37 幸せ
37話を投稿します よろしくお願いします。
……視界に靄がかかっている。
楽団の音色が高らかに鳴り響いている。その音色が俺を特別な場所にいるのだということに気づかせる。
視界の前には台座に突き刺さった黄金の剣。
アルフレッド王が王座から見ている。儀礼用の純白のマントに金の王冠。威厳を感じるがどこか質素な印象を受ける。その飾らぬ姿こそ、賢王と呼ばれている所以であろう。
その側には大臣と、色とりどりのドレスを着た貴族たち。犬猿の仲の彼らも今日だけは貼り付けた笑顔を浮かべている。
そしてレックス、セバス、フィナが俺の背後で剣を掲げる瞬間をどこか誇らしげに待ちわびていた。
広場の回りにはたくさんの人だかりが出来ている。異様なほどの熱狂が台座の近くからも伝わってくる。リリアと母が近くで手を振っている。その笑顔が俺の凝り固まった手指をすこしだけ緩ませた。
震える手のひらをどうにか沈め、台座の剣に触れた。五指が柄に触れる。そこから伝わる重厚な感触。俺が力を込めた途端、ずずずっ、と剣が動く。
重い。その重みは、単純な重みだけではなく、国を、そして世界の命運を一手に背負うかのようであった。
そして、剣がついに台座の封印から解き放たれた。
俺は剣を掲げた。
プツン。
途切れるように、風景が流れていく。
焼けた王都に叫ぶ人々。広場には血が流れている。
レックスは動揺してその場から消えてしまった。
セバスは血を流しながら、必死に叫んでいる。
そして、
首がないフィナの姿。
ジジジ……
そのとき、後頭部に鋭い痛みが走る。視界が不安定になる。世界が回る。視界がかすむ。
誰かが何かを言っている。
『……とは、愚か……だ』
光景がブツリ、と消えた。
その後目に映ったのは、すべてが塵と化した廃墟であった。
「ユウヤ……ユウヤ……」
「はっ……!!」
目を覚ました。そこには心配そうな顔をしているフィナの姿。
「フィナ!!」
「えっ……ひゃっ!!」
手が伸びる、あの日届かなかったものに精一杯伸ばすように。細い肩、細い腕、それらを逃がさないように、強く、力強く、抱き寄せる。
気づけば俺は、フィナのことを抱きしめていた。両腕の中にはしっかりとした生命を感じる。あの日、確かにフィナは死んでいた。だが今、確かに生きている。
そう思うだけで胸が張り裂けそうだった。
それだけで、この朝は何よりの祝福に思えた。
次は絶対に、絶対に逃がさない。宝物を奪わせてたまるものか。
フィナが困惑している。
「ねえ、苦しいんだけど……」
「お兄ちゃん!!ご飯出来たよーー!!ってええ!!」
ゴホン、とフィナが咳払いをしたところでユウヤは正気に戻った。
「……ごめん」
「まあ、それはそうと、ユウヤ。昨日は助かったわ」
と、フィナが笑みを浮かべる。彼女の群青色の髪とも相まって、実に彼女らしい知を感じさせる。
「あ、ああ。いいんだ。気にするな」
昨日の泥酔したフィナを思い出して一瞬笑いそうになったがどうにかこらえた。
気にするな。そうはいったものの、気にしないなんて無理な話だ。俺の視線は、客用の部屋へ向いた。そこにはは雑巾とバケツが転がっていて、床は見違えるほど綺麗になっていた。
使っていないほこりまみれの客間だったのだが。
「リリアさんもごめんね、本当」
「いいよいいよ。ユウヤが家に女の子連れてくるなんて初めてだもん」
リリアがニヤニヤした顔でこっちをしきりに見てくる。こっちを見る目がやけに痛く刺さる。
フィナは深々と礼を下げた。母にも礼を告げて、俺たちは次の行動を開始することにした。
「幸せな未来のためだもんね!!今日も頑張ってね!!」
またリリアが余計なことを言う。フィナの顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。
だが、俺は少しだけ笑みを浮かべた。
……まあそれは大体合っているかもしれない。と。
続く
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