第22話 【朗報】ボロボロの聖女様を完治させて経理に採用! 襲撃してきた教会の精鋭部隊を秒殺してクソ勇者の全財産をむしり取ります
「……う、あ……っ」
魔改造された一軒家(引きこもりシェルター)の、空間拡張された最高級ベッドの上。
傷だらけの聖女――エルナは、信じられないほど滑らかな超古代シルクの感触に包まれながら、ゆっくりと目を覚ました。
彼女の脳裏に過るのは、毎夜のように繰り返されたあの地獄。世界を救ったはずの『勇者』による悍ましい暴力、そして彼を絶対正義として崇め、自分を性処理の道具として差し出した『教会』の裏切り。
絶望のあまり息が詰まり、恐怖で身体をガタガタと震わせながら飛び起きた彼女だったが――。
「な……に、ここ……っ!? 私、生きてる……?」
エルナは絶句し、自分の美しい生身の手を見つめた。
昨日まで全身を覆っていた、殴られたような青あざも、引きずられた生々しい擦り傷も、すべて跡形もなく消え去っている。それどころか、教会の最高級の神聖治癒魔法でも癒えなかった、あの激しい暴行による魂の摩耗すら、完全に元通りに回復していた。
「あ、目が覚めたみたいだね。はい、お水。超古代の魔学水だから、飲むと元気になるよ」
「え……あ、ありがとう、ございます……っ」
ベッドの脇から声をかけてきたのは、銀髪の絶世の美女――ホムンクルスの肉体を得たフェイだった。
エルナは差し出されたコップの水をゴクゴクと飲み干し、ようやく周囲の異常さに気づいて、その美しい顔を引き攣らせた。
「あの、ここはいったい……。外見はただの古びた小さな一軒家に見えたのに、中に入ったら、大聖堂の部屋よりも広いなんて……っ。それに、部屋を優しく満たしているこの神話級の魔導具の数々は一体なんなの……!?」
教会のトップとして世界中の最高級品を見てきた聖女だからこそ分かる。この部屋に施された空間拡張、自動給仕、そして完璧な隠蔽結界は、現代の魔法技術を遥かに超越した『超古代文明のオーパーツ』そのものだった。彼女は完全にパニックに陥り、目を白黒させている。
「ふぁ……。お、起きたか。セバス、お粥。超古代の自動調理で作らせたやつ、今すぐ持ってこい。こちとら腹が減って寝直せない」
「御意に、アルト様」
部屋の奥の高級ソファーにだらしなく寝そべったまま、あくびを噛み殺している一人の男。彼こそが、この規格外のシェルターの主であり、レベル1の最弱ニート、アルトだった。
「あ、あの……貴方様が、私を救ってくださったのですか? でも、どうして……。私のような、教会と勇者に追われる身を匿えば、貴方様まで破滅してしまいます……っ!」
エルナはベッドから降り、アルトの前で深く頭を垂れた。
だが、その瞬間、彼女の聖女としての『最高位の神聖探知』が、アルトの身体の奥底から滲み出る、おぞましい魔力の波長を捉えてしまった。
死を統べ、死者を冒涜する、絶対的な禁忌の力。
「っ!? し、死霊術師……っ!? 貴方、バレれば即死刑の、世界に仇なす悪魔の術師なの――」
エルナの顔が一瞬で恐怖に染まり、本能的に神聖魔力を練り上げようとした、その時。
キィィィィィン――。
アルトの腰にある神剣『天之尾羽張』が、鞘の中で恐ろしいほどの『神殺しの闘気』を放って鳴り響いた。
その一瞬の気配だけで、エルナが放とうとした神聖魔力は、まるで太陽に晒された雪のように、影も形もなく霧散して消滅した。世界そのものを圧殺しかねない絶対的な神の威圧感に、聖女は息をすることすら許されず、その場にへたり込んだ。
「……ひっ、神様を、殺す、刀……っ!? 神聖な魔力が、完全に無効化された……!?」
「あー、すまんすまん。尾羽張様、安全運転でお願いします。――まぁそういうわけだから、聖女の神聖魔法だろうがなんだろうが、俺の家では一切通じないから安心してくれ。死霊術師の天敵? 何それ美味しいの? って感じだからさ」
アルトはソファーの背もたれに体重を預け、冷淡な、しかしどこかフェイと同じ「裏切られた者」特有の昏い瞳で、エルナを見つめた。
「それよりエルナ、お前をハメたあのクソ勇者と教会の、最新の『汚い情報(ざまぁの材料)』を教えてくれ。我が社の利益を脅かすゴミ虫どもを、どうやって絶望のどん底に叩き落とすか、今から楽しい会議を始めるからな」
アルトの言葉に、エルナはポカンとした後、その瞳にドス黒い憎悪の炎を宿らせて、堰を切ったように語り始めた。
「……あいつらは、正義の皮を被った化け物です……っ! 勇者は、魔王を倒した名声を利用して、裏で教会の枢機卿たちと手を組み、逆らう貴族や村を『魔王軍の残党』と仕立て上げて一晩で虐殺し、その財産をすべて強奪して私腹を肥やしています! 私がその証拠の帳簿を見つけてしまったから……あいつは私を監禁し、毎夜のように乱暴して、心を壊そうとしたんです……っ!」
血を吐くような聖女の告発。
隣で聞いていたフェイが「やっぱりね。私の村を焼き払ったのも、私をハメたのも、全部その強奪の一環だったわけだ」と、怒りで骨の身体をキチキチと鳴らした。
「なるほど、組織の上層部が揃いも揃って、名声を隠れ蓑にした『ただの強盗団』だったってわけか」
アルトはニヤリと、最高に邪悪な笑みを浮かべた。
「いい情報をありがとう、エルナ。これなら、あいつらの全財産を合法(物理)的に強奪して、俺の一生分の娼館通いの軍資金(ニート資金)にしても、神様だって文句は言わないはずだ」
「――マスター、大変。さっそく『ネズミ』が街の入り口まで攻めてきたよ」
その時、肩の上で姿を消していた(インビジブル)シルフィが、楽しそうに報告してきた。
「勇者の手下だね。教会の息がかかった高ランク冒険者と、隠密部隊の混成チーム、総勢五十人。聖女を連れ戻すために、この街に強行突入してきた。……あいつら、見つけ次第、街の人たちを巻き込んででも聖女を力ずくで奪い返すつもりみたい」
「街の中で大騒ぎされて、俺の冥界食堂の営業や、高級娼館への夜のシフトが邪魔されたら溜まったもんじゃないな」
アルトはソファーからゆっくりと立ち上がり、魔改造ボアのハンドルを握り締めた。
「リッチ、シルフィ。――街の人たちに『1ミリも気づかれないよう』に、あのゴミ虫どもを完全隠密で『ざまぁ』して返り討ちにするぞ。我が社の技術を見せてやれ」
「尾羽張様。お願いします」
「「御意のままに、我が偉大なる冥界神様!!」」
「よかろう」
◇◇
その頃、街の北門近くの薄暗い大通り。
勇者の命令を受けた教会の精鋭隠密部隊は、不敵な笑みを浮かべて侵入を開始していた。
「フッ、聖女の魔力の残滓はこの先だな。見つけ次第、抵抗する街の住人ごと叩き潰して連れ戻す。勇者様のためだ、多少の犠牲は――」
「――そこまでにしなよ、ゴミ虫くんたち」
頭上から響いたのは、鈴を転がすような、冷酷なギャル風の声。
隠密部隊がハッと見上げた瞬間、夜空を埋め尽くしたのは、シルフィが展開した広大な【空間隔離結界】だった。
この結界の内部の音、光、衝撃、そして『死体』は、外の人間の世界からは一切関知できなくなる。完璧な隠蔽空間。
「な、なんだこの魔法は!? 敵襲――」
「規則違反。即刻、我が社の資産(死体)となれ」
影の中から突如として姿を現したのは、漆黒の鎧を纏ったリッチ配下の『黒騎士』たちの大軍。
一体一体がA級冒険者を凌駕するバケモノ騎士たちが、無言で大剣を振り下ろす。防音結界の内部で、勇者の手下たちの悲鳴と肉の裂ける音が、虚しく反響した。
「ひ、ひぃっ!? 助け――」
生き残った隊長格の男が恐怖で腰を抜かし、逃げ出そうとしたその瞬間。
キィィィィィン――。
一閃。アルトの腰から自動で飛び出した『天之尾羽張』の神速の刃が、男の首を綺麗に撥ね飛ばした。
五十人もの教会の精鋭部隊が、街の住人に爪の先ほども気づかれないまま、わずか数十秒で『全員消息不明(完全全滅)』となったのだ。
彼らの首と死体は、地面に落ちるよりも早く、シルフィの闇属性魔法の中に吸い込まれて消滅した。証拠隠滅も100%完璧。
「ふぅ、安全運転でのお掃除、完了だね、マスター!」
シルフィが手のひらサイズに戻って、アルトの肩の上で嬉しそうに羽をパタパタと動かす。
魔改造ボアのふかふかシートの上で、アルトは手に入れた教会の命令書(超古代文明の技術でフェイが隠密部隊の懐から一瞬で盗み出したもの)を眺めながら、最高に凶悪な笑みを浮かべた。
「完璧だ。……よし、エルナ。我が社へようこそ。お前は今日から、我が社の『最高財務責任者(経理)』だ。お前がくれたこの情報を使って、今からあのクソ勇者と教会の全財産を合法(物理)的にむしり取る、史上最大の『ざまぁ計画』を執行するぞ」
「……っ、はい……はい! よろしくお願いいたします、アルト様……っ!!」
傷を癒され、無敵の配下たちの蹂躙劇を目の当たりにした聖女エルナは、涙を流しながら、この「神様と勘違いされたレベル1の最弱ニート」の前に、生涯の忠誠を誓って跪くのだった。
裏切り者の騎士団長、そして世界の英雄たるクソ勇者。
彼らが、この世で最も怒らせてはならない「働きたくないブラック社長」の逆鱗に触れたことを、絶望と共に知るカウントダウンは、すでにゼロを迎えていた――。




