第26話 元聖女の看板娘化で定食屋が大爆発! 強奪兵を秒殺し、腐ったギルドを脱退して密輸ビジネスで爆儲けします
「――はいっ、お待たせいたしました! ブラック・グリズリーの特製ステーキ定食、ご飯大盛りです! 今日も一日、お仕事頑張ってくださいね!」
大繁盛を続ける定食屋『冥界食堂』のカウンター。
そこには、まばゆいばかりの笑顔を振りまきながら、キビキビと給仕を行う絶世の美少女――元・聖女のエルナの姿があった。
我が社の支給品であるフリルのついたエプロンドレスを完璧に着こなし、スラム出身の子供たちと一緒に汗を流す彼女は、かつて大聖堂の奥で「神の道具」として生気を失っていた時とは見違えるほど、生き生きとした輝きを放っている。
「うおおお……っ! エルナちゃんの笑顔、マジで『女神』の救いかよ……っ!」
「ステーキが美味いのは当然だけど、彼女に『頑張ってください』って言われるだけで、全身の傷も疲れも完全に治癒される気がするぜ!」
最高位の聖女が持つ生来の包容力と優しさは、ただカウンターでご飯を盛るだけで、荒くれ者の冒険者や街の住人たちを瞬時に骨抜きにしていった。
この「あまりにも美しすぎて優しい神聖ウェイトレス」の噂は一瞬で街中に広まり、店の行列は以前の倍以上――もはや隣の通りをいくつも跨ぐほどの、天文学的な超大爆発を記録することになったのだ。
「フハハ! 素晴らしい! 聖女のブランド力、マジでパねえな!」
そんな狂乱の行列を、店から少し離れた路地裏で、魔改造されたボア(バイク風)のふかふかシートに腰掛けながら眺めている俺――アルト。
今日も今日とて最高級娼館での自堕落な朝帰りの途中なのだが、自分の懐にザクザクと金貨が転がり込んでくる光景を見るのは、いつだって最高の気分だ。
だが――そんな至高の不働ライフを邪魔しようと、身の程知らずなゴミ虫どもが、ついに動き出した。
「そこまでだ、不届きな闇商人どもッ! この店は【魔王軍の残党】に資金を流している容疑がある! 領主様と商業ギルドの命により、本日を以て『営業停止』、およびこれまでの売上金と店舗資産をすべて『全財産没収』とするッ!」
行列を強引に割って入ってきたのは、街の領主の兵たちと、商業ギルドが雇った重武装の私兵たち、総勢数十人。
先代の地上げ屋が消息不明になった後、街の復旧費用に困窮した領主と商業ギルドの上層部が結託し、お決まりの難癖を引っ提げて強奪にやってきたのだ。
「ひ、ひぃっ!? 魔王軍の資金源だって!?」
「そんな、エルナちゃんたちの店が……っ!」
怯えるスラムの子供たちと、ざわつく客たち。だが、カウンターの奥のエルナは、少しも動じていなかった。なぜなら、この店の『本当のセキュリティ』を知っているからだ。
(……はぁ。朝っぱらから、本当に揃いも揃って、他人の利益を泥棒しようとするブラック上層部ばかりだな)
俺がボアの上でぼそっと、「シルフィ、黒騎士、安全運転で片付けろ」と念話を飛ばした、次の瞬間。
キィィィィィン――。
俺の肩の上で姿を消していた(インビジブル)シルフィが、一瞬で広大な【空間隔離結界】を展開した。
外の客たちには「領主の兵たちが急に回れ右をして、無言でどこかへ立ち去った」ようにしか見えない偽装魔法。だが、結界の内部では――影から這い出た漆黒の黒騎士たちが、無言で大剣を振り下ろしていた。
「ぎゃあああああっ!? な、なんだこのバケモノ騎士はっ!?」
「領主様、商業ギルド、助け――」
抵抗の余地など1ミリもなかった。
強奪にやってきた兵たちは、街の人間に爪の先ほども気づかれないまま、わずか十数秒で全員が首を撥ねられ、シルフィの闇の魔法の中に吸い込まれて消滅した。100%完璧な『隠密ざまぁ』の完了だ。
だが、この一件の直後、我が社の敏腕秘書であるフェイ(銀狐)が、深刻そうな顔で俺のボアの横へと並んだ。
「マスター、ちょっと耳の痛い話。……この街に潜入してる【神聖教会】の裏の調査部隊がさ、クソ勇者が消えた原因について、この定食屋が怪しいってことを薄々察知し始めたみたいだよ」
「あー、やっぱりそこまで頭が回るゴミもいるか。まぁ、証拠は全部闇の中に溶かしたから、物理的な証拠は何一つ出ないだろうけどな」
さらに、フェイは呆れたように肩をすくめて言葉を続ける。
「それだけじゃないよ。私たちが強奪して、今はロッドたちに経営を丸投げしてるクラン『鉄の牙』だけど……。周りの嫉妬深いDQN冒険者たちがさ、『あいつらだけ高難度依頼を独占して儲けやがって、ずるいぞ!』って、冒険者ギルドに猛抗議したんだって」
「で、その腐ったギルド上層部はなんて言ってきたんだ?」
「うちの莫大な利益をギルドの利権として横取りしたいらしくてね。クラン『鉄の牙』に対し、【街の冒険者の重要な収入源である『ダンジョン』への立ち入りを全面禁止にする】っていう、ハッキリ言ってただの嫌がらせの通達を出してきたよ。逆らうなら冒険者資格を剥奪するってさ」
ダンジョン立ち入り禁止。普通のクランなら、活動休止に追い込まれる致命的な死活問題だ。
だが、二度も過労死(?)して組織の理不尽なルールに縛られるのが反吐が出るほど嫌いな俺にとって、その通達はただの『お笑い草』でしかなかった。
「……ハッ。ダンジョンに入れない? 逆らうなら資格剥奪? ――じゃあさ、別に冒険者なんかやめちゃえばいいんじゃない?」
「「……え?」」
フェイ、そして念話で繋がっていたロッドとセバスが、同時に呆然とした声を漏らした。
「マスター、冒険者をやめるって……クランを解散するってこと?」
「違う。冒険者ギルドっていう、無能な中抜きブラック組織に所属するのをやめるだけだ。今すぐ『鉄の牙』のメンバー全員のギルドカードを叩き返して、ギルドを【脱退】しろ。これからは冒険者じゃなく、我が社の『直属の素材採取部門(社畜)』として、魔の森の素材を専属で狩らせるんだよ。ギルドに手数料を取られない分、そっちの方が利益率も高いだろ?」
『おぉ……っ! さすがは我が神、冥界神様! 既存の家畜どものルールなど、最初から踏み潰せば良いのですな!』
脳内でエンシェントリッチが狂喜の声を上げる。
「ロッド、セバス。脱退の手続き(丸投げ)は任せたぞ。あと、クランの連中が魔の森や超古代の遺跡から入手した貴重な素材や魔石は、すべてリッチの百万の軍勢を使って、この国以外の『他国』の商業ルートへ隠密裏に横流しして売り払え。この街の冒険者ギルドと商業ギルドには、爪の先ほどの利権も落としてやるな」
「「御意のままに、我が主。……ふふ、これでこの街のギルドは、最高ランクの素材供給源を完全に失って『詰み』ますな」」
骨の執事たちが、最高に邪悪な笑みを浮かべて念話を切った。
その日の午後、街一番のトップクラン『鉄の牙』が、何の前触れもなく冒険者ギルドに退職届(脱退届)を叩きつけ、組織ごと完全に消滅(独立)したというニュースが、ギルド上層部を激震させた。
最高難度の依頼をこなせる主力と、莫大な中抜き手数料(税金)の供給源を同時に失ったギルドの幹部どもは、自分たちが下した傲慢な処罰が、自らの首を絞める最悪のブーメランとなった事実に、顔面を真っ青にして途方に暮れることになる。
「フハハハ! 痛快だな! 組織のルールに縛られずに、他力本願で価格破壊と密輸ビジネスを回す……これぞ究極のニートライフだ!」
俺は魔改造一軒家のベッドに潜り込み、高級娼館の次のシフト(お気に入りの美女との逢瀬)に胸を躍らせながら、高らかに笑声を響かせた。
レベル1の最弱ニート、アルト。
教会、領主、冒険者ギルド。この街のすべての権力者どもが、俺の自堕落な性活を脅かした代償として、自らの組織がじわじわと内部から崩壊していく地獄の『連鎖ざまぁ』のカウントダウンは、もう誰にも止められなかった。




