第30話 因縁の裏切り者が五万の大軍で襲来!? 天之尾羽張様の秒殺と百万の不死軍勢・妖精族の全自動大蹂躙で返り討ちにしてやりました
「前進せよッ! 魔の森に巣食う神敵を、一匹残らず叩き潰すのだ!」
神聖帝国の五万の大軍勢。その先頭で、かつて俺を泥水すする過労死寸前の過酷労働へと追いやり、最後は断頭台へ送った因縁の元・騎士団長アレンが、傲慢な笑みを浮かべて愛馬を走らせていた。
彼はクソ勇者が消えた後、新しい英雄の座を手に入れる手柄に目が眩み、志願してこの大軍を率いてきたのだ。
過労死させた元上司が、さらなる手柄のために出張してくるこのウザさ。胸の奥から冷酷な社畜殺しの怒りが湧き上がってくる。
だが、彼らが漆黒の極大の城『冥界城』の見える境界線へと足を踏み入れた、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――!!!
「な、何事だ!? 地鳴りか!?」
アレンの叫び声を、空間そのものが引き裂かれるような悍ましい魔力の爆音がかき消した。
地平線の彼方、森の木々の隙間、地底の底から――地を埋め尽くすように湧き出てきたのは、禍々しい漆黒の鎧を纏った黒騎士と、超古代文明の金属骨格を持つ骸骨兵たち。
その数、実に【百万】。
「ば、化け物……! こんな数のアンデッド、有り得ないわっ!」
「包囲されているぞ! 逃げ道を塞がれたっ!!」
さっきまで勝ち誇っていた五万の正規軍は、四方八方を埋め尽くした圧倒的な暴力の質量の前に、一瞬で顔面を蒼白に染め、ガタガタと震え出した。戦う前から、完全に心が圧殺されている。
さらに、彼らの絶望を決定づけるかのように、空から幻想的かつ禍々しい光が降り注いだ。
「あはは! 見てごらんよ母様、お姉様たち! 汚い人間どもがゴミみたいに群がってるよー!」
シルフィの無邪気な声とともに、上空の影から姿を現したのは、森の平穏を脅かされた妖精族たち。そして、その先頭に立つのは美しくも恐ろしい威厳を纏った『妖精女王』とその王女たちだった。
「我が森を汚し、アルト様に刃を向ける愚かな侵略者どもめ。生者も死者も関係ない……森の掟に従い、塵一つ残さず消し去りなさい!」
妖精女王の宣告に応じ、生身の妖精たちだけでなく、かつて戦いで命を落としアルトの死霊術URによって反転復活した『ダーク・フェアリー・スケルトン』の軍勢までもが、黒い光を撒き散らしながら大挙して押し寄せた。
「ひぃぃっ! 妖精だ!? いや、なんだあの黒い骨の妖精はっ!?」
「空からも逃げられない……! 助けてくれぇぇっ!」
そんな絶望の戦場に、場違いな『ブロロロロ……』という軽快な駆動音が響いた。
「よお、アレン。大雨の断頭台以来だな。わざわざ首を洗って一列に並んでやってくるとは、最高の社畜精神じゃないか」
「て、てめぇは……アルト……っ!?」
アレンが目を見開いた。
百万の不死軍勢と無数の妖精たちの真ん中を割って現れたのは、魔改造されてバイク風のふかふかシートとハンドルがついたボアスケルトンに跨がり、だらしなく笑う俺――アルトだった。
アレンはあまりの恐怖に腰を引かせ、愛馬を後退させながらも、大国の威光と教会の名目を必死に盾にして怒鳴り散らした。
「狂人がっ! 世界全土から指名手配《DEAD or ALIVE》された『神敵』の分際で、偉そうに語るな! 貴様がやっていることは、辺境の村と、冒険者ギルドが誇る神聖な『ダンジョン』の不法占拠だ! 大国の正規軍の前に平伏し、直ちにすべての利権を明け渡せッ!」
どこまでも自分たちの盗人猛々しい利権を主張する、反吐が出るほどのゴミ上層部。
すると、俺のボアの横に、若返って金髪の爆乳美女となった魔女がクスクスと小悪魔的に笑いながら進み出てきた。
「あはは! 本当に人間ってのは、百年前から脳みその中身が変わらないねぇ!」
魔女が指先をパチンと鳴らすと、上空の空間に、まばゆい緑の魔力で形成された【古の絶対契約書】が、五万の軍勢全員に見えるほどの極大サイズで展開された。
「おい、不法侵入の泥棒猫ども。よくその契約書を読みな。その街も、お前たちが私物化してたダンジョンも、全部元々は【私の森の敷地】さ! 主であるアルト様に断りもなく勝手に開拓して商売してたのは国の方だろうに! 利権を明け渡すどころか、過去百年の不法占拠に対する【巨額の損害賠償】を、今すぐ耳を揃えて支払ってもらおうかねぇ!」
「な……魔女の、領地書だと……っ!?」
アレンは驚愕に顔を歪めたが、ここで引き返せば自分の出世は完全に終わる。彼は手柄への強欲と焦りから、完全に理性を失って大剣を振り上げた。
「うるさいッ! そんな大昔の紙切れなど関係ない! 全軍、突撃ィィィ! 悪魔の術師を八つ裂きに――」
キィィィィィン――。
一瞬。世界からすべての音が消え去った。
俺がバイク風ボアの上で、ただ刀の柄にそっと触れただけ。
主である俺への明確な殺意を感知した神殺しの神剣『天之尾羽張』の自動迎撃システム(安全運転)が、その神速の極限において作動したのだ。
閃光が一閃。
「え――」
それが、真面目に働いていた過去の俺を裏切り、英雄に成り上がろうとした男が遺した、最後の言葉だった。
抵抗の余地も、大技を放つ隙すら与えられないまま、アレンの首は綺麗な放物線を描いて宙を舞った。そのまま地面に落ちるよりも早く、影に潜んでいたシルフィの闇属性魔法の中に吸い込まれ、骨ごと完全に消滅した。100%完璧な『格付け完了』。
「た、隊長が一撃ぃぃぃ!?」
五万の軍勢が完全にパニックに陥ったその瞬間、俺は冷酷に右手を突き出した。
「よし、リッチ。妖精たちも。――我が社の正当なる私有地を荒らしたゴミ虫どもを、全員まとめて『ざまぁ』してやれ」
『御意のままに、我が絶対の神、冥界神様ァァァッッ!!!』
百万の超古代アンデッド軍勢が一斉に咆哮を上げ、波濤となって五万の軍勢へと襲いかかった。
空間を穿つ極大の暗黒魔法が炸裂し、黒騎士たちの無慈悲な大剣が大国の正規軍を紙切れのように引き裂いていく。
それと同時に、空からは妖精女王と王女たちが放つ超広範囲の魔法が嵐となって兵士たちを微塵切りにし、暗黒化したスケルトン妖精たちが不気味な笑い声を上げながら、闇の刃で敵の魂ごと刈り取っていく。
「ギャァァァッ!? 空から魔法降ってくる!」
「妖精の呪いだ! 助けてくれ、目が見えない、体が引き裂かれる――ッ!」
地上からは百万の骨、空からは美しくも残虐な妖精の軍勢。上下からの絶対的な挟み撃ちにより、突撃を命じた大軍勢は抵抗の術すらなく、わずか数分でただの一人も残さず、跡形もなく完全に圧殺・蹂躙された。
「さて、と……」
血の海と化した戦場を見つめながら、魔女が周囲の鬱蒼とした木々に向かって、不敵な笑みを浮かべて手をかざした。
「おい、そこで震えながら見てる『間者』ども。あんたたちの命だけは、このメッセージを届ける『配達員(労働)』として生かしておいてあげるよ」
魔女の指先から放たれた拡声魔法の光が、森の影に潜んでいた国や冒険者ギルドの隠密たちへと直撃する。
「お前たちの雇い主である国家と冒険者ギルドの上層部に、そのまま伝えな。――『我が主アルト様への指名手配を即座に全面撤回し、これまでの土地の不法占拠に対する巨額の損害賠償を払いに、一列に並んで辺境の村まで這いつくばって来い。さもなくば、次は百万の軍勢と妖精族を以て、お前たちの国を丸ごと更地(アンデッド化)にしてやる』ってね!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
腰を抜かした間者たちは、血相を変えて大国へと逃げ帰っていった。
「フハハハ! 完璧だな! 因縁の裏切り者も一瞬でざまぁ完了、これでもう俺の引きこもりライフを邪魔する奴は誰もいない!」
俺は魔改造されたバイク風ボアのハンドルを握り直し、最高の充実感に浸りながら高らかに笑声を響かせた。
レベル1の最弱ニート、アルト。
自分は指一本動かさない他力本願の極みで、国家の五万の大軍を完全圧殺。
面倒な戦後処理や国家への脅迫はすべて魔女や妖精たちに丸投げし、彼は今夜も、城下街の一等地にあるお気に入りの高級娼館へと、最高の笑顔でボアのアクセルを最大まで吹かすのだった。




