第15話 ボアを漆黒の重装バイク風に魔改造! 堂々と街へ乗り込み、邪魔な大手クランへお礼参り(強奪)に向かいます
「大人の店へ行くぞ!」と豪語したものの、現実はそう甘くなかった。
何しろ、二度も過労死(?)した俺の手元には、異世界の通貨が1枚もないのだ。
「待てよ……。俺、今一文無しじゃねえか。いくら最先端の全自動ニート要塞を完成させたところで、現金がなきゃ最高峰の娼館(大人の店)で遊ぶことすらできねえ!」
豪華絢爛な館の広間に、俺の情けない絶叫が虚しくこだました。
「はぁ……。あんなに格好良く宣言したのに、結局はそこですか、アルト様」
内政特化執事のロッドが、呆れたようにカチカチと顎を鳴らす。
「三大欲求を舐めるなとあれほど言ったろう、ロッド! 男にとって、これは生きるか死ぬかの死活問題なんだ。前前世は60歳までブラック企業で働かされて童貞のまま過労死、前世は処刑台で首を跳ね飛ばされて過労死だぞ!? 3度目の人生くらい、欲望の限りを尽くさなきゃ死んでも死にきれねえ!」
「マスターのそのブレない煩悩、逆に清々しいよ。まぁ、私もクソ勇者や裏切り者どもに復讐するための情報収集がしたいし、街に行くのは賛成だけどさ」
呆れ顔で頷いたのは、ホムンクルスの生体肉体を得て、銀髪の絶世の美女へと受肉した『銀狐』のフェイだ。
生前のしなやかな肉体を取り戻した彼女は、皮肉めいた笑みを浮かべつつも、その胸中には燃え盛る復讐心を秘めている。彼女の復讐のついでに、俺の性欲が満たされる。まさに完璧なギブアンドテイクだ。
「よし、出撃だ! だが……街へ行くとなると、移動手段をどうするかだな」
俺が視線を向けたのは、魔改造された『ボアスケルトン』だった。以前、超古代の技術で背中にバイク風のバックレスト付きレザーシートとアメリカンハンドルを装着させたのだが、如何せん全身が剥き出しの骨である。
ボアは「ギクッ」と身体をこわばらせ、こちらに媚びるような目を向けた。
「流石にむき出しの巨大な骨の魔物に乗って街に入ったら、一発で死霊術師だってバレて大騒ぎになるよねぇ」
フェイの指摘に、俺はうーんと腕を組んだ。すると、手持ち無沙汰そうに控えていた超古代の工作アンデッドたちが、カタカタと機敏に動き始めた。
「お任せください、冥界神様。超古代の魔学装甲を施せば、如何様な外見にも偽装可能でございます」
エンシェントリッチが杖を鳴らすと、工作アンデッドたちがボアスケルトンに群がり、漆黒の重厚な金属鎧をテキパキと装着させ始めた。
鋭いスパイク、洗練された流線型の装甲、そして頭部を覆う凶悪なバイザー。まるで漆黒の最新型重装バイク、あるいは神話に登場する暗黒騎士の騎獣そのものの格好良さだ。
「おおおっ!? カッコいい! これなら『魔導技術で装甲を固めた特殊な騎獣』って言い張れるな!」
俺が絶賛すると、漆黒の魔導装甲を纏ったボアは、誇らしげに「フシューッ!」と荒い鼻息を吹き出した。
重厚な装甲で覆われた巨躯の胸をグッと張り、まるで高級外車にでもなったかのようなドヤ顔(バイザー越し)で、これでもかとばかりに満足そうなポーズを決めてみせる。
「ふふん、人間の街には魔導技術で作った機械騎獣や、鎧を着せた特殊な魔獣に乗ってる冒険者もたくさんいるからね。これなら全然違和感ないよ!」
本来のサイズである手のひらサイズに縮小し、姿を隠す魔法で俺の肩の上にふわふわと浮いている風の妖精王女・シルフィが、楽しそうに鈴を転がすような声を響かせた。
こうして俺たちは、カッコいい漆黒の重装ボアに跨がり、人間の住む商業都市へと向かった。シートの座り心地は相変わらず極上だが、財布の中身は未だゼロである。
やがて視界に飛び込んできたのは、高い石壁に囲まれた巨大な商業都市『グラド』の城門だった。
門番の兵士たちが鋭い目を光らせ、入り口で厳重な検問を行っている。だが、そこは流石、元・伝説の義賊である。フェイが旅の商人を装い、持ち前の美貌と洗練された話術、そして魔女の館で見つけた古い高級な身分証をそれっぽく提示した。
「あら、警備ご苦労様。こちらの旦那様は異国の貴族様でしてよ? 特殊な魔導騎獣の持ち込み許可書もこちらにございますわ」
「こ、これは失礼いたしました! どうぞ、お通りください!」
完璧な演技とフェイの色香に毒された兵士たちは、怪しむどころか鼻下を伸ばしてあっさりと門をくぐらせてくれた。
「ふぅ、交渉は見事だったが……問題は金だな。このままだと大人の店どころか、宿にすら泊まれないぞ」
「じゃあギルドで何か売るしかないね。マスター、森で狩ったアレ、出すの?」
「ああ。自分で働く(クエストに行く)のは絶対に嫌だからな。素材を売って一攫千金と行こう」
俺たちは、荒くれ者たちがひしめく『冒険者ギルド』へと足を運んだ。
一歩中に入ると、安酒と汗、そして血の臭いが鼻をつく。レベル1の俺は、極力周囲の強そうな冒険者たちと目を合わせないように死んだ目(前世の社畜の目)をしながら、買取受付の窓口へと進んだ。
チッと、周囲に聞こえないほどのあからさまな不快感を込めた舌打ちが、受付の向こう側から漏れた。
爪の手入れをしていた手を渋々止め、厚化粧の受付嬢は濁った瞳でこちらを一瞥する。その視線には、いかにも「ゴミが来た」と言わんばかりの侮蔑が混ざっていた。
「……はぁ。そこのお兄さん、素材の買取? 見ての通り忙しいんだけど。ほら、さっさとギルドカード出しなさいよ。ランクの低い素材なら、まとめて銅貨数枚ね」
「いや、冒険者登録はしていない。ただの一般人としての素材の持ち込みだ。登録すると働く義務とか面倒な規約があるだろ」
「はぁ? 登録もしてない一般人が、こんな危険な森の近くでまともな素材なんて拾えるわけ――」
受付嬢の嫌味な言葉が途切れた。
俺が、マジックバッグ(超古代文明製)から、ドン、と重厚な音を立ててカウンターに提示したものを見たからだ。
それは、Aランク冒険者パーティが全滅しかねない森の暴君――『ブラック・グリズリー(黒魔熊)』の、天之尾羽張様によって一刀両断された、極上の毛皮と輝く巨大な魔石だった。
「なっ……これ、黒魔熊の……!? しかも、傷が首の一太刀だけなんて、有り得ないわ! これ、どこで盗んできたのよ!?」
「盗んだ? 人聞きが悪いな。俺の配下が普通に一瞬で狩ったんだが」
「嘘おっしゃい! 登録もしてない素人がこんなもの狩れるわけないでしょ! どうせどっかの高ランクパーティの獲物を横取りしたに決まってるわ。横領および窃盗の疑いがある以上、色々と調べさせてもらうから、その素材は一度没収ね。文句があるなら衛兵を呼ぶわよ!」
受付嬢は、あからさまに難癖をつけて素材を無償で没収し、身内や懇意にしている高ランク冒険者に流そうという、腐りきった目をしていた。
「……はぁ。やっぱり、どこに行っても組織の上層部や窓口ってのはゴミばかりだな」
前世のブラック企業で、手柄をすべて上司に横取りされた理不尽な記憶がフラッシュバックし、俺の胸の中に冷たい怒りが芽生えた。
「おい、売るのやめだ。素材を返せ。別の店(商業ギルド)に持っていく」
「ちょっと、勝手に持っていかないでよ! 没収だって言ってるでしょ――!」
キーキーと騒ぐ負け犬の声を無視し、俺は素材をバッグに回収すると、さっさとギルドの建物を後にした。働くのも嫌いだが、努力もせず他人の利益を貪る寄生虫に搾取されるのはもっと嫌いだ。
だが、あの超弩級の素材と、俺の腰にある見るからに国宝級の神剣『天之尾羽張』、そして隣にいる銀髪の超絶美女フェイの姿を、ギルド内にいた品性の欠片もないDQN冒険者たちが見逃すはずがなかった。
「――マスター、ネズミが5匹。ギルドを出た時からずっとついてきてるよ」
賑やかな大通りを歩きながら、フェイが楽しそうに耳打ちしてきた。
「お決まりのパターンだな。……よし、ちょっと裏路地に迷い込んだ振りをしようか」
「りょーかい。街のゴミ掃除といくかい?」
俺たちはわざと、人通りのない薄暗い袋小路へと足を踏み入れた。
行き止まりの湿ったレンガ壁に突き当たり、ゆっくりと振り返る。そこには、下品なニヤニヤ顔を浮かべた5人の柄の悪い冒険者たちが、逃げ道を塞ぐように立っていた。
「ヘヘッ、行き止まりだなぁ、お坊ちゃんよぉ!」
「素人が上等な素材と高級な刀、それに極上の女を連れて歩いてちゃあ、カモにしてくれって言ってるようなもんだぜ?」
リーダー格の男が下品に舌を舐めずりながら、腰のナイフをチャラつかせる。実に教科書通りのDQNセリフだ。レベル1の俺は恐怖するどころか、あまりのテンプレっぷりにあくびが出そうだった。
「シルフィ。……一人残せ。街の案内役に使える」
「了解、マスター! たっぷり可愛がってあげるね!」
姿を消していた手のひらサイズのシルフィが、空中から現れた。彼女が小さな両手を広げた瞬間、空間を切り裂く漆黒と緑の混ざり合った暴風――『闇と風の極大魔法』の真空波が、路地全体を怒涛の勢いで吹き抜けた。
ズバァァァァァンッッ!!!
「ギャアアアアアアッ!?」
一瞬にして、前衛にいたDQN冒険者3人が肉片となって弾け飛んだ。路地裏が血の海と化す。
「ヒッ……化け物……化け物だあぁぁぁッ!」
「助け――」
残りの2人が狂ったように絶叫し、腰を抜かして逃げ出そうとしたその時、俺の腰の天之尾羽張様が、またしても自動迎撃システム(安全運転)で作動した。
キィィィィィン――ッ!
空間を無視した神速の一閃。
青白い雷光が走り、逃げようとしたうちの1人の首が、綺麗な放物線を描いてゴロゴロと地面を転がった。
「ひぎゃああああっ!? 首が! 首が跳ね飛んだぁぁぁっ!」
たった1人残された生き残りのDQN冒険者は、血の海の中でガタガタと全身を激しく震わせ、股間から黄色い液体を撒き散らしながら絶望の表情で地面に這いつくばった。数秒前までの威勢はどこへやら、ただの哀れな虫ケラである。
「ひぇっ、相変わらず尾羽張様もシルフィも容赦ないねぇ」
フェイが転がった死体を爪先で小突いて嗤う。
「襲ってきたのは向こうだからな。自業自得だ。……さて」
俺は這いつくばるDQN冒険者の目の前にしゃがみ込み、前世のブラック企業で修得した、とびきり邪悪なスマイルを浮かべた。
「おい、命拾いしたな、お前。命が惜しかったら、俺の質問に正確に答えろ。嘘をついたら、その瞬間に首が飛ぶぞ」
「は、はいぃぃっ! なんでも話します! なんでも言いますから、命だけは、命だけは助けてくださいぃぃっ!」
男は涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、何度も地面に頭を擦り付けた。
「まず、お前たちの所属はどこだ?」
「『鉄の牙』です! この街で一番大手の、A級冒険者を何人も擁するトップクラン『鉄の牙』です! 俺たちはそこの下澄みで……!」
「へぇ、一番大手か……」
俺はニヤリと、本日一番の凶悪な笑みを深めた。
「せっかく稼ぎにきたのに、受付のゴミに難癖つけられて、お前らみたいなDQNに襲われて、挙句の果てに大人の店にも行けない。……なぁフェイ、シルフィ」
「なあに、マスター?」
「この街の一番大手が持ってる金や金品、裏の資金を全部ぶんどったら、俺たち一生、何不自由なく豪華な娼館に通い放題だし、最高のニート生活が送れるよな?」
「「……間違いないね(だね)!」」
銀髪の美女と、手のひらサイズの妖精王女が、俺と同じ邪悪な笑顔で声を揃えた。
「よし。おい、ガイド役。お前が案内しろ。今からお前たちのクランの事務所に乗り込んで、トップの奴らを全員まとめて『ざまぁ』してやる。俺の最強の軍資金(ニート資金)になってもらうからな」
命だけは助かったものの、自分のクランを壊滅させる片棒を担ぐことになったDQN冒険者は、「ひぃぃぃっ!」と悲鳴を上げながら絶望に顔を歪めた。
こうして、レベル1の最弱ニート、アルトによる、街一番の大手クランへの「お礼参り(強奪作戦)」が、理不尽かつ圧倒的なスケールで始まろうとしていた。




