……ななな、何だとぉぉぉぉぉッッ!? 神敵公布を取り消せだと!?」
神々のあまりの取り乱しっぷりと、全加護剥奪という破滅的な脅しに、教会の最高幹部たちは大パニックに陥った。
世界全土へ大々的に「神敵」として公布したばかりなのに、今さら取り消すなど教会の権威は完全に失墜する。しかし神の命令に背けばその瞬間に全員が無能の凡夫と化す。組織の上層部どもは、自分たちが踏み抜いた地雷のデカさに顔を真っ青にして途方に暮れるしかなかった。
◇◇
――そして、世界のもう一つの巨大な勢力もまた、狂い始めていた。
「大国の五万の正規軍と、人類最強の剣聖が一瞬で消息不明になっただと……?」
漆黒の魔王城の玉座の間。
エンシェントリッチを失って以来、力を落としていた『魔王軍』の幹部たちが、地上のスカウトから届いた報告に驚愕していた。
何億年も生きた伝説のバケモノであるリッチが、魔王軍を裏切ってまで跪いた謎の主、アルト。その底知れない脅威に便乗し、現魔王は椅子を蹴り飛ばして全軍へ吼えた。
「人類最強の剣聖が消え、神聖帝国は完全に弱体化した! これこそ長年破れなかった人間どもの防衛線を突破する絶好の好機! 我が魔王軍の総力を以て、今すぐ【神聖帝国への全面進軍】を開始せよ! あの傲慢な人間どもを一人残らず蹂躙してやるのだ!」
世界を破滅させるための魔王軍の全戦力が、黒い濁流となって神聖帝国へ向けて動き出したのだった。
◇◇
「――ふぁ……。ねえフェイ、昨日高級娼館で女の子たちに貰ったこのお菓子、超古代文明の紅茶にめちゃくちゃ合うわ」
「はいはい、マスター。本当に危機感が家出中だね。外はとんでもないことになってるよ?」
そんな世界の崩壊劇など、俺にはハッキリ言ってどうでもいいことだった。
魔改造された一軒家《隠れ家》のふかふかベッドの上で、俺は銀髪の絶世の美女となったフェイから差し出された報告書を眺めて、冷淡に鼻で笑った。
「国と教会と冒険者ギルドに対する土地の不法占拠の損害賠償、その回答が『人類最強の剣聖の派遣』だったわけか」
俺は紅茶を啜りながら、ニヤリと本日一番の凶悪な笑みを口元に刻んだ。
二度も組織に裏切られて過労死(?)した俺だ。他人の土地を泥棒しておきながら、請求書を踏み倒すために物理的暴力(社畜)を送り込んできたゴミ上層部どもの裏の意図を、見逃すはずがなかった。
「交渉の余地なし、だな。ビジネスのルールを踏み躙ったのは向こうだ。――よし、ロッド、セバス、リッチ」
俺がボア(バイク風)の上から念話を飛ばすると、影の中から優秀な骸骨執事コンビと、背後に十本の魔剣を背負ったばかりの頼もしい新入社員『邪神(元・剣神)』がカチカチと愉しげに跪いた。
「我が社の正当なる利益と、俺の快適な引きこもりライフを脅かす泥棒猫どもだ。神聖帝国、神聖教会、冒険者ギルド――この三つの組織に対して、我が社の総力を以て、正式に【宣戦布告】を執行しろ」
『はっ、御意のままに、我が冥界神様。……ククク、これまでの価格破壊や密輸の段階を終え、ついに『物理的な強制執行(大蹂躙)』のターンですな』
「ああ。リッチの百万の軍勢から、それぞれに【三十万の軍勢】を均等に出撃させろ。帝国には超古代の骸骨騎士を、教会には邪神の呪いを、ギルドには黒騎士の軍勢を叩き込め。不眠不休、二十四時間年中無休で、あのゴミ組織どもの資産と拠点を丸ごと更地にして『ざまぁ』してやれ」
『御意のままにぃぃぃッッ!!!』
邪神となった元・剣神の咆哮とともに、城下街の地下から、世界を圧殺するほどの漆黒の不死軍勢が三方向へと一斉に進撃を開始した。
「マスター、ちなみに魔王軍の全軍も、神聖帝国に向かって進軍を始めたみたいだよ? うちの三十万の軍勢と、魔王軍の全軍に挟み撃ちにされて、あの帝国今頃パニックでひっくり返ってるってさ」
フェイが楽しそうに手鏡型の索敵魔導具を見せてくる。肩の上のシルフィも「わぁ、神聖帝国がサンドイッチになってるー!」と脳天気に羽をパタパタさせている。
「ハッ、自業自得だろ。不法占拠のツケを払わずに剣聖なんか送るから、魔王軍にまで美味しい獲物だと思われたんだ。ゴミ同士、我が社の三十万の軍勢の足元で勝手に潰し合ってろ。それよりフェイ、今日の娼館の夜のシフト(客として遊ぶ時間)の予約は――」
レベル1固定の最弱ニート、アルト。
本人は指一本動かさない他力本願の極みで大国、教会、ギルドの三つを同時に滅ぼすための『世界同時大蹂躙』の引き金を引く。
そして自らは、お気に入りの娼館へ通うことだけを気掛けにしながら、今夜も最高の笑顔でボアのアクセルを最大まで吹かすのだった。




