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35 平民街を歩く

35話を投稿します よろしくお願いします

王都ヴェルクロアの夜。

夜はさらに更け、グラン通りの祭りも静かな空気に変わっている。

城壁にぴったりくっついて座っている二人。


「おい、フィナ……」


「……ムニャムニャ」


勇者ユウヤは困った。

フィナは酔い潰れてしまったのか、何をやっても起きる気配がない。


「どうしよう……」


よく考えたら、フィナは今どうやって暮らしているのかよく分からない。フィナに両親はいない。この子は俺が十の頃に急に街に姿を現した。


確か昔は教会に預けられていたはずだ。


現在は魔導院で暮らしているのだろうか。それとも宿舎があるのだろうか……。


この気持ちよさそうに眠るこの少女には答えるすべなど無かった。


ここは王都を囲む城壁の縁。

城門沿いに歩けばすぐに平民街がある。

そこから王都を貫くグラン通りが中央の教会広場まで真っ直ぐ伸びて、そこから東に魔導院がある。


魔導院に行くにも教会に行くにも、もう一度グラン通りを突破する必要があった。


女の子一人を担いであの人混みをかき分けて行くのはかなり厳しいだろう。


「帰るか」


うん。それが一番安全だ。平民街はここから一番近く、通りはあまり横切る必要が無い。俺はフィナを負ぶって自宅に帰ることにした。


こんな時間で家族には悪いが、事情を話せば分かってくれるだろう。


「よいしょっ……と」


フィナを担ぎ上げ、平民街を歩くことにした。


風が流れていく。


平民街も祭りの熱気に浮かされているものの、今は落ち着いてきている。


早々と掃除を始める者。酒場で飲み明かすものたち。夜なのに治安が悪い、といえばそうなのかも知れないが、自分にとっては懐かしい街の風景だった。


「おや、ユウヤじゃないか!!」


近所のパン屋のおじさんが笑顔で手を振る。

……しまった。仮面をつけ忘れていた。会釈して去ろうかと思ったが、でもまあ、少し会話するだけなら、考え直した。


「どうも」


「今日は祭り楽しんだか?」


「ははは。まあ……」


おじさんはふと、ユウヤが担いでいるもう一人の人物に気づく。


「女の子かい?ユウヤくんも隅におけないねえ」


「いや、そんなんじゃないっすよ」


月明かりがフィナを照らす。月に照らされた青髪がさらさらとなびいている。

おじさんはユウヤが担いでいる女性の正体に気づいた。


「その子……」


「祭りで飲み過ぎただけです」


「あ、ああ……そうか。……気をつけて帰れよ」


それだけ言うとおじさんは店の中へ引っ込んでいった。


ユウヤはその後ろ姿を見ていた。


……フィナを怪物だと思っている人は多い。その反応は普通なのかもしれない。


俺は仮面をつけ、再び歩き出した。



人々の声が聞こえてくる。


「地下街の奴ら、また暴れたんだろ?」


「勇者様が活躍したんでしょ!?」「そうそう」


「病気、まだ流行っているらしいよ」「やっぱり聖剣が盗まれたから……」


街を歩くだけでもこんなに不安の声が聞こえる。

一度目の人生の俺はこの王都の情勢を全く知らずにのんびり生きていた、ということに気づかされる。


歩き続け、やがて石造りの住居が見えてきた。


……ようやく自宅にたどり着いた。


「ふぅ……」

俺はつけていた仮面を外した。身を隠すのにも疲れる。

これをかぶり続けるのはなかなかに息苦しい。






「あ、お帰り!!」




元気な声とともに待っていたのは妹リリアの声だった。


続く


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