第16話 「盗賊の財産は討伐者の物だよな?」街一番の大手クラン、不純すぎる欲望の前に全財産没収(詰み)が確定しました
「それじゃあ、まずは道案内を雇うとしようか」
血の匂いと、腐敗臭。首が転がり、肉片がそこら中に散らばる路地裏で、俺は魔改造したボアのバイク風シートに深く腰を下ろしたまま、小さく溜息をついた。
足元には、股間を黄色く濡らし、白目を剥いて泡を吹いている生き残りのDQN冒険者が1人。そしてその周囲には、数秒前まで下品な笑みを浮かべていた仲間たちの『新鮮な死体』が転がっている。
レベル1固定の最弱ニートたる俺が、わざわざ自分の足を使って地図を広げたり、人に聞き回ったりするような不毛な労働をするはずがない。
「ひぃ、ひぃぃぃっ……! た、助けて……命だけは……っ!」
俺と目が合った生き残りの男が、ズリズリと血の海を後退りしながら必死に地擦りの土下座を決めた。
「お前、命が惜しいなら正確に答えろ。お前のクランは金を持ってるのか」
「こ、この街で一番大きいクランです。A級冒険者が何人もいて、街の商業の利権も裏の金も全部牛耳ってます!か、金ならあります!」
「よし、お前のクランに本拠地に案内しろ。目立たない道を選べよ」
「あ、案内します! だから命だけはぁぁっ!」
「よし、交渉成立だな。命は取らん。だが、逃げたり嘘をついたら……分かるな?」
「は、はいぃぃっ! 絶対に逃げません! 裏道を使って一番速く本部まで案内しますっ!」
命乞いをする男を立たせ、俺たちの前に歩かせる。
前世のブラック企業でもそうだった。使えない平社員ほど、いざという時の保身と逃げ足だけは速い。この男も典型的なそれだ。自分の命を守るために、あっさりと自分の所属するクランを売り渡し、仲間だったはずの死体を踏み越えて必死に先導し始めた。
「あはは! マスター、またそんな薄汚いゴミを案内役に使うなんてさ。……ねぇ、リッチ軍団を呼んで街ごと潰さなくて本当に大丈夫?」
銀髪を揺らし、無邪気に首を傾げるのはホムンクルスの美女、フェイだ。
「わざわざそんな大袈裟なことをしてどうする。今回はあくまで、大人の店に通うための『小遣い稼ぎ』だ」
俺は肩をすくめる。
「街を丸ごと占領したら、その後の戦後処理だとか書類仕事で忙しくなるだろ? 俺はニートだぞ? 働くのは死んでも御免だ。……今回はピンポイントで、あのゴミクズ共の金庫だけをぶんどる。それだけで十分だ」
「キャハハ! 隠密強襲、いい響きだねぇ!」
俺の肩の上で手のひらサイズに戻ったシルフィが、脳天気に笑い声を上げる。
腰に佩いた神剣――天之尾羽張様も、脳内で鼻を鳴らした。
『小僧、百万の骨くずを動かすまでもあるまい。神を殺した我が一振り、あの程度の羽虫の巣など、一瞬で塵に還してくれようぞ』
「頼もしいですね、尾羽張様。でも今回は建物を破壊しすぎないでくださいよ。金目のものが粉々になったら泣くに泣けないので。あくまで『安全運転』で頼みます」
怯えきったDQN冒険者の案内で、俺たちは人目のない路地裏を縫うように進む。
魔改造ボアのふかふかシートに身を預け、快適な乗り心地を堪能しているうちに、急に視界が開けた。
そこに鎮座していたのは、街の景観を完全に無視してそびえ立つ、巨大で極めて不快なほど豪華な石造りの大屋敷。
『鉄の牙』。それがこの街の寄生虫共の本拠地だ。
門の周辺には、見るからに柄の悪い重武装の冒険者たちが十数人、酒を煽りながらたむろしていた。通りかかる一般市民や貧しい行商人を汚い言葉で威嚇し、通行料と称して暴利を貪っているのが一目で分かる。
「へへっ、今日もカモが引っかかりやがったな」
「あの女、上玉じゃねえか。オークションに流せば金貨百枚は下らねえぞ」
などと、ゲスな会話で下品に盛り上がっていた。
「ひ、ヒヒィッ……! 到着しました! ここが『鉄の牙』の本部です! 約束通り案内しました、助け――」
案内役のDQNがホッとした表情を浮かべた瞬間。
門番の荒くれ者たちが、俺たちの姿と、その後ろにいる案内役の男に気づいた。
「おい、ありゃあ『鉄の牙』の下っ端のジャックじゃねえか? なんだそのザマは! 泥と血まみれになりやがって!」
「おいおい、ジャック! その後ろの銀髪の超絶美女と、異国の坊っちゃんはなんだ? お前、俺たちに極上の獲物を献上しにきたのか? 良い心がけじゃねえか!」
門番のリーダー格である巨漢の男が、下品な唾を飛ばしながら下衆なニヤニヤ顔で近づいてくる。その眼光は、俺の腰の天之尾羽張様と、フェイの豊かな胸元へ舐め回すように注がれていた。
「へへっ、いい刀持ってじゃねえか。その刀と女、それから乗ってるそのカッコいいバイク風の魔導騎獣、全部ここに置いていきな! そうすれば命だけは助けてやらんでもねえぞ!」
「おいおい隊長、あの女は俺たちで一通り遊んでから売ろうぜ! ガハハハハ!」
他の冒険者たちも武器を手に取り、品性の欠片もない品性下劣な下ネタを撒き散らしながら俺たちを包囲し始める。
案内役の男は「ひぃっ、俺は関係ない! 巻き込まないでくれ!」と絶叫しながら脱兎のごとく逃げ出そうとしたが、俺は冷ややかな目でそれを一瞥した。
「おい、門番ども。お前ら、街中でいきなり刃物を出して強奪しようとしたコイツらは盗賊とみなす。盗賊の物は討伐した者に所有権があるんだよな?」
「……あァ? 何寝ぼけたこと言ってやがるんだ、このガキは! 俺たちがこの街のルールなんだよ! 盗賊だろうが一般人だろうが、俺たち『鉄の牙』に刃向かう奴は全員ぶち殺して奪い取る! それが冒険者界の常識だろーが!」
巨漢のリーダーが、威圧するように大剣を地面にドスンと叩きつけた。
「そうか。お前ら自身が『自分たちは盗賊だ』と認めたわけだ。なら、話が早くて助かる」
俺は魔改造ボアの上で、本日一番の冷酷で邪悪なスマイルを浮かべた。
「法的に盗賊とみなされるから、お前たちが溜め込んだ裏金も、金庫の財宝も、全部俺が『討伐報酬』として合法的に全額強奪できるってわけだ」
「はぁ!? てめぇ、マジで頭が狂って――」
「フェイ、シルフィ、尾羽張様」
俺の静かな声が、大通りの喧騒を突っ切った。
「街中でいきなり刃物を出して強奪しようとしたコイツらは盗賊とみなす。盗賊の物は討伐した者に所有権があるんだよな? ――だから、遠慮なく全員殺して、中の財産を全部ぶんどるぞ」
「「「御意!!」」」
「なっ、なんだと――!?」
レベル1の最弱ニート、アルト。
死霊の力を完全に隠匿したまま、娼館の最高級コースへ通うため、街一番の大手クランをたった4人で叩き潰す――理不尽な蹂躙劇の幕が、今上がる。




