5 最悪の未来
5話を投稿します よろしくお願いします。
グラン通りで二人、ユウヤとレックスは聖剣泥棒の犯人について、考え込んでいた。
「お前のことだ、何かもう見つけてるんだろ?」
ああ、といいレックスは話を始めた。
「王都じゃ今、聖剣泥棒についていろんな噂が流れてる」
「まず、市場に売られたって説だが、これは俺がもう調べ尽くした。ていうか公式の市場でそんなもんを売ってる奴がいたら、とっくに衛兵のご用になっているとは思うがな」
「次に王都外に逃げたって話だが……」
レックスは門へと視線を向けた。
「あれ、見てみろよ」
門前の通りには行列が並んでいる。衛兵が一人一人を引き留めて荷物を確認している。
「逃げられると思うか?」
荷馬車も旅人も商人も、例外なく検査を受けている。聖剣は大人の背丈ほどもある巨大な剣だ。
隠して運ぶのは容易ではない。
「無理だな」
「だろ?」
レックスは頷いた。
「もちろん絶対じゃねえ。賄賂だの変装だの方法はいくらでもある」
「だが、聖剣が盗まれた直後から検問は強化されてる。リスクが高すぎるんだ」
「じゃあ、まだ王都にあるのか?」
「俺はそう見てる」
レックスは腕を組んだ。
「問題は誰が盗んだかだ。王宮の警備を突破して、あのでかい剣を持ち出す、絶対素人の犯行じゃねえ……」
ユウヤは黙り込んだ。
未来の記憶では、聖剣は魔王の手に渡っていた。
だが、そこへ至る過程は分からない。
誰が盗み、どこへ運び、どうやって魔族の手に渡ったのか。
肝心な部分が抜け落ちている。
「どれも決め手がねえのが、今の状況だな」
「中には魔族が裏で糸を引いてるなんて与太話もあるくらいだ」
ははは、と彼は力の無い笑いをこぼした。
「魔族……」
「なんだ?心当たりがあるのか?」
ユウヤは知っている。
未来で聖剣を握ったのは、魔王だった。
未来で見たなんていう話を現実主義のレックスが信じてくれるだろうか。
(でも……)
お前を信じる。その言葉が、ユウヤの口を動かした。
「魔族だ。この犯行は魔族の仕業だ。これは間違いない」
「は……?」
レックスの眉が動く。
「お前、それ、根拠は?」
「未来で見たんだ。魔王が聖剣を持ってるところを」
怪訝な顔をするレックス。
「未来?」
「っていうと、明日とか来年とか、そういうやつ?」
「そうだ」
真っ直ぐな目でユウヤはそう答えた。おかしいのは分かっている。だが、本当だ。本当に見たんだ。
「は……、」
「……ぶわっはははっはははは!!!」
通りに響く笑い声。どうやら俺の真面目な顔がツボに入ったらしい。
ユウヤは眉をひそめた。
「いや無理だろ!」
レックスは腹を抱えながら言う。
「未来を見たから魔族の仕業ですって、お前……!」
俺は真面目な顔をして、必死にレックスの顔を見つめる。
「本当なんだ」
笑いから少しずつ、異常を感じたレックス。
すん、といつもの鋭い目つきを取り戻した。
「でもお前、いつもと少し様子が違うよな。さっきも急につかみかかってきたしよ」
「すまん……あれは取り乱したな」
ユウヤは先ほどの行動をわびた。
「……まあ、お前がそれだけ本気ってのは分かったよ」
「信じがたいことだけどよ。お前は未来を見てきたわけだ」
「ああ」
「じゃあ教えてくれ、お前の身に何があった?」
そしてユウヤは口を開いた。
「俺はこれから十年、聖剣を探して世界中をさまようんだ。そして、魔王に殺される。聖剣を持った魔王にな」
レックスの表情から完全に笑みが消えていた。
「それがお前の見た未来だって言うのか?」
「ああ」
レックスは腕を組み、しばらく黙り込む。
「……十年?」
やがて引っかかったようにそう呟いた。
「……じゃあお前、昨日無くなったもんをこれから先、十年もさがすのか?」
「そうなるな」
その言葉にレックスは少し悲しそうな顔になった。
「じゃあ聖剣は見つからなかったんだな……」
聖剣が見つからない。
それは地下街の終焉を意味する。
だが、あの時レックスは笑っていた。
「いや。それが……」
ユウヤは言葉を詰まらせた。これだけがどうしても引っかかる。
「聖剣の儀は予定通り行われたんだ」
「は?」
レックスが固まる。
「待て待て」
「じゃあ、聖剣見つかったってことじゃねえか」
レックスの目が少しだけ明るくなる。
「おそらくな。俺はその間、山で合同訓練に行っていたから王都のことはよくわかんないんだけど……」
ユウヤが覚えている限り、あの剣は確かに手元にあった。
だからレックスが横で笑っていたんだ。
「だからレックス。聖剣は必ず見つかると思うし、泥棒も一応は捕まえられると思うんだ」
レックスはじっとユウヤを見つめた。
「……それって矛盾してるよな」
レックスは指を一本立てた。
「聖剣は見つかる、犯人も捕まる。だが、お前は十年探し続けた……普通なら事件解決で終わるはずだよな?」
まさにそれがユウヤの気になることだった。
「そう。そこなんだ」
二人を待ち受ける最悪の未来はここから始まる。
「でも、二週間後の聖剣授与式に王都は崩壊した。俺が覚えてるのは灰になったこの街と死体の山だけだ」
その言葉にレックスは瞳孔を開いたまま、しばらく何も言えなかった。
「全員、死ぬのか……」
「ああ。地下街の人だけじゃない。全員死ぬ」
レックスは何も言わなかった。いつもなら軽口の一つでも飛ばしてくる男が、ただ通りの向こうを見つめている。
買い物袋を抱えた主婦とはしゃぎ回る子供たち。露店の店主の威勢のいい呼び声、どこにでもある王都の日常。
それが全て失われる。
そんな話を、簡単に受け入れられるはずもなかった。
やがてレックスは小さく息を吐いた。
「信じらんねえが、あれ見るとそうも言ってられねえよな」
グラン通りはいつものように賑わっている。だがその通りに一つだけ異物がある。
レックスの視線の先には中央広場で演説をする人。黒いローブを着た怪しい男女の集まりが大きな声でこの世の終わりについて語っている。
内容はくだらない陰謀論が主体だが、結構の人数が集まっている。
「ああいうのに人が群がってるのを見ると、何かきな臭い空気がするよな……この世の終わりじゃねえかって思うよな。最近見回りの衛兵も増えたしよ」
と、彼はこぼした。
(……気づかなかった)
一度目の人生には気づかなかったが、この街の空気は確実に終わりに向かっていたのか、と恐怖した。
「お前の未来。俺は信じるぜ」




