第25話 勇者死亡を隠蔽する教会と定食屋強奪を企む領主! 逃げた聖女を給仕にして俺は今日も元気に娼館へ通います
「あり得ん……! 世界最強の『勇者』が、あのような辺境の商業都市で消息を絶つなど、絶対に何かの間違いだッ!」
神聖教会の本部、その奥深くに位置する大審問官の執務室。
大理石の床に、激しい怒声が響き渡った。
世界を救った絶対正義の象徴であり、教会の最大の利権そのものであるクソ勇者。彼がたった一人で聖女を追い、アルトたちのいる街へ向かったきり、跡形もなく消え失せたのだ。もちろん、シルフィの隔離結界の内部で、天之尾羽張様に一瞬で首を撥ねられ、闇の魔力で骨ごと消滅させられたからなのだが、教会側にそんな神速の瞬殺劇など知る由もない。
「直ちに精鋭の調査騎士団をあの街へ派遣せよ! 何が何でも勇者様を見つけ出すのだ!」
教会のトップたちは、自分たちの権力を維持するための最高の道具(勇者)を失った焦りから、狂ったように街への調査と圧力を開始した。
◇◇
「ふざけるな……ッ! あいつらは、正義を騙るただの強盗団か!」
一方、勇者にたった一人で街を強襲され、大通りや騎士団をめちゃくちゃに蹂躙された街の領主の館。
若い領主は、机が割れんばかりに拳を叩きつけ、悔し涙を流していた。
領主は当然、国家と教会に対して「勇者の暴挙によって我が街は壊滅的な被害を受けた! 直ちに賠償を請求する!」と、猛烈な抗議の書簡を送っていたのだ。
だが、教会本部から返ってきたのは、あまりにも身勝手で冷酷な『教会の暴論』だった。
『我が教会の偉大なる勇者様は、その街に潜伏していた悪質極まりない【魔王軍の残党】を討伐するために、単身で戦われていたのだ。街の破壊はその戦闘による不可抗力であり、むしろ魔王の脅威から街を守ってやった勇者様に、感謝の祈りを捧げるべきである』
「魔王軍の残党だと……!? あの時、勇者が叫んでいたのは『俺のおもちゃ(聖女)をどこへ隠した』という、ただの下劣な私怨ではないか……っ!」
どんなに事実を訴えようとも、巨大な権力を持つ教会の前には、辺境の領主の正論など1ミリも通じない。一歩も譲らない教会の圧力の前に、領主はただただ、悔しさに歯噛みしながら泣き寝入りするしかなかった。
しかし、問題はここからだった。
破壊された街の大通りや、全滅した騎士団の補填、建物の修復には、目眩がするほどの【莫大な復旧費用】が必要になる。泣き寝入りさせられた領主には、その資金がどこにもなかった。
「……領主様。街の復興資金の件ですが、実は今、商業ギルドの会長から『非常に素晴らしい提案』が届いております」
影から進み出た悪徳補佐官が、ニヤリと下品な笑みを浮かべる。
「提案だと? この財政難をどうする気だ」
「今、この街で異常なほどの大繁盛を見せ、連日大行列を作っている定食屋『冥界食堂』をご存知ですか? あそこは、最高級の魔獣肉を激安で提供し、毎日、天文学的な利益を上げております。……商業ギルドと手を組み、あの店に『不当な闇商人、魔王軍の資金源』という適当な難癖をつけて営業停止にし、その店舗、技術、そしてこれまでの莫大な売上金をすべて【街の復旧費用】として合法的に没収(強奪)するのです。そうすれば、我が領地は一瞬で潤いますよ」
「……なるほど。元はと言えば、どこの馬の骨とも知れぬ素人の店だ。街の危機の時に、それくらいの犠牲(労働)を払うのは当然だな」
教会の理不尽な暴力に泣き寝入りさせられたゴミ上層部(領主)は、そのストレスを、今度は自分たちより弱いと信じ込んでいる一般人の定食屋へとぶつけ、商業ギルドと結託して最悪の悪巧みを始めたのだった。
◇◇
――そんな腐った権力者どもの、身の程知らずな強奪計画など。
魔改造された一軒家(隠れ家)のベッドの上で、極上の超古代シルクに包まれている俺――アルトには、ハッキリ言ってどうでもいいことだった。
「ふぁ……。フェイ、今日の高級娼館の予約、ちゃんと一番高い『3Pの極上プラチナコース』で取ってあるだろうな?」
「はいはい、マスター。もう毎日毎日、よく飽きもせずに通うよね。お金なら、クランの上がりとうちの定食屋の利益で、一生遊んでも使い切れないくらいザクザク入ってきてるから、コンプラ違反にならない範囲で好きに遊んできなよ」
ホムンクルスの肉体を得て銀髪の絶世の美女となったフェイが、呆れたように紅茶を淹れてくれる。
そう、俺は今日も今日とて、他力本願で稼いだ金貨を湯水のように使い、お気に入りの最高級娼館へと自堕落に通い詰める準備をしていた。
二度も過労死(?)した俺だ、生きているうちに三大欲求(性欲)を100%満たし尽くすこと以外に興味はない。
「あ、アルト様、お出かけですか……?」
部屋の奥から、少し緊張した面持ちで進み出てきたのは、昨日超古代の医療技術で心身ともに完全復活した、元・聖女のエルナだった。
彼女は今、ボロボロだった教会の聖衣を脱ぎ捨て、我が社の支給品である『冥界食堂』の給仕用エプロンドレスに身を包んでいた。最高位の美しい聖女が、まさかただの激安定食屋のウェイトレスの格好をしているなど、教会が見たら卒倒するような光景だ。
「おう、エルナ。身体の方はもう完全に良いみたいだな」
「はい……! おかげさまで、教会の神聖治癒魔法でも癒えなかった魂の傷まで、このお屋敷の不思議な寝具と美味しいお食事で、すっかり元通りになりました。……ですがアルト様、私は今日から、このお屋敷で一体何をすれば良いのでしょうか? 私はもう、神に仕える聖女ではありません。ただの、行くあてのない罪人です……っ」
エルナは自嘲気味に俯き、その美しい指先をきゅっと握りしめた。
世界を救った勇者に陵辱され、全てを信じていた組織に裏切られた彼女の心には、まだ昏い陰りが残っている。
「何をすればいいかって? 決まってるだろ。お前は今日から、我が社の『最高財務責任者(経理)』兼、定食屋の『カウンター給仕係』だ。フェイ、こいつを店に連れて行って、スラムの子供たちと一緒に適当に働かせてやってくれ」
「え……? せ、聖女である私を、あの、一般人の皆さんが並ぶ定食屋で、働くのですか……!?」
エルナは驚愕に目を丸くした。聖女そといえば、大聖堂の奥で跪き、ただ祈りを捧げるだけの存在だ。民衆の前に立って、激安ステーキをトレイに盛って渡すなんていう泥臭い労働など、想像したこともなかったのだろう。
「当たり前だろ。我が社は三大欲求ゼロの骨以外は、全員が何かしらの役割を持つのが基本方針だ。お前は勇者から奪い取った何だか知らない鍵を持って、店で給仕をして、美味い飯を食って、第二の人生をのんびりスタートさせればいいんだよ。文句を言うガキはもう全員出禁にしたから、店の中は最高にクリーンで安全だしな」
「第二の、人生……。私が、ただの人間として、働いて、生きて、いい……?」
エルナの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。
教会というブラック組織で「神の道具」として、勇者のおもちゃとして搾取され続けていた彼女にとって、アルトの「適当に働いて、普通に暮らせ」という冷淡に見えて本質を突いた言葉は、何よりも救いだったのだ。
「……はい! はいっ、マスター! 私、一生懸命、カウンターでご飯を盛ります……っ!」
「おう、頑張れ。あ、お代わりの大盛りを要求してくる乱暴な奴がいたら、影にいる黒騎士に言って一瞬で裏路地へ『ざまぁ』してもらえよ。――よし、それじゃあ俺は、今日も元気に娼館の昼のシフト(客として遊ぶ時間)に行ってくるわ」
俺はバイク風に魔改造されたボアのふかふかシートに跨がり、最高に自堕落な欲望を満たすためにアクセルを吹かして一軒家を飛び出した。
レベル1固定の最弱ニート、アルト。
自分は指一本動かさず、美女(元・聖女)を新たな社畜として定食屋へ派遣し、自らは性生活の極みを突き進む。
そんな彼の知らないところで、街の領主と商業ギルドが、その定食屋を「合法的に強奪する」という、最悪の地雷を踏み抜こうとしていることなど――この時の俺は、まだ知る由もなかった。




