第17話 『街中で刃物を出したお前らは盗賊だな?』――法律を盾に大手クランの全財産を完全強奪し、経営は社畜に丸投げします
「ぎゃああああああっ!? なんだこの魔法はッ!?」
「ひっ、刃物が、刀が見え――ぐああああっ!?」
『鉄の牙』のクランハウス前は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
ここで大掛かりな死霊術を使い、街中に自分が『死霊術師』だとバレるわけにはいかない。だから俺は、魔改造ボアのバイク風シートにどっかと深々と腰掛けたまま、ただ悠々と高見の見物を決め込んでいるだけだ。
なのに、我が社の誇るチート身内どもが、勝手に目の前のゴミ群集を物理的に蹂躙していく。
風の妖精王女シルフィが、小さな指先から死霊の気配を完璧に隠した『純粋な暴風魔法』を連発し、数十人の冒険者を一瞬で豪快に壁へと叩きつける。ボキボキと骨の折れる不快な音が響き渡り、門前の石畳が悲鳴を上げた。
さらに、俺の腰から自動迎撃(安全運転)で飛び出した神剣『天之尾羽張』様が、目にも留まらぬ神速の青白い一閃で、敵の首を容赦なくまとめて斬り落としていく。
「そこまでにしろ、不届き者どもがッ!!」
建物が大きく揺れ、内側から凄まじい圧迫感と共に一人の大柄な男が姿を現した。
燦然と輝く豪華な魔法銀の鎧を身に纏い、身の丈ほどもある重厚な大剣を肩に担いだ男――この街一番の実力者であり、『鉄の牙』のクラン長を務めるA級冒険者だ。
「お、おおっ! クラン長だ!」
「やった、街一番の英雄のお出ましだぞ!」
「おい見ろよ、あのクラン長様の威風堂々とした姿を!」
「あのガキと女ども、もう終わりだ!」
さっきまで地面に無惨に叩きつけられ、血を吐いて這い回っていたクランメンバーたちが、水戸黄門の印籠でも見せつけられたかのように一斉に息を吹き返した。醜い顔を歪め、まるで自分たちが強くなったかのように虎の威を借りて悪口雑言を喚き散らし始める。
「てめぇら、クラン長が来たからにはもう生きて帰れると思うなよ!」
「そこの銀髪の絶世の美女は、俺たちが今夜じっくりと回し熟して美味しくいただくからな!」
「その生意気なガキは生かしたまま四肢を削いで、路地裏に投げ捨ててやれ!」
下品極まりない下ネタと怒号が飛び交う。クラン長は自身の圧倒的な力を信じて疑わず、残忍で不敵な笑みを浮かべながら、その巨大な大剣を俺へと突きつけてきた。
レベル1の俺をただの無力な一般人と見做し、完全に虫ケラとして舐めきった視線だ。
「おい、小僧。我がクランの優秀な仲間たちをよくもここまで散々にしてくれたな。だがまあ、安心しろ。俺は慈悲深い。大人しくその腰にある極上の刀と、後ろに侍らせている二人の極上女を俺たちの慰み者として差し出すなら、お前ひとりの命だけは助けて――」
「はぁ……。やっぱり、組織のトップってのは揃いも揃って頭が痛くなるほど話が通じないな」
俺は魔改造ボアのハンドルをトントンと指先で叩きながら、呆れ果てた冷徹な声でクラン長の言葉を容赦なく遮った。
「一般人が持ち込んだ貴重な素材や装備を裏路地で脅し取ろうとし、抵抗できない女性を力ずくで攫って慰み者にしようとする。……お前たちのやっていることは、誇りある冒険者などではなく、ただの粗暴な『強盗団』だ。そして――強盗がその武器を人に向けた以上、当然、自分たちが殺される覚悟はできていると判断するが、何か異論はあるか?」
「……ハッ! 強さこそがすべてのこの世界で、その程度の低レベルなガキが、偉そうに説教を垂れるなぁぁッ!!」
クラン長が激怒し、大剣に凄まじい黄金の闘気を爆発的に宿らせた。A級冒険者の放つ最高峰の必殺技が、空間を揺らしながら今まさに発現しようとした――その直前だった。
キィィィィィン――。
空間を切り裂く、乾いた高音。
神殺しの神剣『天之尾羽張』様が、一切の予備動作なく、空間ごと彼の黄金の闘気を一直線に切り裂いた。
クラン長の大技が発動すらできずに不発に終わると同時に、
ポーン、と。
彼の頭部が、血のしぶきと共に綺麗な放物線を描いて宙を舞った。
街一番の英雄と称され、無敗を誇っていたA級冒険者が、技を放つことすら一切許されず、文字通り一瞬で首を撥ねられたのだ。
「え――」
叫び声を上げていたクランメンバーたちの時間が、完全に凍りつく。
宙を舞うクラン長の首と胴体は、地面に激突するよりも早く、シルフィが展開した漆黒の闇(ダーク・フェアリーの吸入魔法)の中へと容赦なく吸い込まれ、煙のように消滅した。血の一滴すら残さない証拠隠滅も完璧だ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!? く、クラン長が一撃で首を落とされたあぁぁっ!?」
「あ、あり得ねぇ! 化け物だ! 逃げろ、留まったら全員殺されるッッ!!」
さっきまで虎の威を借りて「女を回せ」「四肢を削げ」と品性下劣に威張っていた荒くれ者たちが、一瞬で顔面を土色に染め上げた。
股間から漏らした尿の匂いを撒き散らしながら、脱兎のごとくクランハウスの奥へ、あるいは路地裏へと我先にと逃げ惑い始める。街一番のトップクランが、わずか数分で完全に崩壊した。
「ま、待ちたまえ! 我々は全面降伏する! どうか、どうか命だけは助けてくれぇぇっ!」
建物の影から、膝をガタガタと震わせ、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにした男が飛び出してきた。このクランの副長だ。
彼は血と尿の混ざった地面に全力で五体投地し、泥に額を擦り付けながら、震える手でクランの全財産が詰まった重厚な金庫の鍵を差し出してきた。
「これにて、この『鉄の牙』の建物、および保管されている全資産、裏の利権はすべて貴方様のものだ! 好きにしてくれ! だから死にたくない、殺さないでくれぇっ!」
「よし、我が社の買収(強奪)完了だな」
俺はふかふかのボアシートの上で、満足げに大きく頷いた。
街一番の大手クランの資産が、丸ごと俺の手の中に転がり込んできたのだ。これで一生、豪華な娼館に通い放題、至高の全自動ニート生活が約束された。
だが……。
「アルト様。クランを買収したとなれば、今後のギルドとの面倒な交渉、所属する数十人の冒険者の管理、および日々のクエスト運営など、膨大な『クラン経営業務』が発生いたしますが?」
どこからともなく、姿を消した(インビジブル)執事ロッドの念話が、俺の脳内に冷や水のように突き刺さってきた。
(……待てよ。クランのオーナーになるってことは、これから毎日、クラン運営っていうクソ面倒なブラックタスクを、俺が社長として『働かされる』ってことじゃねえか!)
二度も過労死(?)した俺だ。手に入った利権の裏に潜む、過酷な無制限労働(無限残業)の罠を見抜けないはずがなかった。
「冗談じゃねえ。俺は1ミリも働きたくないんだ。そんな面倒な社畜仕事、誰が引き受けるかよ」
俺は懐から、魔女の館に待機させているはずのセバスとロッドの魔力媒体(呼び出し符)を取り出した。
「ロッド、セバス。このクランはお前たちに丸投げする。生前の内政チート能力をフル活用して、24時間年中無休、不眠不休でこのクランを完璧に経営しろ。俺は金だけ毟り取って、今から娼館(大人の店)に行くからな」
「「はあ、……やはりそう来ましたか、我が主」」
ロッドとセバスの呆れたような念話が響くが、彼ら優秀な社畜がいれば運営は100%安泰だ。
レベル1の最弱ニート、アルト。
死霊の力を一切表に出さないまま、街一番の大手クランを完全買収。面倒な経営はすべて骨の配下に丸投げし、溢れんばかりの軍資金(ニート資金)を懐に忍ばせて、彼はついに念願の「大人の階段」へ向かってバイク風ボアのアクセルを豪快に吹かすのだった。




