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第32話 【朗報】最強の『剣聖』を天之尾羽張様で瞬殺したら『剣神』が降臨したので、死霊術(UR)で『邪神』にして社畜化しました

 漆黒の巨城『冥界城めいかいじょう』がそびえ立つ、城下街の正面大通り。


 荒涼とした大地の真ん中で、俺――アルトは魔改造されたバイク風ボアのシートに跨がり、退屈そうにその男を待っていた。


 向こうから歩いてくるのは、肩まで伸びた髪を揺らし、古びた長剣を腰に下げた男。大国が誇る人類最強の最高位Sランク冒険者であり、食客の『剣聖けんせい』カインだ。


 彼はリッチの黒騎士デスナイトたちをさやの一振りで粉砕し、ここまで正面突破で飄々《ひょうひょう》と歩いてきた。


『むぅ……小僧、気をつけよ。あの羽虫の背後に、薄汚い『神』の気配がへばりついておる。不愉快極まりないわ』


 腰の天之尾羽張アメノオハバリ様が、脳内で心底不機嫌そうに低くうなる。カインが生まれながらに持つという【剣神の加護】の匂いを察知したのだろう。


「いやぁ、君が指名手配の死霊術師しりょうじゅつしクン? 思ったより弱そうだねぇ。レベル1って本当なんだ」


 カインは俺の正面十メートルの位置で足を止め、ポリポリと首の裏を掻きながら笑った。


「百万の軍勢だか何だか知らないけどさ、術師の君をここでブスリとやっちゃえば、全部終わるわけでしょ? 悪いけど、国が滅ぶと俺の昼寝の場所がなくなるから、ここで大人しく首を置いて――」


 刹那せつな


 世界からすべての光と音が消失した。


 カインが古びた長剣のつかに手をかけ、人類最高峰の神速の抜刀術を放とうとした――まさに、その一瞬の直前だった。


 キィィィィィン――。


 主である俺への明確な殺意を感知した神殺しの神剣『天之尾羽張』の自動迎撃システム(安全運転)が、異次元の神速において作動した。


 閃光が一閃。


「え――」

 それが、人類最強とうたわれた剣聖が遺した、最後の言葉だった。


 何が起きたのかすら理解できず、剣を抜くことすら許されなかったカインの首が、綺麗な放物線を描いて宙を舞う。


 ドサリ、と崩れ落ちる頭部のない肉体。


「キャハハ! 相変わらず一瞬だねー!」


 宙を舞った剣聖の首と胴体は、地面に落ちるよりも早く、肩の上から飛び出したシルフィの闇属性魔法の中へと吸い込まれ、骨ごと完全に消滅した。100%完璧な隠滅ざまぁだ。


 ◇◇


 ――その瞬間、この世界を統べる上位概念たる『神界しんかい』に、強烈な激震が走った。


「何だと……!? 私が直々に【剣神の加護】を与え、次代の剣神としての器に育て上げていた我が最高傑作(剣聖)が、地上から消滅しただとぉっ!?」


 白銀の宮殿に咆哮を響かせたのは、戦争と剣を司る絶対的な上位存在――『剣神けんしん』だった。


 カインの魂の消滅を察知した剣神の眼球が、驚愕と、それを上回る強烈な興奮によって血走る。


「剣聖が、術の呪いでも物量でもなく、純粋な『剣のわざ』で斬り殺されたというのか! 面白い、面白すぎるぞ、地上の死霊術師め! この私の領域である剣で我が眷属けんぞく凌駕りょうがしたその不遜、我が神剣を以て直々に断罪してくれようッ!」


 ドガァァァァァンッッ!!!


 まばゆい黄金の神聖光が、薄暗い魔の森の夜空を割って降り注いだ。


 大気が神気によってへし折られ、天使の歌声のような荘厳そうごんな気配と、大袈裟なほどのド派手な光の演出の中――俺とフェイたちの目の前に、まばゆい光の巨人が姿を現した。光が収まると、そこには無数の神剣を背後に浮かせた、傲慢な笑みを浮かべる男が立っていた。


「地上のい虫どもよ、平伏せぃ! 我こそは神界を統べる剣の絶対不変の創造主、剣神である! 我が眷属をほふったその罪、神の直々の裁きを以て――」


『ククク……ハハハハハ! おい小僧、聞いたか? 自ら首を洗って断頭台の前に並びに来る、最高に頭の悪いゴミ虫が空から降ってきたぞッ!!』


 俺の腰の天之尾羽張様が、脳内で邪悪極まりない大爆笑を響かせた。


「っ!? その禍々《まがまが》しき神気は、まさか……あの、かつて神々の首を刎ね飛ばして神界から追放されたという、日出づる国の神殺しの――」


 剣神が顔面を蒼白に染め、背後の神剣の一振りを抜こうとした、その直前だった。


 キィィィィィン――。


 一閃。自動迎撃システムの神速は、世界のことわりたる神にすら、1ミリの猶予も与えなかった。


 青白い雷光の斬撃が、剣神が武器を抜く前に、その太い首を無慈悲に一刀両断したのだ。


 ポーン、と。

 光り輝く神の頭部が、綺麗な放物線を描いて宙を舞う。


「フ、フハハハ! 愚かな這い虫め! この程度の刃で、不死不滅たる『神』を斬り殺せると思ったか! 神の肉体は神界の魔力によって無限に再生――……え? あ、あれ……?」


 宙を舞いながら余裕の笑みを浮かべていた剣神の顔が、突如として驚愕に変形した。


 切り離された胴体から、神聖な光の代わりに、赤黒いドロドロとした血が溢れ出る。肉体が全く再生しない。それどころか、神としての不滅の概念そのものが、じわじわと内部から腐食して死へ向かっているのだ。


「ば、馬鹿なッ!? なぜ神である私の肉体が再生しない!? この私の、神の魂が、消滅していくだとぉっ!?」


『ククク、我が名は天之尾羽張。火の神の首を容赦なく撥ね飛ばした、神を斬り殺すための神。我に斬られた者に、神だろうが何だろうが、二度目の生など有り得んわ』


 脳内で冷酷に告げる尾羽張様。


 地面にゴロゴロと転がった、今まさに完全に死を迎える直前の『神の新鮮な死体』。


 俺は魔改造ボアの上で、ふと、ある純粋な疑問を抱いた。


(……待てよ。神が死ぬ直前の死体って、ハッキリ言って最高級のレア素材だよな? もし、この神の死体に、俺の【死霊術師UR】の力を使ったら……一体どうなっちゃうんだろう?)


 働きたくない最弱ニートの、不純な好奇心。


 俺はボアの上から、その神の死体へ向かって無造作に右手を突き出した。


「【死霊創生ネクロ・ライズ】」


 ドクンッ!!!

 その瞬間、世界中の因果律がバグったように明滅した。


 俺の『死霊術師UR』の底知れない闇の魔力と、天之尾羽張様の神殺しの神気が、剣神の死体の中で奇跡の核融合を起こす。


 ボコボコボコボコボコッ!!! 

 ピキピキピキピキッ!!!


 剣神のまばゆい光の肉体が完全に崩壊し、反転する。


 現れたのは――全身の骨格が漆黒の魔導金属と化し、背中に十本の呪われた暗黒の魔剣を背負った、圧倒的な威圧感を放つ巨大な『骸骨のスケルトン・ゴッド』。


【ジョブ:邪神じゃしん(元・剣神)】


「……オォ、オオオオオオオオオオオオンッ!!!」


 世界の次元の壁をピキピキとひび割れさせるほどの、おぞましい邪悪な咆哮。


 かつて正義を気取っていた剣神は、世界を破滅させる最凶の【邪神】へと反転復活を遂げたのだ。


 そして、その巨大な邪神の骸骨は、流れるような動作で俺の前に五体投地し、地面に這いつくばった。


「……拝謁いたします、我が絶対の創造主、冥界神めいかいしん様。この何物にも代えがたい至高の『闇の神体』を与えてくださった御恩、一生の忠誠を以て、24時間年中無休、不眠不休で馬車馬のように働いてお返しいたします……っ!」


「おう、我が社へようこそ、邪神クン。これからは我が社の『警備保障部門のトップ(社畜)』として、俺の快適なニートライフを守るために頑張ってね」


「御意のままにぃぃぃッッ!!」


 ◇◇


 ――その瞬間。


 神界の白銀の宮殿にいた他の神々は、下界の様子を映す水晶玉を見つめながら、全員が腰を抜かして失禁していた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!? 剣神が一瞬で首を撥ねられたぞっ!?」


「それどころか、死霊術で『邪神』に変えられて、あのレベル1の少年に奴隷のように跪いている……っ!」


「化け物だ! あいつは本物の、世界を滅ぼす冥界神だっ! 絶対に怒らせるな、今すぐあの街への干渉をすべて全面中止しろォォォッ!!」


 神界はかつてない大パニックに陥り、アルトへの敵対行為を完全に放棄したのだった。


「フハハハ! 完璧だな! 神様すら我が社の新入社員(社畜)にする他力本願ライフ!」


 俺は小さな一軒家のふかふかベッドへと潜り込み、高級娼館の次のシフト(女の子たちとの至福の労働)に胸を躍らせながら、高らかに笑声を響かせた。


 レベル1の最弱ニート、アルト。


 自分は指一本動かさないまま、人類最強の剣聖をワンパンし、攻めてきた神を邪神に変えて完全掌握。世界中の神々すら恐怖で平伏させた彼は、今夜も最高の笑顔で、お気に入りの娼館へとボアのアクセルを最大まで吹かすのだった。

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