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第27話 【朗報】指名手配されたので街を捨てて逃亡! 娼館を会社ごと買い取って魔の森に極大のニート要塞を建設します

「――な、何だと!? 『鉄の牙』の素材供給が完全にストップしただと!?」


 領主の館の執務室で、領主の驚愕の声が響き渡った。


 嫌がらせでダンジョン立ち入り禁止を通達した結果、トップクランが組織ごと脱退。高ランク素材の流通が完全に停止し、ギルドは運営崩壊の危機に陥っていた。


 あの難癖をつけてきた受付嬢のバックにいた幹部たちも、自分たちの傲慢が招いた大ブーメランに顔面を蒼白に染め、領主に泣きついていた。


「領主様、どうかお力添えを! このままでは我が街のギルドは破産します!」


「知るかッ! こっちだって定食屋を強奪しようとした兵たちが全員、消息不明になっているのだぞ!」


 ゴミ上層部同士が醜い擦り付け合いをしていた、まさにその日の夜。


 魔改造された一軒家シェルターの周囲の空間が、バリバリと禍々しい光を放って歪んだ。


「見つけたぞ、不浄の隠れ家を! 神聖教会の名において、聖女エルナを奪還し、悪魔の術師を処刑せよ!」


 現れたのは、クソ勇者の喪失について定食屋の周辺が怪しいと察知した、神聖教会の裏の調査部隊――狂信的な『異端審問官』の精鋭部隊だった。


 だが、彼らは1ミリも理解していなかった。ここが、神殺しの神剣と百万の軍勢の主が眠る、絶対の地雷原だということを。


「……ふぁ。夜中にうるさいなぁ、誰だよ……」


『神の気配がする』


 ベッドからだるそうに起き出すアルト。その腰から、キィィィンと天之尾羽張アメノオハバリ様が自動で飛び出す。


「ひっ、刀が意思を――」


 閃光が一閃。抵抗の余地すらなく、異端審問官たちの首が次々と宙を舞った。


 さらに、シルフィが展開した隔離結界の内部で、リッチ配下の黒騎士デスナイトたちが残りをゴミ袋のように圧殺する。街の人間に爪の先ほども気づかれないまま、教会の最高戦力はわずか数十秒で『全員消息不明』となった。


 だが、この強襲によって、ついに教会本部は「あの街に、神に仇なす絶対的な『神敵しんてき』がいる」と完全に認識。世界全土へ向けてアルトの神敵認定を公布した。


 同時に、利権を潰された冒険者ギルドもアルトの存在を黒幕と断定し、生死を問わない最上位の指名手配《DEAD or ALIVE》を発令したのだった。


 ◇◇


「……というわけでマスター。私たちは国中の権力者から指名手配されちゃったよ」


 翌朝、ふかふかのベッドの横で、フェイが楽しそうに手配書を眺めていた。


「最悪だな。指名手配なんてされたら、役人や賞金稼ぎが湧いて、俺の自堕落な引きこもりライフが邪魔されるじゃないか。……よし、この街からは撤退だ。魔女の森の『辺境の村』へ戻るぞ」


 アルトは即座に街を捨てる決意をした。二度も過労死(?)した男だ、組織と正面から戦うなんて不毛な労働は真っ平ごめんだ。逃げて引きこもるのが一番賢い。


「ただ……一つだけ、どうしても気掛かりなことがあるんだ……」


 アルトはガタガタと震えながら、絶望的な表情でフェイを見つめた。


「マスター、何がそんなに嫌なの? 百万の軍勢がいれば、追っ手なんて全員ざまぁできるでしょ?」


「違う! そんなことじゃない! 俺が……俺が連日連夜通い詰めていた、あの最高級娼館しょうかんと離れるのが、死ぬほど辛いんだよォォォッ!!」


 命の危機よりも性欲の危機。


 究極の不純な絶望を叫ぶアルトに対し、フェイはあきれ果てたようにフッと笑った。


「あはは! 何言ってるのさマスター。あの娼館、私がクランや店の上がり金を使って、ずっと前に【経営権を丸ごと買収】して、うちの傘下に収めておいたよ?」


「……え?」


「だって、マスターが毎日他所の店でお金を使うの勿体ないでしょ? だから、娼館の女の子たちもスタッフも、全員我が社の『社員(社畜)』にしたの。もちろん、辺境の村への移転準備も100%完了してるよ!」


「フェイ……っ! お前、最高の人事部長だよッ!!」


 アルトは歓喜に震え、即座に全軍へ撤退の命令を下した。


 ◇◇


 次の日の朝、街の住人たちは、未曾有の大パニックに陥っていた。


 連日大行列を作っていた『冥界食堂』が、店舗の建物ごと、跡形もなく消え去って【更地】になっていたのだ。それどころか、アルトの家も、街で一番人気だった高級娼館も、すべてが一晩で綺麗さっぱり消滅していた。


「嘘だろ……エルナちゃんのステーキが、もう食えないのか……!?」


「そんな……これから何を楽しみに生きていけばいいんだ……っ!」


 街の人々が絶望に泣き崩れる中、更地の真ん中に、一振りの立て札がポツンと立っていた。


『――冥界食堂、および最高級娼館は、魔の森の【辺境の村】にて営業を再開します』


「辺境の村……! あそこに行けば、またあの極上の肉と、エルナちゃんの笑顔に会えるのか……っ!」


 住人たちはその立て札に、一筋の希望の光を見出していた。


 実は、激安の冥界食堂が営業している数日間のうちに、街の他の飲食店は価格破壊についていけず、すでに『粗方潰れて』いたのだ。飯を食う場所を失った街は、今や完全に崩壊のカウントダウンを迎えていた。


 ◇◇


 ――そんな街の崩壊など露知らず。


 ボア(バイク風)を走らせて魔の森の奥へと戻ってきたアルト、エルナ、フェイ、シルフィ、そしてスラムの子供たちの前に、異次元の光景が広がっていた。


「な……なになにこれぇぇぇっ!?」


 元・聖女のエルナが、その美しい顔を驚愕に引き攣らせて絶叫した。


 そこは、かつて焼き払われた静かな「辺境の村」などではなかった。


 何億年も生きた伝説の化け物・エンシェントリッチと百万の超古代アンデッド軍団が、アルトの「拠点を作れ」という命令を神格化し、不眠不休で魔改造を極めた結果――そこには、天を衝くほどの【漆黒の極大の居城】が爆誕していたのだ。


 さらに、城の周囲には広大な城壁が築かれ、その内部には完璧に整備された『城下街』が形成されていた。


 そして、その城下街の一等地には、街から丸ごと空間転移させてきた、あの『定食屋』、あの『最高級娼館』、そしてアルトの『小さな一軒家』が、寸分違わず配置されていたのである。


「おぉ……っ! お帰りなさいませ、我が偉大なる冥界神様! 貴方様に相応しき、神話級のニート要塞を構築いたしましたぞ!」


 リッチがガタガタと狂喜の骨を鳴らして出迎える。


「……リッチ、めちゃくちゃ立派な城だけどさ」


 アルトは、バイク風ボアの上から広大な城を見上げて、きっぱりと言い放った。


「俺、こんな広い城には1ミリも住む気ないから。起きて半畳、寝て一畳。俺はあそこの『小さな一軒家』に引きこもるわ。城の管理とか面倒な労働(残業)は、全部お前たちで丸投げしてやっといて」


「「はあ、……やはりそう来ましたか、我が主」」


 ロッドとセバスが呆れたようにため息を吐く。


「よし! それじゃあ、移動して疲れたし(レベル1だから)、今からさっそく、移転してきたばかりの最高級娼館へ、昼のシフト(客として遊ぶ時間)に行ってくるわ! お前たち、定食屋の営業再開の労働、24時間年中無休で頑張れよ!」


 アルトは魔改造ボアのアクセルを最大まで吹かし、新設された娼館の入り口へと直行していった。


 国家から指名手配され、神敵に認定されたレベル1固定の最弱ニート、アルト。


 自分は指一本動かさないまま、世界の歴史を裏から操る最強の不死帝国と、完璧な他力本願の娯楽街(ニートの楽園)を完成させ、彼は今度こそ本気で、自堕落な性生活の頂点へと突き進むのだった。


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