第23話 偽りの勇者が街を強襲!? 聖女を虐げるクソ野郎を神剣で一瞬で首チョンパして全財産を完全強奪します
「おい!! エルナはどこだ!? 私のおもちゃをどこへ隠したッ!?」
その日、連日連夜の大行列が続く定食屋『冥界食堂』のはるか遠く、街の北門の方角から、空間を極限まで引き裂くような狂気じみた怒号と、大地を揺るがす凄まじい大爆発音が連続して響き渡った。
魔改造された一軒家(引きこもりシェルター)のふかふか最高級ベッドから起き抜け、面倒くさそうに生あくびを噛み殺しながら、魔改造バイク風ボアのハンドルを握って様子を見にきた俺――アルトは、目の前で繰り広げられる惨状に深く眉を顰めた。
黄金に輝く絢爛豪華な伝説の鎧を纏い、神聖な魔力をこれみよがしに爆発させながら神聖大剣を振り回している一人の男。
かつて魔王を倒し、世界を救ったとされる、偽りの英雄――クソ勇者その人だった。
聖女エルナが我が社の隠密シェルターへ逃げ込み、消息不明になったことに激昂した彼は、周辺諸国や教会の体面も、街の法律も、一般市民の命すら完全に無視し、なんとたった一人でこの大都市を強襲し、見境なく暴れ回っていたのだ。
「おい、そこの薄汚い一般人ども! 私のエルナを見かけなかったか!? あの生意気な女め、この偉大なる勇者様から逃げ出せると思っているのか! あいつは私が犯して、殴って、心を壊して、一生教会の裏で私の性処理をするためだけに生かされている道具なんだよッ!」
大通りの真ん中で撒き散らされる、あまりにも自分勝手で、反吐が出るほどの悍ましい罵詈雑言。
大衆の前で見せる聖人君子の面影など、爪の先ほどもない。ただの傲慢で凶悪な犯罪者のツラそのものだった。
「知らない? 覚えていない? ハッ、使えないゴミクズどもが! 勇者である私の質問に答えられないなら、生きている価値などないわ!」
ドガァァァァァンッッ!!!
勇者が胸糞悪い嫌悪感を撒き散らしながら無造作に大剣を振るうたび、極太の黄金の斬撃が容赦なく大通りを破壊し、逃げ惑う街の住人たちを家屋ごと、鮮血と肉片ごと一瞬で消し飛ばしていく。
ただ歩いているだけで周囲の弱者を殺傷するその凄惨な姿は、魔王軍の残党よりも遥かに害悪で、おぞましい化け物そのものだった。
「ひ、ひぃぃっ! 勇者様が狂ったぞ!」
「逃げろ! 殺されるッッ! 街が滅ぼされるぞ!」
街の人たちは、かつて世界を救った自分たちの英雄だった男から、血相を変えて悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「無駄だ、無駄だ! この世界は強い者がすべてを支配する弱肉強食! 最上位の神に選ばれたこの私に、逆らえる者などいるわけがないだろうがァッ!」
街の危機に、武装した衛兵や騎士団たちが一斉に青ざめた顔で武器を構え、突撃した。
「勇者殿! 民を殺すのはおやめください! これ以上の暴挙は――」
「うるさいぞ、凡夫どもが! 私の邪魔をするな!」
ズバァァァァァンッッ!!!
一撃だった。
A級冒険者すら凌駕するはずの街の精鋭騎士たちが、勇者の放った極大魔法と圧倒的な武威の前に、抵抗の余地すらなく一瞬で肉片の山へと変えられ、残虐に蹂躙されていく。
圧倒的な力。これでもかと世界最強の暴力を誇示しながら、街を血と炎で染め上げていくクソ勇者。
だが――。
狂ったように咆哮を上げながら大通りを真っ直ぐ直進してきた勇者は、ついに、その『絶対の地雷原』の前へと到達した。
大行列が綺麗に散り、恐ろしいほど静まり返った定食屋『冥界食堂』の正面。
そこには、超古代魔学のホムンクルスの肉体を得て銀髪の絶世の美女となったフェイが、静かに腕を組んで、心底冷ややかな氷の瞳で勇者を見下ろしていた。
「あぁ? なんだその目は。おい、そこの銀髪のネエちゃん。お前、なかなか極上の身体をしてるじゃないか。エルナの代わりに、今夜から私のベッドで啼かせて――」
「相変わらず、反吐が出るほど下劣な男ね、クソ勇者」
フェイは表情一つ変えず、冷徹な低音でその言葉をバッサリと遮った。
「な、何だと……? この私に向かって、なんという口の利き方を――」
「お前、自分の圧倒的な力に酔いしれてるみたいだけどさ」
フェイはクスリと、まるで憐れな虫ケラを見るかのように、極上の冷酷な笑みを浮かべた。
「お前がこれまでハメて、足を切って、村ごと焼き払ったっていう過去の因果が、今ここで一列に並んでお前を待ってたんだよ」
「……あぁ!? わけのわからんことを――」
『神の気配を纏った者は我の敵だ!』
その時、天之尾羽張の厳かな意念が、勇者の頭の中に直接響き渡った。
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉ!」
我が社のクラン長(社畜)を倒した時と同じだ。
勇者が激昂し、すべてを塵に還すほどの最高峰の神聖大技を発現しようと、黄金の大剣を高く天に掲げた――その、わずか一瞬の直前だった。
キィィィィィン――。
世界から、完全にすべての光と音が消失した。
俺がバイク風ボアのシートの上でだらしなく腰掛けたまま、ただ刀の柄にそっと触れただけ。
主である俺の、そして我が社の『有能な経理(聖女エルナ)』やフェイへの明確な殺意を感知した神殺しの神剣『天之尾羽張』が、自動迎撃システム(安全運転)を、その神速の極限において発動させたのだ。
閃光が一瞬、夜空を白昼に変えるほどの鋭さで鮮やかに爆ぜる。
「え――」
それが、世界を救ったとされる最高峰の英雄が遺した、最後の言葉だった。
ポーン、と。
何が起きたのかすら理解できず、神聖な闘気を練り上げることすら許されなかったクソ勇者の首が、綺麗な放物線を描いて宙を舞った。
街の防衛戦力をすべて容赦なく蹂躙した圧倒的な化け物が、俺が指一本動かさないまま、ただの一刀のもとに、綺麗さっぱり首を撥ね飛ばされたのだ。
ドサリ、と力なく崩れ落ちる、黄金の鎧を纏った頭部のない惨めな肉体。
宙を舞った勇者の首は、地面に落ちるよりも早く、影から姿を現したシルフィの闇属性魔法の中へと容赦なく吸い込まれ、完全に消滅した。証拠隠滅も、格付けも、100%完璧。
「ふぅ……。やっぱり尾羽張様の安全運転は最高だね、マスター」
フェイが、転がった勇者の胴体を無造作に足蹴にしながら、楽しそうに微笑んだ。
「あー、お尻が痛くなる前に終わって良かったわ」
俺はバイク風ボアのハンドルをトントンと叩きながら、懐から『超古代文明の隠密技術でシルフィが一瞬で勇者の死体から盗み出した、最高級の財産権利書と秘密の金庫の鍵』を眺めて、ニヤリと最高に凶悪な笑みを浮かべた。
「完璧だ。これで勇者が溜め込んでいた世界の富は、すべて我が社の資産(ニート資金)だな」
レベル1固定の最弱ニート、アルト。
死霊の力を完全に隠匿したまま、世界を救った英雄をただの一瞬で『ざまぁ』して完全抹殺。
面倒な死体処理は全て闇に丸投げし、溢れんばかりの神話級の軍資金を手に入れた彼は、最高級の娼館へと向かってバイク風ボアのアクセルを最大まで吹かすのだった。




