32 夜店と二人、初夏の思い出
32話を投稿します よろしくお願いします
王都ヴェルクロアのグラン通りではいつも以上の賑わいであふれかえっていた。年に一度開催される豊穣祭。その最中だったのである。
火を噴く魔除けの神輿に、空に浮かぶ光るランタン、老若男女問わずものすごい人だかりであった。
今や勇者ユウヤは王都では有名人。正体を気づかれれば騒ぎになる。ユウヤはフィナからもらった狐面をかぶり、正体を隠しながら捜査を進めるのであった。
その中で、とある的当ての屋台。何の変哲も無い平凡な屋台にはとても似合わないその置物に勇者ユウヤとフィナは目を引かれていた。
「まじか……」
黄金色に光るその王家の紋章の細工にユウヤは見覚えがあった。
一度目の人生では死の直前に見た。そして、二度目の人生ではそれを追いかけて王都を駆け抜けた。地下街での捜索、教会の激戦を経てようやく手に入れた代物。
だが現状、それはあり得ない数がフィナの手によって発掘されていた。偽物かもしれない、という仮説を先ほど聞いた。
「やっていくかい?一回五百ヴァルだ」
あれはおそらく偽の聖剣だろう。
しかし、フィナは聖剣の偽物が集まればいずれ犯人にたどり着けるかもしれない、と言っていた。
聖剣とおぼしきものはすべて拾っていく。罠だろうが偽物だろうが、すべて踏み抜いていく。そう、全力でだ。
ユウヤは懐から小銭を取り出すと、その勢いのまま台に叩きつけた。
「やらせてもらおうか」
子供用のお祭りの屋台に異様な緊張感を放つユウヤとフィナ。
屋台のおじさんはユウヤが発するただならぬ空気に、少し引きつつも、笑顔で対応する。
「お、おう。威勢がいいねえ、兄ちゃん!」
ユウヤは弓を手に取り矢を引いてみる。
「さ、この的に当たれば、くれてやるぞ!ほら、打った打った!!」
最上段の景品は、一番遠くの的を当てる必要があるみたいだ。
石弓についた墨を的の中心に当てる。おそらくそれだけのことなのだが、その中で多くの矢が障害物に当たり転がっていたり、無念にも中心に当たらずに逸れてしまっている。
「弓なんて使ったことあるの?」
「まあ、少しだけな」
ユウヤは弓をつがえた。真っ直ぐ、狙いを定める。
頭からつま先まで、一つの線になるように立ち微動だにしない。ユウヤの流麗な構えは、腕、肘、そして指先までもが、的という一つの中心に向かっているようであった。
そして、そっと指を離す。
シュッ、という音とともに、ユウヤのつがえた弓から矢が放たれる。
「ずれたか……」
しかしその矢は狙いをはずれ、わずかに逸れる。
矢が軽すぎる。狩猟で使うような重い石の鏃と違ってこの矢は軽石で出来ており、重心が全く違う。
弓本体も小さいため弦を力一杯引き絞ることが出来ない。そもそも、わずかに弓の曲線を曲げて真っ直ぐ飛ばないように絶妙に改良した跡が見える。
ユウヤはチラリと男の顔を伺う。男はただ飄々とした笑みを浮かべていた。
屋台の親父め。なかなか味な真似をしてくれるじゃないか。
弓を使ったことは少し、というのは語弊がある。
俺は前世にて十年戦い続けた記憶がある。国が滅ぼうと、呪いにむしばまれようと、戦い続けた。崩れゆく世界の中、失った聖剣を探し続けていた。無論それがなければ魔を斬ることが出来ないからだ。
そのときには武器になどこだわっている暇はなかった。落ちているものは何でも使った。剣がよく使う武器ではあったが、弓だって使うこともある。
その蓄積をもってして、当てて見せよう。
「ふん!!」
まず、ユウヤは力一杯ゆがんだ弓に力をかけた。
ぐぐ……と形が矯正される。
「おお……」
それまで余裕顔で見ていた屋台の親父が目を見開く。
その行動にフィナが驚いた。
「え……?あんた、お店のものになにしてんの!?」
フィナは頭はいいが、世間知らずだ。こういった知恵も時には必要である。
「いいや、これでいいんだ。この弓はそもそも真っ直ぐ飛ばないように出来ている、だから少し手を加えた」
フィナが屋台の親父をキッとにらみつけた。
「……どういう了見かしら」
しかし男はその笑顔を崩すことはなかった。
「おお、いいぜ!壊れない分には何してもらってもかまわない」
ユウヤは再び弓をつがえた。
ひゅっという鋭い音とともに二度目の矢が飛んでいく。
……先ほどよりも明らかに真っ直ぐ飛ぶようになった。
「あれ」
だが当たらない。
矢はきれいに飛ぶものの、的に近づいた途端、矢は逸れる。一本、また一本と矢が消費されていく。当たらない。本当に当たらない。
みるみるうちに矢が無くなっていった。
「さあ、最後の一本だぜ、兄ちゃん」
まずい。後がなくなってきた。
また支払って何発も打つ、という手も考えたが、弓を矯正するという奥の手を見せた今、男は笑顔で見ているが、ユウヤが最後の一本を外した瞬間、閉店だ、とかなんとか言ったりして逃げられる可能性もある。どうにかこの一本で決めたいところだ。
その些細な軌道を横で見ていたフィナはつぶやいた。
「そういうことね」
ビュウウウウウウ!!
瞬間、嵐にもにた突風がフィナの辺りに走る。
「うわ!!」
屋台の骨組みがきしむ。強風にあおられて吹き飛ばされそうだ。人間でさえも、油断をすれば飛ばされるかもしれない。
観衆の目が屋台へと向く。
「あなたも使ってるようだから、お互い様よね」
フィナの手から繰り出される突風は収束しさらに威力が強まる。竜の息吹にも似た突風が走る。それは屋台を少しずつ削りながら、一直線へ的の方へ向かっていた。
「やるじゃないか……」
男はただ、崩れかける骨組みを押さえながらその笑顔をさらに強めるのであった。
もうどこに放っても当たるだろう。ユウヤはその迫力に少し困惑しながらも、そっと矢を放った。
ドカアアアアアアン!!!という到底矢を放っただけとは思えない衝撃音とともに、中心へと射貫かれた。
「お前たち、さすがにやりすぎだろ……」
男があきれた顔で二人を見つめる。屋台が崩れてしまった。
「おじさん、ただ者じゃないわね……」
「お前たちもな、ったく……」
崩れた屋台骨を修復しながら、男はあきれたように答えた。
「……昔、外国で傭兵団の団長をしてたんだよ。屋台は戯れで開いてるんだ」
第二の人生ってやつさ。と笑った。
通りであの繊細な風の操作や弓の調節加減ができるわけだ。やり過ぎると詐欺を疑われてしまう。だが弱すぎると簡単に景品を取られる。
だが、あいにくこっちも二回目なんだ。とユウヤは内心ほくそ笑んだ。屋台の親父は知るよしもないだろう。目の前の狐面の青年がその実、本当の意味で二度目の人生を開始した熟達した戦士であることを。
「今まで俺の細工に気づいた客はいなかった。若いのによくそこまで……」
「お前たち、うちの傭兵団に入る気はねえか?俺が用立てれば入れるはずだ。きっとすげえ戦士になるぞ」
男は勝負に敗れたにもかかわらず、けらけらと笑っていた。
「いや、それはちょっと遠慮しておくよ。旅の途中なんだ」
と、ユウヤは仮面をとる。
それを見た男の口からは乾いた笑みがこぼれた。
「は、っはは。降参だ。そりゃとられちまうわけだな」
もっていけ。と、金の置物……聖剣の鍔であるそれを手渡された。
「横の彼女さんともうまくやれよ。勇者様」
「は……!?」
フィナの大きな声が路頭に響いたのであった。
初夏の生暖かい風が闇に溶ける。
「あー!!楽しかった!!」
フィナが満足そうに大きく伸びをする。
俺はそんなフィナを横目で見ていた。
フィナは祭りは一度しか来たことがないと言っていた。実際ユウヤとフィナは幼いころからこの年月になるまでほとんど顔を合わせたことがない。
彼女はその有望さゆえ、その人生の時間のほとんどを魔法の研究に費やしたはずだ。こんな庶民の場所に来る暇など無かったのだろう。
俺が王都でまた失敗すれば、あと二週間でこの子は命を落とすことになる。そのためにも聖剣捜索、そして偽聖剣の犯人を一刻も早く追う必要はあるのは本当だ。
だけど、もう少しだけ……。
口を衝いて出るようにユウヤはその言葉をつぶやいた。
「もう少し、遊んでいこうぜ」
ふふ、とフィナがその整った顔をほころばせた。
「ユウヤ、まだ遊び足りないの?」
お前のためなんだけどな……、と微妙な心境のユウヤ。でもこうやって言わないと、フィナのことだ。自分から遊びたいとは言い出せないだろう。
「ええ、いいでしょう」
二人は少しだけ回り道をした。
本当は聖剣を探さなければならない。そのことをユウヤの脳内には常に浮かんでいた。
自由がない。
勇者としてその使命を全うするユウヤも研究者としてのフィナもその点似たもの同士なのかもしれない。
だが、今は何も考えず年相応の二人として。
「今日はぱーっと行くわよ、ユウヤ!!」
暗くなり始めた煌めく路地を二人は歩き出した。
確かにそれはかけがえのない思い出の一つになるのであった。
続く




