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第29話 ダンジョン不法侵入者を全員『ざまぁ』して封鎖したら、5万の大軍と元部下の裏切り者が攻めてきた件

「……はあ。アルト様、大変なことになっちゃったよ。あんたが私のワンオペ残業(邪神の封印維持)を強いるから、下界の様子を調べるのが遅れたじゃないさ」


 魔改造された一軒家シェルターの、空間拡張されたプライベートルーム。


 超古代文明のふかふかベッドの上で、最高級娼館しょうかんからの朝帰りの眠気を貪っていた俺――アルトの元へ、とんでもない美女が文句を言いながら入ってきた。


 ホムンクルスの肉体をガワにして若返った『魔女スケルトン』だ。


 彼女は自分の骨の顔をカリカリと(肉体があるから実際は綺麗な肌だが)掻きながら、俺の前に一枚の古びた羊皮紙の地図を広げた。


「おいおい、ババァ……じゃなくて魔女さん。夜のシフト(娼館通い)で疲れてる俺に、朝から何の労働(情報の擦り合わせ)をさせる気だ」


「ババァ言うな! これを見ておくれよ。あんたがこないだまでいたあの街も、周辺のいくつかの村も、そして冒険者ギルドが威張っていたあの『ダンジョン』がある場所もね……全部、元々は【魔女の森の敷地】なんだよ!」


「……は? どういうことだ?」

 俺はベッドから身を起こし、その地図を凝視した。


 魔女の話によると、彼女が老衰間際で弱り、館に引きこもっていたここ百年の間に、周囲の人間(強欲な領主やギルド)たちが勝手に森を切り拓き、街や村を作り、ダンジョンを私物化して利権にしていたのだという。


「つまり……あのゴミ虫どもは、人の土地に勝手に不法侵入して、勝手に商売をして、挙句の果てに俺を神敵認定して指名手配したってわけか?」


「その通りさ。あそこは正当なる私の、ひいては今の主であるあんたの所有地だよ」


 前世のブラック企業時代、他人の手柄(特許や成果)を勝手に盗んで出世していった無能な上司どものツラが脳裏に過り、俺の胸の中に冷酷な社畜魂(邪悪なニート精神)が最高に疼いた。


「よし……リッチ。今すぐあのダンジョンに『黒騎士デスナイト』の精鋭部隊を派遣しろ。我が社の正当なる私有地だ。クラン『鉄の牙』のメンバーと、リッチの軍団以外の【全面立ち入り禁止】を執行しろ。規則ルールを破る不法侵入者は、全員例外なくその場で『ざまぁ』して叩き出せ」


『御意のままに、我が偉大なる冥界神様ッ! 泥棒猫どもに神罰を与えましょう!』


 この命令が執行されるや否や、冒険者ギルドは大混乱に陥った。


 ギルドの最大の収入源であり、冒険者たちの命綱だったダンジョンが、突如として出現した最強の黒騎士たちによって完全に封鎖されたのだ。


「ふざけるな! ここは我々のダンジョンだぞ!」


 傲慢な高ランク冒険者たちが武器を構えて奪取を試みたが、何億年も生きた伝説のバケモノであるリッチの精鋭に、現代の凡夫が歯が立つわけがなかった。一瞬で骨を粉砕され、ゴミ袋のようにギルドの前に投げ捨てられた。


 定食屋がなくなり、最高級娼館もなくなり、トップクラン『鉄の牙』に脱退され、最後の希望だったダンジョンまで使用不可。


 素材も飯も娯楽もすべてを失ったあの街は、急速に人がいなくなり、文字通り衰退すいたいを極めてゴーストタウン寸前へと追い詰められていった。


 ◇◇


 しかし、追い詰められたゴミ上層部が取る行動は、いつだって一つだ。


 逆恨みによる、理不尽な武力弾圧。


「――マスター、大変。ついに『特大のゴミ虫』が、この都市に向かって進軍を始めたよ」


 数日後。城下街の一等地に立つ我が家のリビングで、フェイが手鏡型の魔導具を覗き込みながら、不敵な笑みを浮かべた。


 肩の上のシルフィも、「わぁ、すごい数! 人間のおもちゃがいっぱい並んでるー!」と脳天気に羽をパタパタさせている。


「あの街の『冒険者ギルド』と『領主の残党』がさ、自分たちの無能を棚に上げて、大国(神聖帝国)の本部に泣きついたみたい。それで、神聖教会の【神敵討伐】の名目のもと、大国の正規軍、総勢五万の大軍勢を味方につけて、このニート要塞へ攻めてくるってさ」


「へぇ、五万か。相変わらず、中抜きしかできない組織の癖に、兵隊を集める数だけは一丁前だな」


 俺は超古代文明のふかふかソファーに深く腰掛け、淹れたての紅茶を啜りながら冷淡に鼻で笑った。


 すると、俺の前に現れた最高位の執事スケルトン、ロッドの眼窩に宿る青い魔力の炎が、静かに、しかし冷徹な怒りを孕んで揺らめいた。


「アルト様……っ。その五万の大軍勢を率いる、総大将の『騎士団長』の名前が、教会の通信魔導書に記録されていました。……その男の名前は、アレン。かつて貴方様を裏切り、断頭台へ送った――あの男です……っ!」


「……ほう。アレンか」


 その名前を聞いた瞬間、俺の脳裏に、あの日、あの大雨の断頭台の光景が鮮烈に蘇った。


 傾きかけた辺境の領地を救うため、寝食を惜しみ、文字通り死に物狂いで泥水をすする思いで働いていた俺。それを『死霊術師』だと冒険者ギルドと教会に通報し、領民の罵声の中で俺の首を冷酷に切り落とした、一番信頼していた騎士団長のツラ。


 キィィィィィン――。


 俺の腰にある神殺しの神剣『天之尾羽張』が、主の魂の奥底から溢れ出た昏い怒りに呼応し、これまでで最も激しく、禍々しい雷光を放って鳴り響いた。


「アハハ! 因縁の裏切り者のお出ましだね、マスター! あいつ、世界を救ったクソ勇者が消えたから、今度は自分が教会の『新しい英雄』に成り上がるために、手柄を焦って志願してきたみたいだよ?」


 フェイがナイフを指先で弄びながら、最高に邪悪な笑みを浮かべる。


「いいぜ……。わざわざ自分から、俺の快適な引きこもりニートライフの前に、首を洗って一列に並んでやってくるとはな」


 俺はニヤリと、本日一番の凶悪な笑みを口元に刻んだ。


「リッチ、ロッド、セバス、シルフィ、フェイ。――我が社の利益と、俺の個人的な『ざまぁ』のために、あの五万のゴミ虫どもを全員まとめて、地獄の底へ蹂躙してやれ」


『御意のままに、我が絶対の神、冥界神様ァァァッッ!!!』


 エンシェントリッチの咆哮とともに、漆黒の極大の城の地下から、世界を破滅させかねないほどの漆黒の暗黒魔力が大気へと吹き荒れた。

 

 城壁の外、地平線を埋め尽くすように進軍してくる、神聖帝国の五万の輝かしい大軍勢。その先頭で、傲慢な笑みを浮かべて愛馬を走らせる、因縁の裏切り者――騎士団長アレン。


 彼らは自分たちが、何億年も生きる伝説の化け物と、百万の超古代アンデッド軍団、そして神をも殺す神剣が待ち構える『最凶の処刑場』へと、自ら進んで足を踏み入れていることに、まだ1ミリも気づいていなかった。


 レベル1の最弱ニート、アルト。


 真面目に働いていた過去の自分を嘲笑ったすべてのゴミどもを、圧倒的な他力本願の暴力で徹底的に圧殺する、国家規模の『大蹂躙ざまぁ編』が、今ここに完全開幕する。


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