第12話 風の王女をその場でネクロライズ! 『ダークフェアリー(純黒の骨格)』に変異させて妖精族との全面戦争が始まりました
「シルフィ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
静まり返った廃墟の村に、妖精執事の血を吐くような絶叫が響き渡る。
首を撥ねられた風の王女の遺体にすがりつき、執事は狂ったように涙を流していた。
ボアスケルトンの背の上で、俺は冷や汗をだらだらと流しながらその光景を見ていた。
(王女……? 今、シルフィ様って言ったか? おいおい、ただの生意気な羽虫かと思ったら、妖精女王の娘だったのかよ……!)
どこの馬の骨とも知れない他人に森を渡したくない、という彼女の襲撃の動機は、今しがた執事が錯乱しながら叫んだ言葉で理解できた。魔女の後継者テストのつもりだったのだろう。
だが、俺の腰の尾羽張様にはそんな事情など関係ない。主への明確な殺意(風の刃)を感知した時点で、文字通り「即座に首を撥ねる」のが、神殺しの神剣の自動防衛システム(安全運転)だった。
「リッチ、その執事を拘束しろ。フェイ、その首を胴体の横に戻せ」
「御意に、冥界神様」
「う、うん、マスター……!」
エンシェントリッチの強大な闇の魔力に圧殺され、妖精執事は指一本動かせずに地面に組み伏せられる。フェイがガタガタと骨を鳴らしながら、転がっていたシルフィの首を、その死体の首元へとそっとあてがった。
レベル1固定の俺だけど、二度の理不尽な過労死(?)を経て学んだことがある。
起きてしまったトラブルを悔やんでも飯は美味くならない。なら、使えるリソースを全力で使って、我が社の利益(戦力)に変えるまでだ。
「よし……『死霊創生』!」
俺はボアの上から、シルフィの遺体へ向けて右手を突き出した。
ドクン、と『死霊術師UR』のバグ魔力が狂ったように脈打ち、天之尾羽張の神聖な神気と、リッチから漏れ出た超古代の暗黒魔力が複雑に混ざり合って、彼女の死体を包み込む。
ボコボコボコッ! ピキピキピキッ!
それは、これまでのゴブリンや村人たちの反転とは、明らかに一線を画す異質な変貌だった。
彼女の美しい白磁の肌と肉が一瞬で融解し、現れたのは――鈍い漆黒の光沢を放つ、禍々しい『純黒の骨格』。
背中にある四枚の美しい羽は、風の魔力を孕みながらも、どす黒い闇のオーラをチリチリと放っている。
「……あ、あれぇ……?」
カタカタと顎を鳴らしながら、シルフィが立ち上がった。
その顔は、かつての美貌など見る影もない、凶悪で美しい【骸骨顔】。眼窩の奥には、風の緑と闇の紫が混ざり合った、妖しく燃え盛る魔力の炎が宿っていた。
「わ、私、死んじゃったんだ……。っていうか、風の魔力だけじゃなくて、なんだかドロドロした凄い闇の魔力が身体に満ちてる……!?」
【ジョブ:闇と風の妖精】
脳内のシステムログを見て、俺はニヤリと口元を歪めた。
神剣の神気とURのバグ、そしてリッチの超古代魔力が奇跡の融合を果たした結果、ただの妖精ゾンビではなく、属性を反転・拡張させた超強力な『魔法特化型アンデッド』が誕生してしまったのだ。
「し、シルフィ様……! ああ、なんという悍ましい姿に……っ!」
地面に伏せられた妖精執事が、その骸骨姿を見て絶望のあまりに咽び泣く。
「ちょっと、うるさいよ執事。姿は骨になっちゃったけど、私、生きてる時より何倍も身体が軽いし、魔力も溢れてるんだけど? ――あ、それと」
シルフィは骨の顔をクルリとこちらに向け、ボアの上の俺の前に、すとんと綺麗に膝をついた。
「私の完敗だよ、マスター。まさか指一本動かさずに、私の全力の魔法を消し去って首を撥ねるなんてね……。貴方のその底知れない力、認めざるを得ないわ。これからは貴方の頼もしい部下(社畜)として、馬車馬のように働いてあげる!」
「話が早くて助かるよ、シルフィ。我が社へようこそ」
これで欲しかった遠距離魔法アタッカー枠、しかも最高級の「風の王女」を確保した。
だが、満足した俺の横から、ロッドがカチカチと深刻そうに顎を鳴らして進み出てきた。
「アルト様。王女を配下にできたのは喜ばしいですが……少々、なし崩し的に『詰み』の状況が加速している気がいたしますな」
「あん? どういうことだ?」
俺が問いかけると、組み伏せられていた妖精執事が、血走った目で俺を睨みつけながら絶叫した。
「狂人め……! 取り返しのつかないことをしてくれたな! シルフィ様は、偉大なる妖精女王の愛娘! その王女を殺し、あろうことか骸骨に変えて奴隷にするなど……! このことが女王様の耳に入れば、女王様は怒り狂い、この森に住まう数百万の妖精族の全軍を以て、貴様らを一匹残らず肉片に変えるだろうッ!!」
静まり返る廃墟の村。
隣ではフェイが「数百万の妖精と戦争……っ!?」と完全に白目を剥いて硬直している。魔女の後継者になるどころか、森の支配者層を完全にブチ切れさせてしまったのだ。
「……なるほど。つまり、なし崩し的に、妖精族との全面戦争が勃発するってわけか」
俺はふぅ、とため息を吐き、高級な椅子に深く腰掛けた。
レベル1固定の、働きたくない最弱ニート。静かに引きこもりライフを送りたかっただけなのに、なぜか世界を揺るがす大戦争の当事者になってしまった。
だが――俺の背後には、何億年も生きてきた伝説の化け物、エンシェントリッチが控えている。
リッチは骨の顔を凶悪に歪め、背後に広がる【百万の超古代アンデッド軍団】の封印をジワリと解放しながら、愉しげに杖を鳴らした。
「ククク……冥界神様。数百万の羽虫どもが、身の程知らずにも我らが神に牙を剥くと言うのですか。……ちょうど良い、我が百万の軍勢の『慣らし運転』の相手になってもらいましょう」
「我が刃も、久々に神以外の首を大量に撥ねたがっておるわ」
腰の天之尾羽張様も、脳内で邪悪にケラケラと笑う。
「……よし、シルフィ、リッチ」
俺は腹一杯に満たされた極上肉のパワーを感じながら、不敵な笑みを浮かべた。
「売られた喧嘩だ、我が社の総力を挙げて買い取ってやろう。妖精女王だか何だか知らないが、俺の快適なニートライフを邪魔するゴミ野郎どもは、全員まとめて『ざまぁ』してやる。百万の軍勢を全面展開しろ! 妖精族を全員、我が社の新入社員にしてやるぞ!」
「御意のままに、我が偉大なる冥界神様ァァァッッ!!」
エンシェントリッチの咆哮とともに、村の周囲の空間が次々と引き裂かれ、超古代文明の漆黒の骸骨騎士たちが地平線を埋め尽くしていく。
レベル1の最弱ニート、アルト。
本人の意思とは裏腹に、世界最強の不死の軍勢を率いた「妖精の森の征服戦争」が、今ここに幕を開けるのだった。




