第18話 スイートルームより快適な畳一畳! クラン運営を不死者に丸投げし、超古代の技術で最高峰の引きこもり拠点を作ります
「あぁ……これぞ男の、いや、転生ニートの至高の特権だな」
街一番の大手クラン『鉄の牙』を実質的に強奪して数日。
俺はクランの莫大な上がり金を懐に収め、この街で一番高い高級ホテルのスイートルームに滞在しながら、念願だった『娼館(大人の店)』へと連日連夜通い詰めていた。
前世で六十年、今世で二十五年の計八十五年分拗らせた性欲が、湯水のように溢れる金貨によって完全に解放される。他力本願で稼いだ金で買う大人の快楽は、脳が蕩けるほどに最高だった。
昼過ぎにだらしなく目を覚まし、ふかふかのベッドの上で美女を侍らせながらのんびりと過ごす。
これぞ俺が夢にまで見た悠々自適なセカンドライフ――そう悦に浸っていた時、部屋の隅の影から、姿を消していた(インビジブル)ロッドの念話が頭の中に響いた。
『アルト様。ご自堕落な性活の最中、大変恐縮ですが……少々、クランの経営方針についてご相談がございます』
「あん? 面倒な仕事は全部お前たちに丸投げしたはずだぞ、ロッド」
『はい。経営自体は我らで完璧に回しておりますが、ハッキリ言って【現場の労働力】が壊滅状態にあります』
ロッドの報告によると、先日俺たちがクランを襲撃した際、主力だったA級およびB級の冒険者たちが、シルフィの魔法と天之尾羽張様の自動迎撃によって、多数死亡、重傷、あるいは恐怖で再起不能になっていた。
その結果、高難度の依頼をこなせる者がいなくなり、クランの収益が急激に右肩下がりになっているという。
(……待てよ。収益が落ちるってことは、俺の娼館通いの軍資金(ニート資金)が減るってことじゃないか! それは死活問題だぞ!)
自分の労働は拒否するが、金の供給が止まるのは絶対に許せない。俺は寝そべったまま、即座に他力本願な解決策をひらめいた。
「だったら、リッチの百万の軍勢から『黒騎士』を数体、あとシルフィの部下の『ダークフェアリー』を数体、現場に派遣しろ」
『ほう? 不死者を冒険者として登録させるのですか? 死霊術師の露見リスクが上がりますが……』
「違う。あいつらは冒険者登録なんかしない。クランの残った人間冒険者にパーティを組ませて、その『ただの無口な護衛役(補助)』として同行させるんだ。シルフィの部下には姿を消させて(インビジブル)、影から魔法でサポートさせろ」
登録手続きという不毛な労働を省き、かつ死霊術師の正体も隠蔽する完璧なアウトソーシングだ。
この「不死者による業務補助」が開始されるや否や、クランの人間冒険者たちは絶対に失敗しない無敵のパーティと化し、高難度依頼を爆速で達成。クランの収益は、以前の『鉄の牙』の全盛期を遥かに超える規模へと爆発的に拡大していった。
金の問題は片付いた。だが、数日後、俺はまた別のストレスに頭を抱えていた。
「……くそ、やっぱりこのホテルの飯も部屋も、ハッキリ言ってゴミだな」
人間社会の「最高級」に滞在して分かったのだが、魔女の館で超古代文明の最高級寝具や自動調理システムを知ってしまった俺の身体は、完全に贅沢病に侵されていた。
ホテルの高級料理は超古代の味に遠く及ばず、ベッドも超古代シルクに比べればゴワゴワして落ち着かない。何より、従業員に囲まれる生活は引きこもりニートにとって苦痛でしかなかった。
「マスター、不満があるなら自分で場所(拠点)を作っちゃえばいいじゃん。お金は死ぬほどあるんだし」
ホムンクルスの肉体で銀髪の美女となったフェイが、隣で果物を齧りながら笑う。
「それだ。……フェイ、今すぐこの街の隅に、小さな『一軒家』を一つ買ってくれ」
「え? 小さな一軒家? マスターほどの金持ちなら、もっと大きな大豪邸とか、貴族の別邸でも買えるよ?」
肩の上でふわふわ浮いているシルフィも不思議そうに尋ねてくる。だが、俺はきっぱりと首を振った。
「大きな家なんて絶対に不要だ。前世の日本の諺に『起きて半畳、寝て一畳』という言葉があってな。人間、どれだけ出世して富を築いたところで、自堕落に寝起きするのに必要なスペースなんて畳一畳分あれば十分なんだよ。広い家は掃除も移動も面倒(労働)だしな」
徹底されたニートのミニマリズム精神。
俺はクランの莫大な利益を使って、街の片隅に目立たない、しかし頑丈な平屋の一軒家を買い取った。
そして、辺境の村にいるリッチと超古代文明の工作アンデッドたちを密かに召喚。その小さな家の中身を、外見からは想像もつかないほど『超古代魔導科学』で徹底的に魔改造させた。
外見はただのボロい一軒家。
だが一歩中に入れば、空間拡張魔法によって広々とした快適な空間が広がり、超古代のふかふか寝具、自動給仕システム、そして完璧な隠蔽・防衛結界が二十四時間不眠不休で稼働する、究極の「引きこもりシェルター」が爆誕したのだ。
「フハハハ! 最高だ! 昼は魔改造された一軒家で超古代の飯を食って昼寝し、夜はクランが勝手に稼いだ金で高級娼館へ直行する……! 完璧な不働ライフの完成だな!」
レベル1の最弱ニート、アルト。
組織のブラック労働(クラン経営)は全て骨に丸投げし、自らは畳一畳の快適な魔改造拠点を根城に、街の裏側で絶対的な支配者として自堕落の極みを突き進むのだった。




